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1話目-2部

パチパチッと木が爆ぜる音がする。

持っていた残りの食事も食べ終わり、今は獣の肉を焼いている。喉の渇きは獣の血で補った。

そうあの小さな獣が倒した中型の獣の肉。本当は水があれば良かったのだが、ここは深い森の中そして最奥の荒野と呼ばれる。

魔獣の他は何も無い魔樹の森、水があったとしても飲めるようにするにはいくつかの工程をしなければならない、ならば獣の血で喉を潤した方が手っ取り早い。魔樹には毒素が多く、ここに生きる獣はその毒素に耐性のある獣だ、当然その血は毒素の影響を受けているが、耐性のお陰か毒素は無効化されている。それを知っていたからこそ飲めたのだが、知らん奴は水辺を探して魔樹の毒素入りの水を飲んで死に至る。人間なんかはここに入るだけでも困難で滅多に人は来ない、好んでくる奴は大抵が死にたがりか変わった変人くらいだ。

「そろそろ焼けたか?」

木の棒に刺した獣の肉がジュウジュウと音を立てていい匂いを漂わせている。

「お前も食べるか?」

ポイッとほおったその場所には肉食獣の子供が親の側から離れずに身体を丸くして目を瞑っていた、焼けた肉の香ばしさに子供は薄っすらと目を開けて疑わしそうに私を見る・・

可愛くない--

そして焼けた熱い肉に鼻を近づけて匂いを嗅ぐと肉に噛みつくのではなく、棒の方を咥えてズルズルと親の口元へと運び舐めまわす。

もう死んで数日は経っていて、腐りかけの匂いが染み出してるだろうに・・

気づかないはずはない--

その傍らにはあの小さな獣も横たわっている。

死んでいるのか?--

私に親を葬ってくれと頼んできた小さな獣、親の死を分からせてやって欲しいとも頼まれた。

なぜ私が--

死んでいるように思える小さな獣は微かだが息をしているようだ、傷は次の日にはほぼ完治の状態でその傷の治りの速さに私は一瞬驚きと共に目を見張ったのを覚えている。だが、小さな獣に近寄ろうとすると肉食獣の子供が唸り声をあげて威嚇するので介抱は諦めた。

と言うか一日で傷が治るなんて異常だろ--

私はそのままこの場所で数日を過ごしている、食べ物は中型の獣があるし、生で食べれば血も少しはすすれるので喉を潤すことも出来る、一石二鳥。そんなこんなでここ数日親の死体とその子供そして小さな獣と過ごしていた。

次の日の朝、ふと見ると昨日焼いた肉が少し減っている。

肉食獣の子供が食べたんだろうか?--

自分の空腹に耐えられなかったのかもしれない。それからは肉を焼いてほおれば、肉食獣の子供はその肉を漁るように食べ始めた。もう親に肉を食べさすのを諦めたかのように・・

私はあの小さな獣の言葉を叶えるつもりはなかった、ただ肉食獣の子供の親をそのままにしておくのは何となく気が咎めたから--だから私は立ち上がり親元に近づく

「ねぇあんたの親、土に返してあげようと思うけど」

亡き親のそばでその身に手を置いて子供に言葉をかけると、肉食獣の子供は唸り声も上げず意外にも大人しく私の言葉を聞いていた。

死んだ事を理解したのか?--

土を掘り大きな穴を造る。大型の獣が入る程の穴に親を寝かせ、その上に土をかけていく多分本能で親が死んだ事を悟ったのかもしれない。

土をかぶせ終わり私は声を掛けた。

「これでいいんでしょ?」

返ってくるはずのない言葉に、思わず溜息が出た。

バカみたい私--

小さな獣はあれから目を覚まさない。

虚しく空に消える声に私は目を閉じた。

「ありがとう」

--ん?

返ってくるはずのない私の言葉に返事が返ってきた。

顔を向けると、ちょこんとお座りしている小型の獣。

「あんた!目が覚めたの?!」

「すまないな、二日前から様子を見させてもらっていた」

「はぁ?」

二日も前に意識が戻っていたの?!それなのに黙って様子見してた?!ウソでしょ!

