婚約破棄したら大変な事になったので、キスする羽目になった王太子殿下(18)
幸せだなァ。
僕ァ、甘々を書いている時が一番幸せなんだ。
『婚約破棄を発表したために大変な事になった王太子殿下(18)』
https://ncode.syosetu.com/n0352ig/と、
『婚約破棄したら大変な事になったので、周囲に仲良しアピールせざるをえなくなった王太子殿下(18)』
https://ncode.syosetu.com/n0734ig/
の続きになりますので、よろしければそちらもご覧ください。
「待ちくたびれましたよ……!」という神のようなお方は、そのままお楽しみください。
「なぁアズ」
「何でしょうスターツ」
「あの婚約破棄の訂正後、我々はかなり努力したと思う」
「……えぇ、まぁ、それは……」
婚約関係が良好である事を周囲に示すためにしてきた数々の行為を思い出し、頬を染めて目を逸らすアズィー。
その様子に胸を締め付けられるような痛みを感じつつも、スターツは平静を装い言葉を続ける。
「だがまだ疑っている者がいる」
「困ったものですわ」
中庭の長椅子に座る二人に向けられる視線。
その発端は、物心つくかつかないかの時に結ばれた婚約を、二人がそれぞれのきょうだいの婚約を機に、一度破棄した事にあった。
スターツ・クオは王太子。
アズィー・ティーズは公爵家令嬢。
二人は容姿端麗、頭脳明晰、清麗高雅、将来安泰。
誰もがお似合いの婚約者だと思っていたから諦めていた気持ちを、二人の婚約破棄が解き放ってしまった。
その凄まじい求愛の嵐に恐れ慄いた二人は、婚約破棄を遠国の奇祭を真似した冗談という事にして、事態の収集を図ったが……。
「毎日手を繋ぎ、先日は膝の上にアズを乗せたというのに、まだ不仲を疑われるとはな……」
「何かより強く私達の婚約関係を示すものがあれば良いのですが……」
溜息をつく二人。
恋愛どうこうを意識する前に婚約者が決まっていた二人は、恋愛に対する実体験が極端に欠けていた。
知識といえば、書物から得たものだけ。
「……あ」
そんなアズィーの脳内に、恋愛小説の一節が燦然と輝いた。
「……っ! 揶揄うのはお止めください! 貴方は公爵家の後継ぎ! 私は男爵家の末娘! 釣り合いなど取れるはずがありません!」
「ふぅ……。僕が身分差など気にならない位に君を好きな事、どうやったら伝わるのかな?」
「な、何を……!?」
迫るロッキングッド様の美しい顔……!
蒼い瞳……!
長いまつ毛……!
白磁のような鼻筋……!
垂れかかる芳しい髪……!
離れなければならないのに……!
目が、離せない……!
「神様には後で誓えば良いよね」
「待っ……、んっ……!」
「……愛してるよ」
唇を奪われた私にはもう、ロッキングッド様の言葉を跳ね除ける力は残っていなかった……。
「どうしたアズ?」
「い、いえ、その……、た、対策を思い付いたのですが……」
「おぉ、何だ?」
「……口付け」
「!?」
赤い顔をして伏し目がちにしてそう呟くアズィー。
その言葉の威力に、スターツの心臓は早鐘のように鳴り出した。
(くくく口付け!? た、確かにそれは結婚の誓いとも言える行為! それをすれば確かに周りを納得させられるが……! 良いのか!? そんな事をして!)
(あああ何故私は口にしてしまったのでしょう! 憧れる気持ちは確かにありますが、そんな事をしたら私死んでしまいそう……!)
顔を真っ赤にしてそっぽを向く二人。
すると目に入る他の生徒の視線。
(ここで不仲と見えたら、あの嵐のような求愛が再び……! それは避けなければ!)
スターツは男気を振り絞ると、アズィーの肩に手をやった。
「!? す、スターツ……?」
「……目を閉じろ」
「……! は、はい……」
スターツの真剣な表情から全てを察したアズィーが目を閉じる。
心持ち顎を持ち上げたアズィーの紅潮した顔を見て、スターツの緊張も最高潮に達した。
(お、おお、落ち着け! これは演技だ! 周りの目を欺くための演技! 唇が触れたところで何の特別があるものか! よし! 行くぞ!)
長椅子から立ち上がったスターツの手が、アズィーの顎に触れる。
ぴくりと震えるも、抵抗は見せないアズィー。
ゆっくりとスターツの顔が近付く。
その行為が意味するものを悟った周囲が、絶望の表情を浮かべる。
全てが決するその瞬間。
「……ん」
「……スターツ……?」
スターツの唇は、アズィーの額に触れていた。
「ばぎゃあああぁぁぁ! ひ、額に口付けえええぇぇぇ!」
「ぴいいいぃぃぃ! やっぱりお二人の仲は変わらず睦まじくあるのですねえええぇぇぇ!」
「これが現実だというなら! 俺は教会に入り徳を積み! 来世に賭けるうううぅぅぅ!」
「殿下と結ばれないのなら、もう恋などしません! 女の子同士の友情の中で幸せを見つけますわ!」
中庭の物陰のそこここから、阿鼻叫喚の叫びが響き渡る。
その反応を見て、アズィーの額から顔を離したスターツは胸を撫で下ろした。
「……どうやらうまくいったようだな」
「……」
「め、名案だったなアズ。これで皆諦めるだろう」
「……」
「……アズ?」
無言のアズィーに不穏なものを感じるスターツ。
すっと立ち上がったアズィーは、そのたじろぐ腕を強く掴むと、
ちゅ。
その頬に唇を押し付けた。
「な、なな……!? な、何をするアズ……!?」
「……仕返しですわ……」
「え、わ、私が何をした!?」
「ご自分の胸にお聞きください!」
「ま、待て!」
むくれて立ち去るアズィーを慌てて追いかけるスターツ。
その様子に、絶望の淵にいた生徒達は、
「あっ! アズィー様が怒った様子で立ち去られたぞ!」
「やはりお二人の仲は悪いのですわ!」
「神よ! 感謝を捧げよう!」
「やっぱり私は恋に生きますわ!」
などと生気を取り戻すのであった。
読了ありがとうございます。
あーあ。
唇にしておけば良かったのになー。
色んな意味でー。
お楽しみいただけましたら幸いです。