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3話目-5部

少女は自分の苛立ちが先生に対する恋心だと知っている、だからあからさまに顔に出るのだ。

いや態度にも出てるからね。

要らぬツッコミはいらないって?--まぁまぁ

少女はその苛立ちを胸に秘めながら匂いの元へと急ぐ

「『早く会って先生に私の気持ちを伝えなくちゃ』」

一歩一歩という感じで先生の元へと近づくが、ここは魔樹の森そう簡単にはいかないのである。・・だが


不意に何かの気配を感じてセイは振り向いた。

「どうしたの、セイ?」

「いや今何か懐かしい気配を感じた気がしたのでね」

「懐かしい?人間?!じゃないわよね、この森に人間が入るなんて自殺行為だし、だったら魔獣?かしら?」

「さて、まだ分からないな」

匂いを探ろうとするが風向きが悪いのか匂いでの判別は難しい感じだ。なのでセイは気配を探ってみることにしその範囲を半径5mに絞り込んだ。

「『この微かな感じは』・・ナスカ、ちょっと森の中ほどまで戻っていいか?」

「えっ構わないけど、どうしたの?」

セイの顔付きが少し変わっている、何かを補足したような心配顔だ。

そんな顔は珍しい。いつもはキリッとしてるような顔なのに何故か今は落ち着いていないそんなふうに見える。ナスカの目と感は当たっていた、セイは昔の懐かしい感じに覚えがあったのだ、微かだがここから離れた所にその感じはある、それに向けてセイとナスカは行き先を決めた。

「ナスカ、走るぞ」

「いいわよ」

ナスカはセイを追うように走り始めた、魔樹の森の中を縦横無尽に走るその姿は風をまきあげ影になる、セイは全力ではないもののやはりフェンリルとありその速さは尋常ではない、だがナスカはその速さに人の姿でありながら追いついていた、これも修行の賜物だろう。そしてナスカは念話で話す。

「《セイ、何をそんなに焦ってるの?》」

「《間違いであって欲しいが、昔訪れたことのある魔獣の住処にいた時と同じ気配と匂いがする、だが彼等の力ではこの森は少し危険なんだ、勘違いであればいいが・・》」

セイが暴れていた頃かしら?それとももっと前か後?にしても、この魔獣の魔樹の森の中でその気配や匂いが分かるなんて、やっぱりセイはフェンリルなのね、桁違いに鋭いわ。

途中、高ランクの魔獣に遭遇するもそれを避けて私達は進んだ。

「《こっちだナスカ》」

「《ついて行ってるわよ》」

心配性なんだかはぐれるとでも思ってるのかしら?愚問だわ・・それともここで逃げ出すとでも?

「《セイ、要らぬ心配はしないで欲しいわ、私にもプライドがあるんだから》」

「《そうか》」

セイは言いかけた言葉を飲み込み匂いの元へと急いだ。二つの影は鬱蒼とたつ木々をすり抜け駆け抜けてゆく、それからしばらく走ってると遠くに一つの影を見つけた。

「《ナスカ、あの影が見えるか?》」

セイが言う影をナスカは遠目で視認する。

するとそこには一人の少女が木々の影をつたいながら歩いていた、だがその後ろに一際でかい影が近づこうとしているのが見えた。

「《セイあの子、後ろの魔獣に気づいてないわ》」

そう、少女の後ろからやってくるのはAランクの魔獣、もう後五メートル程で魔獣は少女を捉えることが出来るのだ。

「《ナスカ、僕が魔獣を相手にするから少女の方を保護してくれるか?》」

「《わかったわ》」

そう言うとセイは一気に速度を早めた、黒銀の一筋の光が流れそれは少女の横をすり抜け魔獣へと迫る、少女は突風に晒され思わず目を閉じそして風がやむとそっと目を開けた、そこには一人の女性が立っており何かから自分を守るような体勢で少女の後ろを警戒している。

セイは魔獣の肩から背にかけて薄皮の皮膚を裂いた、それに対して魔獣は目標をセイに向ける、ただしそれは一瞬の事セイは風魔法に爪の斬撃を乗せて魔獣を切り裂き威圧を込めて睨みつける、それだけで魔獣は戦意を失ったかのように逃げていったのだ。

