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2話目-6部

「・・・」

私の力がここまで成長していたなんて--信じられない。

セイはこれを見越していたの?

静かに振り返りセイを見る。あいつとの修業は私の成長過程を大幅に引き上げてくれた、セイは当然というような顔をして歩み寄る。

「これで分かったか?今までの移動訓練や僕との模擬戦闘はナスカの精神を研ぎ澄ませ他の獣に悟らせない実力を兼ね備えた、魔法は囮ではなく攻撃に特化しつつあり魔力は潤沢に身体をめぐり魔力を使う時もそんな苦労はしなかったはすだ、人間の世界で言うランク上位者と言われるだろうな」

「人の世界で褒められても嬉しくないわ、でもこれが人間にとって驚異となるなら嬉しいかもね」

ナスカは暗い笑みを称えて言う。

「・・ナスカは人間が嫌いだったな」

「そうよ!人間を滅ぼす力を手に入れられるためなら何だってするわ!」

「そうか」

セイは少し寂しそうに小さな声で呟いた。

そしてナスカの言葉を少しだけ否定するかのように言葉を紡ぐ。

「確かに人間は愚かだと思う、強欲で自分勝手、己達の存在が一番だと豪語してるからな」

「そうよ、そんな人間なんて滅んでしまえばいい」

「だがナスカ、人間全部が悪いわけじゃないんだよ、人の中にはいい奴もいる、気のいい人間もいるんだ、それを忘れないで欲しい」

こいつがそんな風に言うなんて・・だが人間からされたことはナスカにとっては絶対許されることじゃなかった。けど・・

「セイが言いたいことはわかるけど、でも私はそう簡単に納得なんて出来ない、詳しくは言えないけれど私が力をつけたい理由は人間を滅ぼす為よ」

思わず言ってしまった、言い切ってしまった。つい人間びいきした発言が気に触ったから、セイはどう思うだろう、もう修業もつけてもらえずもしかしたら今日でお別れなんて事にもなりかねない、私は言ってしまった後悔とセイからの返答に心臓の鼓動が大きく跳ねているのを感じていた。

「身体が強ばってるぞ」

ふと自分の両手が強い握りこぶしを作っていたのをセイは優しく穏やかに言う。ハッとして拳を開きグーパーグーパーしてみせる。

『私緊張してたの?!』

気持ちが落ち着いていないことに不思議さを覚えながらセイを見つめた。

肝心の言葉はもらえてない。一緒にいられるのか、それとも・・

「そんな目で見つめられても困るが、何か理由があるようだが僕が聞いていい内容なのかな?」

どんな目をしていたんだろう。セイの気使いのある言葉に頬が急速に熱を持つ。

「セイは人間が憎くて滅ぼしたいと思ってる私の事をどう考えてるの?それによっては私自身の事は話す気はないわ」

「少しは成長したようだね」

ニコリと微笑みナスカを見上げる。

「僕は長いこと一人で生きてきた、そこには人には言えない裏事情もある。それは僕の正体を明かす事にもなりかねない秘密も兼ねていてそれはナスカにも言えないことだ。だからこそ人には言えない何かを持っている者にはとことん付き合ってその人の思いを叶えてあげたいと思っている。それがどんな事情であれ僕が力になれるなら悪いこと以外手伝うのもいいと思ってるよ、だからナスカに言えない事情があっても僕はそれについてナスカを避けようとは思わないよ」

ナスカは少し目を見張った。

「あんたかなり自信過剰よね、自分が負けるかもって思ったことないの?それに助けるってちょっと力が強いからってもし伝説のフェンリルでも出てきたらどうするつもりよ」

はぁと顔を伏せてナスカはため息を吐き出した。

「ゔっ、そんなに自信過剰か?!」

どうやら無自覚だったらしい。

「あんた自覚なかったの?ある意味凄いわね」

ちょっと面白くなって焦りを加えながらからかうとセイは落ち着かない様子で目線が泳ぐ。

プッ--面白い。

「とりあえずセイは私を助けてくれるのね?」

「あぁ、ナスカの人嫌いが何なのかはまたいずれの話にしよう、その時が来れば話してくれるのだろう?」

「さぁどうかしらね?」

形勢逆転とばかりにナスカは笑みを深めた。


それからも修業は続く、今度はセイを相手に一発食らわせるというなんともシンプルな戦闘訓練だがそれを甘く見ていたのが私の敗因、彼はそのスピードを生かし私の攻撃を避け魔法もことある事に回避や防御されてしまう、どこに目が付いているんだろうと思わせる動きに私は翻弄されるばかりでいい加減頭に来たので本来の姿に戻って力の限り応戦した。

しかし結果は惨敗。

精も根も尽き果て私は彼に負けたのだ、この小さな獣に。

セイは途中途中でアドバイスを口にしたが私はそれを受け入れず我流で戦った、セイは何も言わなかったが何度も懐に入られては勝ちを宣言され私は少し彼のやり方で戦い方を変えた、もちろん納得はしてなかったが彼に勝ち逃げされるのはもっと嫌だったから頭を冷静に落ち着かせ彼の言うアドバイスに従い攻撃を仕掛ける。それまでセイにかすりもしなかった攻撃が少し届いたのだ、その高揚感と言ったらとんでもなく嬉しく私はプライドも意地も捨てて彼の言葉を吸収していった。

だが、彼の言葉を聞く度に私の中で変化が訪れる。

『セイに追いつきたい』

その事が頭の中を占めていく。そしてそれからも修業と言う戦闘訓練は続く。数週間が過ぎた頃セイが

「今日はランクの高い魔獣を狩るぞ」

そう言い放った。『やっぱりわかってたのね』ランクの高い魔物それはBかAを指すものだとナスカは思った。「やっと彼の本当の強さが分かる』

そう期待した。なにせこの数週間餌はほぼ彼が仕留めていたものを食していたからだ、しかし獲物はランクの低い物ばかり数は多いのだが私でも簡単に獲れる獲物ばかりで今までは彼の本当の強さが分からなかった。だから自然に声が弾んでしまったのだ。

