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2人だけのダンス

カインとディアナが仲直りする少し前

うー寒いっ!制服の上にウールのあったかいコートを着ているとはいえ、この冷たい風は堪えるわ。


明日から学園に正式に復帰する私は、追加の課題や補習の話のために登校していた。寮に戻るのも明日から。侯爵家から馬車に乗って一人でやってきた私は、日暮れ時オレンジがかった石畳の道を歩きながら、物思いにふけっていた。


あれからカインとはギクシャクしたままなの。普通の従者としてやりとりはできるけど、常に一緒に行動するのはケイト固定になって、彼とは距離を置いている。謝りたいことをケイトに相談すると、「お嬢様が謝る必要はありません……アレの心の整理ができるまで、待ってやってください。」と言っていたので、いらないことはせず、事態を静観しているような状態。


人の少ない学園内をゆっくりと歩く。2か月離れていただけなのに、なんだか懐かしいかんじがするわ。いつもはもっとガヤガヤしていて、なんというか生命力?みたいなものに満ち溢れているけれど、今はしんと静かでまるで眠っているみたい。


生徒たちが教室棟にあまりいないのは、放課後というのもあるけれど今日が伝統的な冬越の祭りだから。郷土料理の数々が並ぶ屋台や、魔法を使った華やかなパレードを楽しんでいることだろう。カインとケイトには、お祭りに行くウィルとそのお友達の護衛をお願いしている。ウィルにもここ最近は心配かけちゃったから、思いっきり楽しんできてほしいな。


先生方のいらっしゃる職員棟での用は思ったより早く済んだ。クリスタ先生が号泣していたのにはびっくりしちゃったけど、手続きや課題の受け渡しは滞りなく進んだのでホッとする。そうそう、国史のマックローン先生も普通の態度で、毎週水曜日の夕方補講することで話はまとまったの。なんだかもの言いたげな顔をしていたけど、なんだったのかしら……?


夕闇が入り混じる学園内を一人で歩いていると、廊下の向こうから誰かがやってきた。この見知った顔は……シャルル殿下!?


「やあ、ディアナ。もう良くなったみたいだね。」と彼。殿下が忙しい&まだ本調子でないからとケイトたちが止めるので、会ったのは久々だ。前まではまだ少し少年ぽさの残った中性的な雰囲気だったけど、少し背も伸び、骨格もしっかりとした大人の男性になりつつある。2か月なんてほんのひと眠りだったけど、周りはどんどん変化していっているのね。


「シャルル殿下!お忙しい中、お花とメッセージありがとうございました。」療養の励みになり、すっかり良くなりましたわと私。

「いいんだ。君が無事でよかったよ。ところで、今から時間はあるかい?」と殿下。この後はもう帰るだけだし、大丈夫ですと答えると、殿下は私の手をとって歩き出した。な、何?


教室棟の階段をどんどん上り、最上階へ。普段立ち入り禁止のロープがかかっているドアの前で殿下が「内緒だよ」と言い、呪文をつぶやくと、ドアがひとりでに開いた。


教室棟の屋上!初めて入ったわ。でもこんなところで何をするのかな?


「カードにも書いたけど、学園祭で踊れなかっただろう?ここならちょうど祭りのパレードの音楽が風に乗って聞こえるんだ。」レディ、一緒に踊っていただけますか?とわざとすました顔で殿下が言う。


ああ、そうか。私が学園祭に参加できなかったから気を遣ってくれているんだ。優しいな。


「喜んで。」と私も淑女ぶって受けると、二人で少し吹き出してしまった。殿下の手を取り、遠くから聞こえる音楽に合わせて踊りだす。

私たちの国では、正式に夜会やパーティーに参加できるのは学園卒業以降。だから私は殿下と踊ったことはない。だけど、殿下のたくみなステップと優雅なリードで、すいすいと踊れてしまう。きっと殿下は王族として昔から、練習を積んできたんだろうな。


誰もいない屋上で誰も見ていないから。思いっきりダンスを楽しんでしまった。曲が終わり、お互いお辞儀をすると、火の落ち切った夜空に、いくつもの花火が輝く。冬越しの祭りのフィナーレだ。

「きれい……」そうつぶやいて花火を眺めていると、「ディアナ……子供の頃は君にひどい態度をとってすまなかった。」と突然殿下から謝罪されてしまった。


「いいえ……そんな……」突然のことでうまく言葉を取り繕えない。私の心の 中の(昔のディアナ)の部分が震えている。


答えられないでいる私をよそに、殿下もなぜか言葉に詰まっている。しばらく美しい景色の中で2人共モジモジしていたけど、殿下は気合を入れるように一息つくと、


「噂ではどういわれているか知らないが、僕は君とこのまま結婚するつもりだ……貴族のパワーバランスなんて関係ない。僕は……僕は君が好きなんだ。」と言った。


ひと際大きな花火が夜空に大輪を咲かせた。花火の光の中、普段のあの取り繕ったような王子様の表情ではなく、熱のこもった瞳で真剣にシャルル殿下が私を見つめている。


ええ?ええええええー!!??


「この国の王となる僕を支えてくれないか?」君と一緒に国を盛り立てていきたいんだ。君がいてくれれば、君のためなら僕は頑張れるから。と殿下。


あまりに突然の告白に頭の回転がついて行かない。え?私仮婚約者じゃないの?殿下は南の国の王女様と結婚するんじゃないの?


というか、殿下は私のことが好き?


理解が追いつかない。顔は真っ赤になって頭からシューっと蒸気が出そうになっている。そんな私の頬を愛おしそうに触れる殿下。どうしよう、どうする私……


「殿下ーーーーー!殿下ーーーーー!大変です!!!」と、恐らく前とは違う、顔のよくわからない人が走り寄って私たちに割り込んできた。た、助かった……


とっても不機嫌になった殿下にその人が耳打ちすると、みるみる彼の表情が困惑、そして驚愕に変わっていった。


「すまない!ディアナ急用ができた!」この話はまた今度!と言って殿下はその人と去っていってしまった。


い、一体何だったの?というか私、どうしたらいいのーーーーーー!?


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