「《セイは甘いわね》」

「《こればかりは治らないらしい》」

苦笑いを浮かべながらセイはナスカに答える。

それを聞いたナスカも柔らかな笑みを浮かべて

「《しょうがないわよねセイだもの》」と呆れたように伝えた。


少女の名はニイナ、見かけで言うと12.3歳と言ったところだろうか、まだ幼さが残る顔立ちで綺麗と言うより可愛いと言った感じだ。

「先生〜」

少女に迫っていた高ランクの魔獣を追い返したあと、セイの姿を見るなりそう叫んで抱きつき、その姿を見たナスカは笑顔の中に少し額に青筋が浮かんでいる顔をして二人を見つめ佇んだ。

「なんなのこれは?」

小さくぼやかれた言葉は誰の耳にも届かず只々少女がセイを抱き上げ頬ずりをしている姿を目の当たりにするしかなかった。

呆れの中に怒りを含んだ眼差しで二人を見る。

ナスカはこの感情がなんなのか分からず、心の中は妙なざわめきと混乱が生じて立ちすくむ事しか出来ないでいた。

「先生〜会いたかったよのね〜」

「君は真猫族の子か?」

「やだ先生、私の事忘れちゃったのぉ?」

そう言いながらもセイは少女に抱かれたままだ。

「セイ、この子はなんなの?」

静かに怒りを押えながらナスカが問う。

「とりあえず離してくれないか?」

「やだっ!」

セイは両手で少女を押しのけようと試みるが、ガッチリ抱かれてなかなか抜け出せない。

「セイ」

ナスカは微笑んだまま静かに二人に歩みより、セイの首根っこをつかみもう片方の手で少女の腕を掴んで二人を引き離した。

「セイ、私の言葉聞こえてた?!」

その微笑みにセイは少し驚き目を見開いて少し焦りながら答える。

「あぁ、この子は以前別の森にいた真猫族の子だ、あの時はまだ子猫だったからな、それにこの森に居るとは思わなかったから驚いたよ」

そう答えつつもナスカはセイの首根っこを離さない。

「あなた誰よ!私の先生をそんな風に掴まないでよね」

私の?!それを聞いた途端、ナスカの力が少女の腕に食い込む。

「痛い痛い!離してよね!」

ハッとしてナスカは少女を掴んでいた腕を離す。それでもセイの方は持ったままだが。

「セイ貴方この子に何したの?!」

「僕はただこの子の集落に少し居ただけだ、その時に遊び相手になったくらいだ」

「ふ〜ん」

疑いの目でセイを見つめる。

別にいいのよ、誰が何しようと私には関係ないわ。でもなんか納得いかないのよね。

この素直になれない気持ちがなんなのか分からない以上ナスカにはなにもしようがない、ただ心の中がザワつくだけなのだ。


逃げ出した魔獣の後セイ達は真猫族のニイナに事の経緯を尋ねる。

「君は真猫族にいた子だね」

「そうなのよね、先生に戦闘技術を習ってたのに私の事忘れちゃったのね」

寂しそうな顔をして少女は俯いた。

セイは少女を見つめて昔のことを思い出す、確か数匹の中にいた子だ、あれは数十年前か?教え子の中にやけに僕に懐いた子がいたはず・・あれは

「君はニイナか?」

「覚えてくれてたのね先生!」

ニイナは嬉しそうに顔を上げてセイに詰め寄りながらニッコリと微笑む、それを片手で塞いで見せたのがナスカだ彼女は眉間に皺を寄せてニイナを睨みつけた。

「なんなのね貴女?私の先生と一緒にいるみたいだけど?!」

「貴女の先生かは私には分からないけどいったいどういうことなのかしらセイ?!」

ギッと睨みつけるナスカの眼力にセイは一瞬たじろいで、ん"ん"と喉を鳴らして話し始めた。

「数十年前この子の集落で数日間世話になった時に知り合ったニイナという子だ、その時に子供達に戦闘技術を少しだけ教えた覚えがある、それだけだ」

「私は先生のお嫁さんになるって言ったのに、先生ったら何も言わずに出ていっちゃうんだものね、私悲しくて大泣きしたんだから!」

「『あれは冗談だと思っていたからな、しかしその思いだけでここまで来るとは思わなかったな』ニイナの力ではここまで来るのに大変だっただろう?それによく部族長が許してくれたな」

「私ね、白夜に入れたのそれで一人前だってお墨付きが出てそれなら先生にも会えると思って集落を出てきちゃったのね」

いい感じに行ってるが、要は部族長にも内緒で集落を勝手に出てきてしまったということである。

にこにこと微笑む少女を呆れ顔で見つつセイは自分のせいで集落を出てきてしまった事に深いため息が出る

「『何とかニイナを部族に戻さないといけないな、いくら白夜の出であってもこの魔樹の森では生存率が低い、もし高ランクの魔獣に遭遇した場合、傷だけでは済まないだろう』」