「君は僕が思っていた通りの優しい人だった」

「えっ?何言ってんの?」

「君の姿を見るに、人狼かな?人との混血だろうか?」

人の形に耳としっぽが生えている私の姿を見て獣が言った。

「冗談じゃない!人狼は人狼でも人との混血じゃないわ!!私は人の姿にもなれる狼狼族よ!」

彼女の髪は灰色で、長く伸びた髪を揺らした。

「そうか、それは済まなかった。だが人との混血の人狼も皆一様に可愛いからな」

笑顔で言う小さな獣は人懐っこい優しさを秘めた笑顔でそう言った。

「冗談じゃないわ!人との混血と私達狼狼族を一緒にしないで!それにアイツら可愛さなんて微塵もないわよ」

「おや?人狼は嫌いか?」

「人間が嫌いなのよ!アイツら弱いくせにふてぶてしくて、自分達が一番だと考えてる!憎らしいくらいよ!」

「・・そうか」

少し寂しそうな瞳をして言葉を返す小さな獣。私達のやり取りに顔を傾ける肉食獣の子供を見て小さな獣は子供の前に座り直しそして子供の目をジッと見つめる。

なにか話してるようにも思えるその仕草に私はただ押し黙ってしまった。

「クルゥ〜」

「では行こうか」

「えっ?」

「この子の親を探しに、それと一人で狩りが出来るようになるには僕達が教えてやらなければならない」

「僕らって何よ?!もしかして私もそれに付き合えって言うんじゃないでしょうね?」

「そうだが?」

「あ、あのね、私はこの子の親を埋葬してあげたんだからこれ以上貴方達に付き合う義理はないわ!」

「君は何か目的があってこの森にいるのかい?」

「そ・・それは・・」

言い淀んでしまった。

何か目的があって来たんじゃない、彷徨い歩いている内にたまたま足がこちらに向いてしまっただけだ、とは言えない。

何か上手い言い訳を--

「私は・・私はこの魔樹のけ、獣相手に力をつけるために、修行をしに来たのよ!」

とんだ言い訳もあったものだ。

とっさとはいえ修行なんて意味不明だ、ここにいる魔獣たちは大抵がランクが高いモノばかりで私が倒せるのはあの中型の魔獣くらいだ。ランクは多分C、それ以上となったら本来の姿に戻って全力で挑まなければ絶対に勝てない。

あとは逃げるか--

「じゃ、そういう事で・・」

「なら僕がその修行の手伝いをしよう」

手を上げてその場から立ち去ろうとした私を意外な言葉が引き留めた。

「は?」

一瞬何を言われたのか困惑した、私が呆然となるのは言うまでもない。

いやいやいや、どう見ても弱い部類の小型の獣

その獣が修行を手伝うって何の冗談?!

まあ確かにあの中型を倒した攻撃は見事だったけど、見る限り私が本来の姿になればいとも簡単に倒せそうなひ弱なチビにしか見えない。

しかし、にっこりと良い笑顔を見せる小さな獣。その笑顔はどことなく好感が持てる、顔も悪くない、言葉遣いは丁寧だし、優しい口調。

もしかして人になったらかなりいい男だったり?いやいやチビだし、人になってもどうせ子供の姿でしょ・・でもこれで成獣って事もあるかもよね、大人っぽい感じだし、落ち着いてる感じもする・・

ただ、醸し出してる雰囲気が少し異様な気がするのは気のせいだろうか?

「あ、アンタさぁ人になれたりするの?」

「人にならなくても修行は出来るぞ」

「・・ハハハ」

こいつの事を少し聞きたくて話を振ってみたが無駄だった。

修行の話は置いといて、アンタが何者か知りたいんだけども--

とは思ってもそれを口に出す事は出来なかった。こいつのあざとさが見える笑顔に私の言葉が飲み込まれたようだ。

「とにかく、なんで私が貴方達に付き合わなきゃならないのよ」

私は気持ちを引き締めて反論した。

これでどう出るか--

「君に興味がある」

えっ・・ドキリと胸が鳴った。

相手の意外な言葉に私は動揺してしまったのだ。一瞬で顔は赤くなるし、言葉が出てこない。それなのに小さな獣とはまるで青年と話してるかのような錯覚に陥る。

「興味って何よ!あんたまさか!」

私は慌てて言葉を言い放ったが

「君のように人の心を持ち合わせた純血種を見たのは初めてだ、だから君ともう少し一緒にいたいとそう思っての提案だ」

小さな獣はなんて事ない言い草でそう言った。その言葉に一気に身体の力が抜ける。

提案って、最初の言葉は提案じゃなくて強制って言うんですけど--

ハァと息を吐く。

小さい獣からの急な告白〜と思いきや何てことはない、ただ純血にしては変わった考えの持ち主だと言われただけだ。

それって私が変人だって思われたってこと?!--

こいつ私をバカにしてるのね、いいわ付き合ってあげようじゃない!その考えも私をバカにした態度もそして本当の強さってものも教えてあげるわ!

こうして私達三匹の旅は始まりを告げた。

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