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花束を君に  作者: 夏林冬哉
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02 空っぽの心

騒がしくも楽しい学校生活に心の穴は塞がらずとも幸せだと感じる海音。紗良は幻のメロンパンを買えるのか否か…そんなくだらなくも幸せな日常。

「よし、まぁ今日のところはこのぐらいにしよう。何やら幻のメロンパンが購買で売られるらしいしな。買う予定のやついるか?」

「はい!」

「おお〜そうか加藤は買いに行くんだな。他には…いないっぽいな」

現在4限古文。手際の良さで有名な颯太先生は相変わらず早めに授業を終わろうとしている。

「まぁ〜、一年生の教室から購買までちょっと遠いからな。そのためにわざわざ早めに終わってるわけだが、頑張れよ加藤」

「はい!なんとしても…今回こそは幻のメロンパンを買って見せます!」

紗良は紗良で異常なやる気を見せている。まぁ3回目ともなればいい加減食べたいと思うのだろう。

「そうー買ってきて私に食べさせてー」

むくっと体を起き上がらせた奏がそう言う。

「少しだからね!?もっちゃん半分ぐらいいくときあるけど今回ダメだよ!?」

「はいはい、終了2分前だからそろそろ行ってこい2分ぐらい目瞑っといてやるから」

「颯太先生ありがとう〜!愛してるぜー!」

変なテンションで教室をダッシュで駆けていく紗良に教室中が呆れたような笑みを浮かべた。

「全く…紗良はいつもこうなんだから」

「でも、そこが紗良のいいとこ」

幻のメロンパンを食べられると確信しているのかご満悦な奏が机に顎を乗せて"ぐでー"なんて効果音が似合いそうなだらけ方をしていた

「ふふっ、まぁそうかもね。ん?」

「海音、どうかした?」

「あー、なんか学生証どっかで落としたっぽい。多分3限の音楽の時にブレザー脱いだときにポケットから落ちたのかなぁ」

もう10月に入っていて朝肌寒かったのでカーディガンの上にブレザーを着てきたのだが学校についてしばらくするなりすっかり暖かい陽気になってしまったので音楽の授業時に脱いでいたのだ。

「早めに行った方がいい。私はここで待ってる」

「そうだね、じゃあ音楽室行ってくるよ」

----------------------

「はぁ、運悪いなぁよりにもやって音楽室に忘れちゃった」

私たちの学校はA.B.C棟に分かれており私たち1年生はC棟、2年生はB棟、3年生は理系はA棟、文系はB棟と分かれている。そしてA棟には一部を除いたあらゆる特別教室が詰まっている。さらにA棟、B棟、C棟の順に並んでいるので基本一年生は移動教室が遠いのである。

「よーし、着いた。学生証あればいいんだけどなぁ」

ーー〜♫ーー♪♪

「え?」

無人だと思っていた音楽室から急にピアノの音がしたのだ。それに適当に弾いてるような音じゃなくちゃんとした曲。曲名はわからないし聞いたこともないけど心に染み入るような音色だった。

「音楽の先生かな…」

こんな時間にいるのも不自然だがこのフロアは特別教室しかないし授業が終わってから少し残っていたと思えば不自然ではないのかもしれない。そんなことを考えていたらガラガラっと音楽室のドアが開く。

「あんた、なんでそんなとこにいんだよ」

出てきたのは先生でもなくただの生徒。第一ボタンを開け僅かにネクタイを緩めているその姿は不良とまではいかないが少なくとも真面目なタイプではないんだなと思った。

「あ、えと、学生証を忘れたので取りに来たんですけど…」

するとその生徒は僅かに考えるような素振りを見せて

「あぁ、黒板の端に置いてあるやつか、ちょっと待ってろ」

そう言って黒板端に置いてあった学生証を取りその生徒は戻ってきた。

「ほらよ、学生証なんて無くしてんじゃねーよ」

「えと…すみません?」

「おう」

見た目に反して意外といい人なのかもしれないと直感で感じた。

「なんだよ、ずっと立ち止まって」

「あ、すみません見た目によらずいい人だなと…」

「なんだそりゃ…まぁいいや折角だしな。お前ピアノ好きか?」

「え、いやまぁ好きですけど…私弾けませんよ?」

するとその生徒はキョトンとした顔をした。

「いや別に弾けなんて言ってねぇよ。俺が聞きたいのはピアノ聞いてくか?ってことだ」

なるほど、まぁ時間もあるし弁当は昼休みの間に食べきれなくても5限の休み時間にでも食べればいいだろう。紗良の幻のメロンパン買えたか問題については本人の機嫌を見ればいい。

「じゃあ是非聞かせてください」

「おう、じゃあ…そこの椅子にでも座っとけ。なんか弾いて欲しい曲とかあるか」

弾いて欲しい曲と問われても何も思い浮かばない。しかもこれと言って好きな曲もないので困る。こういう時に私は仮に不幸と感じていなくても結局心が空っぽなんだなと感じるのだ。でも唯一また聞きたいと思うのは…

「……じゃあ、さっき弾いてた曲の続きでいいですか?」

「さっき…あぁ、遊びで弾いてたやつか。あんなのでいいのか?なんなら俺が即興で作ったんだが」

オリジナルであんな物を弾いたことに驚きつつも肯定の意思を伝えるために頷く。

「んじゃ弾くぞ」

ーーー♪♪ーー〜ー♫♪

やっぱり心に染み入る音だ。感動するとか圧倒されるとかそういう音じゃない。ただただ心に染みてくる。心地がいいと感じると同時に嫌だなぁとも思う。だってこの音を聞いていたら自分が空っぽであることを浮き彫りにされてるように感じるのだ。それでも聞き続けたいと思うほどにこの音は心地がいい。

ーー〜ーー♫♪ー♫ーー♪♪♪

気づけば演奏は終わっていた。この演奏を聞けただけでも今日学校に来た価値がある。

「さて、演奏は終わったわけなんだが」

「はい、聞いていてすごく落ち着く音色でした。学生証を取りにきただけだったのにこんな素敵な曲まで聞かせてもらってありがたいです」

「違う、そんな話はしてない」

じゃあどういうことなのだろう…まさかあの演奏を聞いて私に専門的な答えを求めてるわけじゃないだろうし。ましてや貶して欲しいわけでもないだろう。

「え、じゃあ何を聞きたいんですか…?」

「あ?んなもんなんでそんな複雑な顔してるのかに決まってんだろ。自分で気づいてないのかよ」

「え?」

自分ですら気づかなかった表情の変化に驚きつつもそれに初対面で気づいたこの人にもどちらにも驚きを隠せず、私はしばらく固まってしまうのだった。



2話無事投稿できました…1話からしばらく時間が空いてしまいましたがのんびり続きの物語を綴りたいと思います。

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