「ねぇセイ真猫族と言ったらもっと南にある魔獣も少ない集落の事じゃないの?」

「知ってるのか?」

「ええ、私達がいた集落とは真逆の位置にあるって前に聞いたことがあったのよ、その地の魔獣はかなり大人しくて人間達の狩場にはうってつけだって聞いたわ」

「バカにしないで欲しいのよね!確かにここの魔樹の森に比べたら魔獣の質は落ちるけどそれでもAランクの魔獣だっているのよ、それに私は白夜の出なんだから!」

「白夜の出?って何?セイ」

分からないと言った顔をしてナスカが尋ねるとセイは小さくため息をこぼした。

「ニイナ、それは部族では禁句の話だ。おいそれと話していいものじゃないはずだぞ」

あっと口に手を当てたが今更だ、知ってしまった以上話さない訳にもいかない。セイはここだけの話にしてくれと言いながらナスカに真猫族の白夜の事を話し始めた。

それは真猫族の最強集団であり闇夜で蠢く戦闘員の事だった、それに属するものは少なく白夜に入れるのはほんのひと握りの強者だけ、その試練は過酷でありそこに至るまでには数十年から数百年かかるとも言われている。

「その白夜にニイナが入れたのは凄いことだが、勝手に部族を抜け出してきたのはいただけないな」

セイがニイナを叱りつけるように見て言う。

「ごめんなさいなのね・・でも私先生に会いたくて、先生また来るって言ったのにいつまで経っても来ないからもしかして良い人でも出来たんじゃないかって不安になって集落を飛び出してきちゃったのね」

再びセイはため息を零した。

「君の気持ちは嬉しいが僕は誰とも(つがい)になる気は無い」

そう言われた途端ナスカの心に酷く重い何かが落ちてきた、何なのこれは?痛くて重いそして苦しい感じがするわ。セイはフェンリルだもの、その強さは比較なんて出来ないだからこそ今までずっと一人でいたのに、改めてセイの口から言われると心苦しいわ。

「嘘!先生言ったじゃない。私が大きくなって強くなったら一緒にいてくれるって」

ニイナは目に涙をためそう言い放った。

は?なにそれ・・

「《セイ、貴方この子にそんなこと言ったの?!》」

「《いやそこまでは覚えてないな》」

「《覚えてないって無責任すぎない?!この子その言葉を信じてここまで来ちゃったのよ、軽すぎない?!》」

「《そう言われてもだな・・》」

二人は念話で会話する。傍から見るとセイとナスカが見つめあってるように見えるだろう。

「そういえば貴女誰よ!私の先生と一緒にいるなんて」

指を指されニイナはナスカを睨みつける。

私は・・ナスカは少女の答えに口ごもってしまった、なんと言えばいいんだろうか?師弟みたいな感じだがそうは言いたくないだからといって特別な関係でもないのにナスカとしてはセイにとって特別な魔獣でありたいなどと思いが巡る、その気持ちが何なのかははっきり言えずに只々少女を見据える。

「私はその・・」

「ナスカは僕の連れ合いだよ」

なんて事ない感じでセイがナスカの言葉を代弁するかのように言ったのだ。

いやいや待ってセイ、それってつまり・・そこまで考えてナスカの思考は止まる。答えが出ないのだ。

見ると少女はショックを受けたように目を見開いている、まさかナスカからではなくセイから直接その答えを聞くとは思わなかったからだ。

「セイ連れ合いって言葉、意味わかってるの?!」

「ん?連れ合いじゃなかったらなんなのだ?」

知り合い?友達?違うな・・そうか

「師弟で合ってるか?」

その言葉に少女はホッとしたような顔になりナスカは複雑な表情をした。

「『それはそうかもしれないけど、他に言いようがないの?これまでどのくらいセイと過ごしてきたか、超大型の子供を親に返すために何ヶ月も一緒にいてその後は一緒に戦闘技術まで一緒にしていたのに・・もっと私を・・』」

と思ったところでナスカの思考が止まる。

急に頬が熱くなり体温が上がっていく、その現象が分からずナスカは顔を伏せた。

「そうなんだ、先生にとってはその人は弟子なのね、だったら私にとっても妹弟子になるのよね」

えっ、と思いつつナスカは顔を上げた。

妹弟子?!

突然の言葉にナスカは唖然とする。


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