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3話目-2部

僕はどうやったら彼女と意思疎通が出来るのか色々試してみた。

獣の手ではペンは握れない、それどころかここにはペンさえない。

爪で地面に文字を書いておくとか『とりあえず出来ることをやってみよう』僕は彼女とコンタクトが取れるように先ずは地面に文字を書き記した。

「『僕と貴女は同じセイという名前だと言うが、僕と貴女の関係が知りたい、もし知っていたら教えてくれないか?』」

そう記しセイは眠りにつく、彼女からの返答を心待ちにしながら・・しかし朝起きてみればその返答は『今は話せない』との事だった。

『なぜ話せないのか知りたい』

『今はその時期ではないから』

『いつならいいんだ?』

『貴方の心がもう少し落ち着いたら』

落ち着いている--落ち着いているのに、なぜ彼女は話してくれないんだ。

苛立ちが先走って木々をその爪でなぎ倒す。

ドォォォンと大きな音を立てて数本の木が倒れる。

咄嗟、我に返った。

「これがいけないのか?!」

突然分かったように理解し、僕はしばらく彼女との接触は避けるよう心掛けた。

僕自身の生活は余り変わらない、襲いかかってくる魔獣を倒しながら日々の糧にする、そして彼女はその魔獣の部位を持って時折町の外に出るという僕らだけのルーティンが出来ていた。

時折彼女に文字を残す。

『もう無理に問い詰めたりしない、ただ話せる時が来たら話して欲しい』

そう文面を残し彼女に宛てた。

それからは僕は僕ができる最大限の事をするよう心掛けた。魔獣を獲るときはなるべく部位欠損を避け少しでも高く売れるよう首を狩るようにする。そんな風にしていた時、ふと気になって彼女にこう書記した。

『君は僕の影だと言ったが、君が時折人間の町に出て魔獣の部位を売ってると聞いたがそれはなんの為なのか、取った部位は役に立ってるのか?それに部位のお金なんかはどうしてるんだい?』

その返答がこれだった。

『昼間、貴方が寝ている間に魔獣の皮や部位を処理してギルドで買ってもらってるわ、私の為になるべく身に傷をつけないやり方をしてもらってるおかげで、ギルドでは高評価よ、ありがとう。私にはギルドカードもあるしアイテムボックスもあるわ、それにお金もそこに入れてあるから問題ないわよ』

アイテムボックス?!そんなものを所持してるのか・・

僕には無いスキルだよな、

ちょっと羨ましいな・・・

『僕にもそのスキル使えるか?』

『分からないわ、そもそも一個体の中に別人格の私がいるっていうのが初めての事じゃないかしら・・?私達は別々の意志を持っているから同じ物を共有できるとも思えないし・・』

『それもそうだな、スキルの共有なんて聞いたこともないからな』

そんなやり取りを交わしながらも、セイは目覚めた時出来るかもと思ってアイテムボックスと願った・・ダメだった。

わかっていたさ、わかっていたよ!だけどさ僕も出来たら嬉しいと思うじゃないか!クソっ。

半信半疑の中での事だったからセイもそこまで怒りはしなかったが、ただ出来たらいいなぁという願望が打ち砕かれただけの事なので、残念無念で終わりを告げる。

それから百年ぐらいは経っただろうか、セイは旅を続けて彼女とも良好な関係が築かれている。

時折話すのは人間たちの動向だ。

月日を重ねセイはフェンリルとして所々の森では王として魔獣の中では認識されて恐れられていた、しかしそれが人間達に分かる訳もなく、森の異変を感じ取るとフェンリルが出たかもと軍勢を送り込んではフェンリル捜索として魔獣達の森を荒らすようになり始める。それがセイには堪えるのだ。

「無関係な魔獣達を蹴散らし森を荒らす、僕がいたる事で森が荒らさせるなら人間を追い出すしかない、か」

セイは静かに戦闘態勢をとる。

人間達をその目で確認した後、突風のように走り出し人間が敵と気づく前に武器や盾を破壊する、そして指揮官と思われる男の首を跳ねて影に潜みこう綴る。

「よいか人間共、これ以上この森を荒らすならばお前達全員の命をもらうと思え我はフェンリル、森を守るものだ」

指揮官の首があっさりと跳ねられたことに呆然となる一行だったが、フェンリルと名乗った姿の見えない獣に軍勢は驚きを隠せず統率を失った兵団はその恐怖からかその場から我先にと逃げ出して行く。

