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3話目-3部

彼女は僕が来たことで安堵したのかその場に崩れるように倒れた。ドォォンと音が響く中彼女は最後の力を振り絞って僕にこう告げてくる。

「助けに来てくれてありがとう。でも貴方でも三匹の相手は難しいでしょう」

確かにそうかもしれない、僕は僕から攻撃ができない事に焦っている、三匹は目が血走っているがまだそこまで理性をなくしていないようだ、だからやりにくい。統率が取れているためか僕が攻撃を仕掛けようとすると別の奴が彼女へと向かうそれを阻止するために動こうとするが、それは悪手だった。

怪我を負ったのは初めてかもしれない。

背中から横脇にかけて爪が食い込む。『ウグッ』と声が漏れる。痛みをこらえて三匹を見据えたその時、彼女が吐血した。もう最後らしく弱々しい声で僕は彼女が言葉に残した約束を守ると誓った。

それから何時間戦っただろうか、三匹の魔獣は理性をなくしそれぞれに襲いかかってくる、『彼等の目を覚まし逃げてもらう事は出来ないだろうか?』僕は戦いながらそんな甘っちょろい考えを捨てきれずにいた。だが、目の前に血だらけの僕と母親がいて産まれて数日の赤子まで居るとなればこれは絶好の餌だと言えよう、彼等は最早餌としか僕らを見ていない、いや、理性をなくしているからこそ闇雲に襲いかかってくるのだ。『何とか理性を戻せることは出来ないか?!』最後まで諦めないそう決めて僕は彼等と対峙するが世の中そう甘くは無い。

彼らは最早統率以前の問題だ、がむしゃらに向かってくる様は隙ができやすい動けない程度に傷をおわせるがそれも意味を持たない

「厄介だな」

ふとそう漏らした時、三匹の中の一匹がもう突進して僕を吹き飛ばす、木々をなぎ倒し僕は全身の痛みを覚えた。それでもこの親子を守らなければ、死んでしまった母親にも約束した、僕は意を決して三匹を狩ると決めた。そこからは早かった。一匹、一匹と首を落としていく三匹目を狩った時には疲れ果てて動けずにその場に倒れるが、何かの気配を感じる赤子の気配でなく魔獣らしき気配だ、敵意は無いそう感じて僕は意識を手放したのだ。


------

----


ガバッと起き出した私は辺りをキョロキョロ見回した。

「『やっぱり居ないわ』」

セイの姿はあるが彼女の姿はどこにも見当たらない。

「早いなナスカ」

欠伸をしながらセイが起き出す。ググッと身体を伸ばしプルプルと軽く身体を振ってみせる。

私は夢の事をセイに話すかどうか迷っていた、だってセイも知らない事だったら困惑するだろう。

それに彼女は私だけの時に現れた感じがする、それは私がこれからなそうとしている事にセイを巻き込むなと言われたような気がしたから。

「『セイは私がなそうとしていることをどう思うだろう』」

そう思うと少し怖くて言い出せずに迷ってしまった。

顔を伏せ思いにふける私--

「どうしたんだナスカ?朝から元気ないな?寝相悪くてどこかに身体をぶつけたか?」

「違うわよ!!」

反射的に反応してしまったが、それで少しは冷静になれた気がする。

私は意を決して話すことに決めその口を開こうとした瞬間セイの言葉が重なるように出た。

「ん?何か話したいことがあるなら先に話すか?」

「ううん、いいの。セイから話して」

背中を伝う汗が少し冷りとする。私は何を話そうとした?人間を滅ぼしたい気持ちは変わりない、けれどセイには何も関係ない事柄なのに、今私はセイに頼ろうとしたセイはきっと人間や亜人、魔獣それら関係なく好感を持っているだろう、それに気づいていながら私の行為はセイの気持ちに反する事だわ

「なら話すが、ナスカ、君念話の修行もしてるのか?」

そう言われてハッと思い出す、言われてみれば戦闘技術ばかりで一番最初に教わってた念話をすっかり忘れてた。

「ごめんセイ、すっかり忘れてたわ」

「だろうと思ったよ、今日は一日念話の修行をしようか」

「えっ、戦闘訓練はしなくていいの?」

「技術的なことはまだまだだが、魔力の使い方は流れる様にできてるからそれを繰り返し行っていけば今後はもっと楽に発動できると思う、それと念話はそれに近いものがあるからね」

