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第7話 旅立ちの朝

 朝陽を受け、街並みが彩りを取り戻し始めると、商人たちはいつもと同じように朝市の準備を始めだす。街かどにはまた人があふれ始めた。


 祭りが終わったといっても、この町の賑わいは変わっていない。

 それは豪商ルドルフの屋敷がある通りも同じだった。

 その門の前に佇む一人の大柄な戦士がいる。傭兵王クロードだった。


 数日ほど食客として屋敷に滞在していたが、たとえ有力者のルドルフであったとしても、彼ほどの実力者を屋敷に留め置くことは容易では無い。それに別件の依頼も受けた。それも破格の報酬だ。


「盗賊の白銀ラプラタか……。あいつの近くいれば当分楽しめそうだな」


 クロードは楽しげに頬を緩めた。

 荷物袋を肩にかけ歩き出そうとしたとき、門扉の内側から喧噪が聴こえてきた。

 クロードが扉の方を振り返ると、開門と同時に二人の男たちが追い出されるのが見えた。


「ルドルフ様は、見張りもせずに居眠りしている奴らを必要としていない!」


 屋敷の警備隊長はそう言うと二人の荷物を乱雑に放り投げた。


「ふざけるな! 俺たちは確かに盗賊と戦ったんだ。あんた達だって見てねぇのか?」


 セッツは激高しながら隊長に噛みついた。

 追い出されてきたのはセッツとロスの二人組だった。

 ロスは、なだめるようにセッツを羽交い絞めにしている。


「知らないな。酔っ払って壁を壊した言い訳なら、もう少しまともな嘘を考えろ」


 セッツは夜が明けてから崩れた外壁と共に発見されていた。


 ――こいつ、相方のことはそのまま放置していたのか?


 クロードはその騒動を野次馬と共に遠巻きにしながら、怪訝そうにロスの顔を見た。

 二人は協力しながら、夜半までかけて眠り込んでいた兵隊たちを屋敷内まで運んでいた。その途中、クロードは瓦礫の中で高いびきをかいているセッツを見かけたが、起こすと面倒くさそうだったので、手を出さないでいたのだった。

 警護隊長も確かに昨夜の場に居合わせていたのだが、ラプラタとの一件についてはまったく記憶に無いようだった。


 ――あの笛の音の効果はかなりのものだな……。


 クロードは先ほどまで一緒にいたルドルフとの会話を思い出していた。ルドルフも昨日の一件を覚えておらず、昨晩起きた騒動について説明と証拠を重ねて事実として認識してもらったのだった。

 隊長は踵を返すと門扉を固く閉ざした。


「くそっ! 一体どうなってやがる」


 セッツは小石を蹴り飛ばしながら悪態をつく。弾けた小石は屋敷の外壁に当たりレンガの一部が剥がれ落ちた。相変わらず筋力だけは相当なものだ。


「まぁ、壁の修理代を請求されなかっただけでも助かりました。でも、報酬を貰えなかったのですから、新しい仕事を探しにいかないと」

「だけどなぁ、ロス! 俺は納得がいかねぇよ……」


 セッツが悔しそうにぼやく。


「お前たちが見た盗賊は白銀ラプラタだ」


 見かねたクロードが声をかける。


「おや、クロードさん。貴方も出発ですか?」

「知っているってこたぁ、クロードの兄貴も見たんだな!」

「あぁ、確かに見た。だが、他の奴らに言っても無駄だぞ。ここにいる三人以外は誰も覚えていないだろう。セッツはあいつが術を使う前に意識を失っていたから、術にかからなかったのだろうな」


 ――その盗賊の素顔を知っているのも、俺とロスだけだろう……。


 ロスを一瞥するクロード。その視線に気が付いたロスはにこりと微笑みを返す。


 ――なんにせよ、油断は出来ない奴だな。


「そんなぁ……馬鹿にしやがって! 今度見つけたら絶対にとっ捕まえてやる!」


 鼻息荒く、拳を震わせるセッツ。


「俺はあいつを追いかけるが、お前たちはどうする?」


 クロードは一緒に来るなら来いと声をかける。


「私達は別な仕事を探しますから、どうぞお構いなく」


 ロスはニコリと微笑むと、まだまだ何か言いたそうなセッツの背中を押して人混みへ消えていった。

 クロードは二人の後ろ姿を見送ると、ため息を付いて二人とは逆方向へ歩き出した。



 ******



 サンタローサの町から北へと向かう乗合馬車を待つ一団の中に、人目を避ける様にフードを目深にかぶるキャロルたちの姿があった。


「とりあえず、ロアンヌまでは行けるように手配をしておいたよ。どうせ行くあても無いだろうから、暫くはわたしと一緒に来たらいいさ」


 レビンは俯いていた顔を上げ目を輝かす。


「本当ですか! 荷物持ちでも何でもします!」

「もちろんタダでとはいかないからな。しっかり働いてもらうよ」


 キャロルはレビンの金髪に手を乗せるとクシャクシャと撫でた。

 馬車の停留所に二頭引きの幌馬車が入ってきた。

 自由都市ロアンヌ行きだと御者が告げる。

 二人の旅はここから始まるのだった。


 第一章 了

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