「こんなものかな、これだけ脅せば人間も馬鹿な真似はしないだろう」

そんな事が多々あり人間社会では森の蹂躙を避けるようになり始めフェンリル確保はなりを潜めていたように見える。

だがそれは表向きなだけであり裏ではコソコソと蠢いていたのだ。

力による恐怖は短いスパンで効果を発揮するだけであり、時が経てばその恐怖は薄れるだから人間達は数十年単位でまた同じことを繰り返す。

「フェンリル確保のため我らの魔法をもっと高めるのだ!」

そう豪語するのはある王国の重鎮たちである。

また別の国では

「我が国にフェンリルを囲えば周囲に敵無しだ!森に注意を徹底させ黒髪銀目の少女を捉えるのだ!」

何度恐怖で脅しても人間は懲りないのだ。

セイの知らぬところで多くの国やギルド冒険者などがその維新をかけ奮い立っている。

セイは疲れていた、人間を脅しても時が経てばフェンリルを巡る戦いが起きる。

だからセイは旅を続ける、この世界の全てを回りきってない所も多々ある、国が違えば考え方も違ってくるだろうと、フェンリルとして生きて既に千年近くなる、だからこそまだ出会えてない良い人間に希望を持つのだ。


これがセイがフェンリルとして生きてきた時期である。だがどこに行ってもフェンリルを確保しようとする国や町は多かった、伝説として伝えられてはいるがそれを見つけると町や国が大騒ぎになり、兵士が森に入ってきてあら捜しをする。

森には魔獣達がそれぞれ縄張りを持っていてセイはたまにその魔獣達の住処に居着くことも何度かあった、魔獣達はセイがフェンリルだと知らない、だが人間達が荒らしに来る度それを追い払っていたので長くはいられないその繰り返しにセイは疲れ果てていた。意思疎通のできる魔獣達はその強さゆえセイを攻めることは無く快く受け入れてくれてはいた、だがそれはセイがフェンリルだと知らないだけだから、フェンリルと知られればいくらなんでもそこには居られないだろう

だから魔獣達に引き止められてもセイは旅を続けるのだ。

旅をする中で仲良くなった魔獣達も幾つかある。

力弱き者たちや、強き者それぞれ違ってはいたがセイの力や魔力などを見ては服従したり畏怖されたり色々な目で見られたが、セイは仲良くなった者達へは自分の力を誇示したりしなかった。

ただ魔獣達が住む集落で小型の獣として時をすごしているのみ。

時には子供の魔獣と戯れたり、軽い戦闘訓練などをしてあげたりしていた。

今となってはいい思い出である。

そして最大限の広さを持つと言われる魔樹の森に来たのはまだ踏破してない森だからに過ぎない。

他にも幾つか踏破してない森があるが、今いる場所から知らない森はこの魔樹の森だったのだ。

魔樹の森に入ってからは人間を見たことがない、だが魔獣はそこそこいるようでセイはただ『餌には困らないかもな』くらいの感覚で森に入っていく。

これまで出会い世話になった魔獣からは色々な情報を集められた。東西南北に広がる大地、人間社会はその半数を占めており魔獣の住む森はそれに連なるものとして扱われているようだ、だが魔獣達はそれを力で誇示し人間に逆らっているという感じである。もちろん人間が全てを管理(はあく)している訳じゃなく、森の大きさや魔獣の多さなどでは魔獣が森を占拠しているところも多数あった。

その一つがここ魔樹の森である。

魔樹の森へと入ってから数ヶ月目、超大型の魔獣に出会った。魔獣は雌でありその腹には子供を宿しているようでいつ産まれてもおかしくない状態だった。

「私と戦うのか?」

そう問われた時セイは首を横に振った。

「子供を宿しているのだろう?僕には貴女と戦う意思はないよ」

「本当か?」

「ああ、だから安心して欲しい」

僕の姿を見て彼女は小さく息を吐いた。そして大きな身体を休ませるように横たえる。

「貴方の気配はなんだか異様だからつい威嚇してしまった、すまないね」

身篭ってる母親は酷く弱っているように見えた、『なぜ群れてないのか』と思わず問いかけてしまい慌てて否定する。

「無理に答えなくていい、貴女には貴女の事情があるしな」

「いや、疑問に思うのも無理はないよ。私は身重の身体が辛くて群れについて行けなくなっただけ、でもこの森の何処かには私の群れがあるから、子供を産んでから探しに行こうと思ってたんだよ」