優しげな顔をして言うセイだったが、次の言葉でナスカの顔に熱が集まる

「ナスカは自然と僕を見ている時があるだろう?どこにいてもその視線を感じるから、その時の感覚でやれば僕との念話が出来ると思うよ」

「--ッ、ば、馬鹿じゃないの!わたしがいつあんたを見たって言うのよ!そんな事--」

あるわけない!と言おうとしてセイが言葉を挟む

「いつもだ、気がつくとナスカの視線を感じてるよ」

ニッコリと微笑むその顔は優しげで、いつも見る笑顔とはちょっと違って見えてナスカは顔を赤くしたままプイとセイから視線を逸らした。

『そんな風に言われたらあんたの顔がまともに見れないじゃない』

この気持ちは何なんだろう、ふわふわして温かくてでもセイの事を考えると苦しくなったり痛かったり、意味がわからない事ばかり胸の奥で騒いでる。

この思いの答えが知りたい、でもそれはなんとなく怖い気がする。

答えの出ぬまま呆然と立ち尽くしていたが、セイはそんなナスカの気持ちなど知りもせず淡々と言葉を紡ぐ

「ナスカ、その視線を維持したまま念話をしてみるといい、多分今なら出来るかもしれないしな」

セイの尻尾が嬉しそうに左右に揺れる。

「わ、わかったわよ・・でも失敗したからって笑わないでよね」

セイが不敵な笑みを浮かべて頷く。

「『私そんなにセイの事見てたのかしら?無意識だったら余計に恥ずかしい』とにかく念話ね、やるわよ」

「ああ」

「--《セイ!》」

「うおっ」

咄嗟、片手で耳を押え顔を歪めた。

「ナスカ、届いたはいいが声が大きすぎるぞ」

意外な事にあっさりと念話が通じたらしい、それも大音響で・・

「ごめんこんな簡単に出来るとは思わなかったから」

「多分僕を観察してたおかげで念話の理を自然と理解(ハーク)してたみたいだな、そんな感じでもう一度送って見るといい、今度は音量を下げてお願いしたいがね」

クスリと笑いナスカに微笑む。

「言われなくてもそんな事わかってるわよ」

ムスッとしてみせるが本当はそこまで怒ってはいない、それはセイにもわかってる事だ、だからお互い軽口では文句の応酬も日々の日常とかしている。

念話を続けて数時間、そろそろお腹も空いてくる時間ナスカは念話をやめた。

「ねぇお腹空かない?お昼食べようよ」

少し甘えた声でお願いすると、以外にもセイは照れた様子で『そうだな』と返事を返す。

『えっ何?セイが照れてる?嘘でしょ?!まさか・・私を意識してるわけじゃないわよね?!』

そう考えつつ、ナスカは以前から聞いてみたいと思った事を口にする。

「あの、セイって私の事どう思ってるの、かな?」

聞いてしまった。本当に愚直に聞いてしまった。私はなんて事を聞いてるんだろう!!馬鹿だわ!本当の馬鹿だわ。自分でもセイへの気持ちなんてわかってないのに、これじゃあ私がセイを意識してるみたいじゃないの、と心の中ではアワアワと言い訳を繰り返しているそんな焦りの最中とは知らずセイが言葉を発する。

「なんのことを言ってるのか分からないが、修行の観点から言ったら師弟だろうな」

そうよね、そうだわ、セイは男女間なんて初めから無かったんだわ・・聞いた私が馬鹿だったわ。自身で聞いた事なのにそれなりのショックを受けて顔を俯かせ深いため息を吐き出す。

「どうしたんだいきなり?」

「別になんでもないわ気にしないで、それより食事でしょ餌を取りに行ってくるわ」

ここ数日間、餌を狩る役目はナスカが担当している、それも修行の一貫とばかりにセイが言ったことだ。

獲物はCから高いものはAランクの物を狩りに行って、特にAランクの魔獣は積極的に戦う事を余儀なく言い渡されていたので、戦う頻度は多くそれゆえAランクの物は単体でも集団でも戦い抜ける自身が着いていた。『私一人でもAランクの魔獣の対処は出来るようになってきたわね』クスッと笑うその顔には余裕の笑みが浮かんでいる。

『今日の獲物はコレでいいわね』ナスカは獲物を手にすると肩に担ぎ上げセイがいる場所へと足を向けた。

でもなんであの時セイは照れていたのかしら?