「何を狩りに行くの?」

「Aランクのオーガだ、奴らは集団で行動しているナスカもそろそろ僕一人じゃなく集団での戦闘を経験した方がいいと思う」

「『Aランクやっぱりだったわね』で、私達二人どういう作戦で行くの?」

「何言ってるんだナスカ一人での実践だ。この前の一対一とは違うから戦い方を考えなければ死ぬぞ」

セイは真面目な顔でそう告げる。

だがナスカには想定外だったようで、慌てて声を張上げた。

「えっちょっと待って、もしかして私一人でオーガに立ち向かえって言ってるの?!」

「そうだが、何か問題でもあるのか?ナスカの今の実力ならそうそう危機には陥らないはずだ」

私の力を買ってくれるのは嬉しいけれど・・・

何無茶なこと言ってんだこいつ、と内心で毒づく私は焦りまくりだ。今でさえセイを捉えるのに精一杯なのにそれを単騎で挑めって、無茶振りもいいところだ。

だから尋ねるのも馬鹿馬鹿しいと思いながら一応の確認の為に聞いてみる。

「危うくなったら一応助けてくれるのよね?」

「そんな甘い考えは捨てた方がいいな」

だと思ったけどやっぱりだったわ--こいつに甘い期待をした私が馬鹿だった。

そうよね、大牙サラマンダの時だって手助けなんてしてくれなかったし、倒せた時は信じられなかったけどあいつは余裕ぶっこいて『やれたじゃないか』て、笑顔だったものね。

そして今度はオーガ複数体・・奴らは知性もそこそこあるから戦いになったら連携してくるに違いない、そんな奴ら相手にどう戦えと?!

ナスカは少し涙目になりながら小さなため息を吐いた。


この世界でのオーガは大抵がAランクだ、それ以上となると人の言葉を話し村を作り集団で暮らしていると聞く、そんなオーガ達だがランクの低い(と言っても最低がBなのだが)者は複数体での行動を主にしていてほぼほぼ凶暴かつ好戦的だ。

出会ったら最後戦うしかない、そんな凶暴なオーガが今目の前に立ち塞がっている。なぜこんなにも早く出会えたのかと言うと当然セイが連れてきた、いや連れてきたというのは語弊がある、オーガはセイの魔気に当てられこちらに逃げて来て私の前に立ちはだかったと言うのが正しい。

あいつの持つ魔気は一体どうなってるんだ?--

いや今はそんな事思ってる場合じゃない、ここからが私の実力の見せどころなんだ!気を引き締めろ!

ナスカは迫ってくるオーガに向かって気合いを入れ直した。

怒声のような叫び声を上げながらオーガが迫ってくる、ナスカには剣はないが強い爪がある人の姿でも強固な爪は武器だそして魔法も使える、オーガも魔法は使ってくるが滅多に使っているところを見たことがないそれだけまだ知能が足りてない、あいつらは剣とその剛力任せで攻撃してくるはず、ナスカは先ずオーガの集団の中で一番強い者に目を付け走り出す。迫ってくる何匹かのオーガ数体を飛び越えて大剣を持つ大柄なオーガに向けて己の爪に風魔法を乗せて薙ぎ払った、攻撃を受けたオーガはその一撃で大剣ごと腕を持っていかれ血飛沫がまう。

「グガァァァ!」

一撃を受けたオーガは叫び声を上げその場に突っ伏し動きをとめた。その隙をつき他のオーガにも攻撃を仕掛ける、オーガ達は連携を乱されたことで単純な攻撃しか出来ず剣や斧を振り回すだけその攻撃をナスカは素早さで避けていくそして風魔法の爪でオーガの身体を傷つけていくのだ。

セイはナスカの動きや攻撃パターンを少し離れた場所から静かに見守っている。

オーガに致命的な傷は付けられていないものの、ナスカは諦めず風魔法を付与した爪の攻撃に加え火魔法や土魔法での応戦を繰り返し、一匹一匹と着実に数を減らし倒していくナスカは本来の姿に戻ろうかとも思ったがここで変わったら負けのような気がして意地でも人の姿で倒そうと決意を新たに力を込めた。

両手に火魔法をまとい怒涛のようにオーガを殴りつけ倒す、そして土魔法で残りのオーガを絡め取り動けなくなったところに手刀を力の限り振り抜くとその首が飛んだ。残すは一番強いオーガ一体ナスカは気力も体力もほぼ使い果たし呼吸が荒くなり片膝をつく。

「『あとはあいつだけ』

そう思いながら離れた場所にいるセイを見た。

『見てなさいよ、あんたの助けなんていらないんだから!』

ギッと睨みつけるその眼差しは最初に出会った頃のセイの目と同じような強い眼差しを秘めていた。

大柄なオーガは絡め取られていた岩を怒声を上げて砕き残った片方の手で剣を持ちナスカに迫ろうと走り出す。ナスカの鼓動は身体中に響くほど大きく鳴っていたが頭は冷静に保たれてまるで全神経が研ぎ澄まされているかのように凪いでいだ。

『最初は左から振りかぶってくるようね、残された力でお前を倒す!』

ナスカの前に仁王立ちしたオーガはその読み通り剣を振り下ろしてくるそれをナスカは土魔法で固めた手で受け止めもう片方の手で火魔法をまといオーガの心臓目掛け突きを放った。

「ウガァァァ」

と最後の叫びのように悲鳴をあげたオーガは火だるまになってその場に倒れ絶命したのだった。

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