「しかしその身体では力が足りなく無いか?」

「分かるのかい?!小さいのに凄い観察眼だね」

ふふっと彼女は笑った。

僕はそんな彼女をほっとけなくてこう申し出た。

「子供が生まれて歩けるようになるまで僕が貴女の面倒を見ようか?」

小さな僕にそう提案され彼女の目が見開く。

「驚いたね、貴方は私が怖くないのか?」

「?--弱ってる魔獣をほっとけないと思うのはいけないことだろうか?」

「怖い以前の問題なのね貴方からしたら」

「?」

僕は首を傾げた。僕はどの魔獣と会ってもこれまで怖いと思ったことは無かった。それは逆に驚異となる魔獣がいなかったと言える。だからこの大型の魔獣に対しても怖いとは思わなかった。

そして暫くはこの妊婦の魔獣に寄り添う形で僕達は一緒にいた。餌は僕が確保し彼女に与えていい出産場所を探しに時々森を見て回る。

だがここは魔樹の森、鬱蒼としげる森の中ではその場所さえも異様に見つからない。

身重の彼女を振り回す訳にも行かず、所々休みながら僕達は移動していた。

そして数日が経った頃、彼女に異変が起きる。

出産に向けて陣痛が起きたのだ。

僕は周囲の警戒を怠らないように素早く見て回り、半径一キロ以内に絞って腹を空かせた魔獣達と彼女との隔絶を図るように厳重に警戒した。

初産とあって彼女も緊張しているようだ、あまり身体に負担をかけないよう少しばかり衰弱している彼女は出産へと力を込める。

彼女の近くにいると気が散ると思い少し離れた場所から彼女の出産を見守る。それからどのくらいの時間が経ったのだろうか、時は夕刻に迫っていた。陣痛が起きたのが昼頃だった餌を確保しようとしていた時だったからかなりの時間が掛かっている。

『大丈夫だろうか?』

ソワソワとする中で僕自身が父親になるかの感じで待ちわびている。大型の魔獣曰く出産を見守るのは初めてのことであり雌である女性にとっては一大事の事柄だろう。そう考えていたら僕を呼ぶ声が聞こえた。『彼女からの声だ』僕は急いで彼女の元へ向かった。

そこには産まれたての超大型の赤子がいた、母親はペロペロとその身体を舐めて羊膜と血を拭き取っている。

「可愛いな」

思わず口からその言葉が漏れた。

彼女がニコリと笑い僕と赤子を見つめている。

僕よりかは少し大きな赤子が「キュオン」と鳴くと同時に母親へ乳を求めるように彼女のお腹へと這いずる姿を見ると彼女はその身体から力が抜けたようにドサッと倒れ込んだ。

「大丈夫か?!」

「少し休ませてくれる?この子も乳が飲めれば自然と眠ると思うから・・多分だけど」

まだ母親になりたての彼女は微笑ましい顔をしてそう言い目を閉じる、僕はそんな親子を心配そうに見つめ魔獣が襲ってこないか警戒を怠らないようにした。

「ゆっくり休むといい、後は僕が守ってるから」

「ありがとう」

そして彼女は意識を手放したのだ。


それから数日がすぎ初めはヨタヨタしてた赤子も今では少しだけ歩けるようになり母親の後をついてまわるようになっていた。だが彼女はこの数日でかなり弱って歩くのも大変になり僕が声をかけるも『大丈夫』だと言って森の中を群れを探しに歩き続けていた。

「少し休もう」

僕の提案に彼女は息を切らせて謝る。

「気にしなくていい、餌を捕ってくるからここで休んでてくれ」

僕は滋養の高い餌を求め森の奥へと走り出し傍を離れた、それがいけなかった。

気がついた時には彼女は三匹の魔獣を相手に戦い血にまみれ虫の息の有り様、僕は彼女と三匹の魔獣の間へと割って入り戦おうと応戦したが以外と三匹の魔獣の力が強く統率も取れている中で彼女と赤子を守るのは至難の業だった。

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