念話での会話なんて日々の事だったり戦闘技術の事ばかりでこれといって照れる要素なんてなかったと思うのに・・そう考えながら歩いていた。

セイは嬉しかったのだ、仲間という仲間がこれまで無くそれまではずっと一人でいたからナスカというこの森での知り合いができて嬉しい感情が湧いてきていたのだ、ただナスカのこれからはと考えるとちょっと複雑な思いを秘めていた。


「先生の足取りをたどってみたけど、どうやらこの森から出たという噂は無いようね、近くの町にも行ったけど、先生の姿形を見たのはココ最近だって言うし、間違いなくこの森にいるのよね、早速調べてみるのよね」

一人の少女が魔樹の森の前で仁王立ちしフンと鼻を鳴らし、まだ見ぬ先生への思いを胸にその森へと足を踏み入れるのだった。

彼女容姿は可愛らしいという言葉道理で、サラツヤの赤茶色の髪は直毛でありながらも毛先は背中でくるりんと跳ねておりその可愛らしさを強調させている。

少し異様なのは、頭に耳が付いておりお尻にも長い尻尾があるところだろうか。

それはもう十分お知らせしただろうか・・へへ

彼女は先生への想いだけで魔樹の森を走破するつもりだ、魔樹の森はかなり広い想い一つで相手に遭遇できるのであれば奇跡に近い。

そんなこととは知らずに彼女は魔樹の森の中へと走り込むのだった。


食事のあいだ中、なぜか二人は無言だった。

いつもならたわいない話くらいするものなのだが、今日に限っては静か過ぎるくらい静かな食事。

それもそうだ、ナスカの雰囲気が今日はまるで違うような感じを受けるからだ。セイもそこまで馬鹿ではないので一応空気の読める男だったらしい。

「・・・」

なに?なんか言いたげだけど?

「・・・」

セイは無言で食事を終わらせる。それと同時にナスカも食事を終えた。

「どうしたんだ今日は?何かあったのか?」

ナスカの無言はセイの心情に少し応えたようだ。別に怒っているわけでもなく、無視してる訳でもない、ただナスカが喋らない事にセイは少しだけ動揺を隠せずにいた。

「修行がキツかったのか?」

「念話が嫌になっていたのか?」

「他に僕が嫌になったことがあったのか?」

「『どれもこれも当てはまってない!』」

続けざまに聞くセイの言葉に、ナスカは小さく息を吐いた。

「違うわよ、それにいつも喋ってばかりの食事じゃないじゃない」

「いや、そんなことないぞ。食事中は何かしら話をしていた覚えがある」

「『無駄に記憶力いいわね』」

確かに思い返すと魔力の使い方とか、戦闘技術などの話ばかりしていたような気がする。だとしてもそこまでしゃべらいな事に異様な執念を向けなくても・・

またまたナスカはため息をつく。

その動作にセイは一喜一憂とまではいかないものの何かを気にしている様子は感じ取れる。

「『ふふ、なんか面白いわね。いつもなら私の方がオロオロしてる感じなのに、今日に限っては正反対だわ』」

ナスカは少し気分が晴れた気がしていた、この心情をセイが少しでも分かってくれるならちょっと心地よい。でも本来なら私がセイの立場なんだわ、あの夢の話をしようか迷ってるんだから・・

ナスカはセイを見つめる。それから重く考えていたことをようやく口にするのだった。

「あのねセイ、私彼女と会ったわ」

最初はなんの事か分からなかったが、僕を見つめて《彼女》という単語を出したことでナスカが言い淀んでいたことを察知する。

「--何を話したんだ?」

真面目な表情になりセイは居住まいを正す。

「からかわれていたのかもしれないし、小さな声だったから本当にそう言ったのかちょっと自信にかけるけど、彼女はこう言ったわ『私はセイの影、もう一つの姿』そう聞こえたような気がしたわ」

「そうか--それでナスカにはそう聞こえたんだな?」

コクリと頷く。

「ねぇ、あの彼女は誰なの?本当にもう一人の貴方なの?!」

意気込むようにセイに迫るナスカ。

それに飲まれないようにセイは息を整え片手を前に出した。『待て』という事だろう。

しばしの沈黙の後、問いかけるようにナスカに話しかけた。

「他に話したことはないか?」

「他って言われても・・セイはずっと独りで旅をしていたとかは言ってたわね」

でもその後急に眠気が襲ってきて意識を保てなくなって寝ちゃったのよね。まだ聞きたいことがあったのに今度いつ会えるのか分からないから、胸の奥がザワザワするわ。

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