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留年ってこと!?

ワイバーン倒して魔力も生命力も使い果たして、ちょっと休憩と思って目をつぶったら、2か月も経っていた。びっくりよね。ついさっきのはずなのに。


朝目覚める時のように、まどろみからふわーっと浮上していつも通りの起床をとげた私は、周りのあわただしい様子に驚いた。だっていつもの朝だと思っていたから。

だけど、「お嬢!」とガーゼを持ったカインは泣きそうな顔をしているし、「私はウィリアム様を呼んできます。」とケイトはいつもは落ち着いているのにバタバタと走り出すし、その後やってきたウィリアムは泣きながら「お姉ちゃーん!」と抱きついてくるし、部屋は花だらけだし。「あれ?」と頭にハテナマークがぐるぐるしていたんだけど、ちょっとしてやっと魔猪やらワイバーンやらの騒動を思い出したってわけ。


ザンダーが手配してくれた医師に回復したと太鼓判をもらい(珍しい症例だから学会で発表したいと言われたけど、丁重に断った。侯爵家として外聞が良くないの。)、私に抱き着いてベッドから降りないウィルに「もう家庭教師の時間でしょ?晩御飯はこの部屋で一緒に食べましょう。」となだめ、一息ついた私はあの後起きたことをカインとケイトから聞くことができた。


「あれは夢だったんじゃない?」と疑いたくなるけど、私がワイバーンを倒したのは事実らしい。ただカインが機転を利かせてくれて、その事実を見た人間には誓約魔法をかけて外に漏れないようになっているそうだ。「だから少し弱いワイバーンの亜種をお嬢が引き付けている間に学園の教師たちと俺で倒したことになってる……手柄を横取りするようで悪いな。」とボソッとカインが言う。


いやいや手柄なんて欲しくない。それに私がワイバーンを倒したなんて誰も信じないだろう。未だに私自身なんであんなことになったのかわからないし。「もう少し体調が回復した時に、いろいろと試してみましょう。」とにかく今は伏せておくべきですとケイトが言うので、私は素直にうなずいた。


ぐーすか眠っている間に、魔獣討伐訓練も学園祭もつつがなく終わったそうだ。スタン様含む私たちのチームは私を欠いた状態で総合4位と堂々の入賞。ミシェルとジェーンは魔法省への道が開けたと大喜びだったらしい。本当に良かった!


学園祭の方も、最近のゴタゴタが落ち着いて大盛況だったと。ちなみに私がロバの足役で出るはずだった劇も上演されたけど、ロバは背景に描かれてたんだって。やっぱりそれでよかったんじゃん!


そうそう、劇と言えばヒロインちゃん。魔獣を呼び寄せる魔道具との関係が明るみに出たらしい。もちろん残念ながら魔獣討伐にも学園祭にも参加できず(演劇部の先輩が劇の代役をやって、評判が良かったらしい)。もうヒンデンベルク家は面倒見切れないということで、一時身柄は神殿に移されてそこで官憲から取り調べを受けたけど、中々強情で口を割らなかった。そうこうするうちに、また王宮側も介入して事態は大変にややこしいことになって、とにかくまだ学園には通っているとのこと。正直、もう会いたくないわねー。


「それでお嬢様、学園での単位についてなのですが……」と言いづらそうにケイトが切り出す。

そうだ私丸2か月眠りっぱなしだったんだ!え?もしかして留年?


焦ってベッドから無理やり起き上がろうとしたけど、まだちょっと上手く力が入らなくてそのままパタリと後ろに倒れてしまった。情けない。


「落ち着いてください!事情が事情ですし、ほとんどの科目は時間も足りているので大丈夫だそうです。ただ……授業数の少ない国史Ⅰだけはどうにもならないそうで、個人的に補習を受けてほしいと学園側からは言われています。」


ゲ。よりにもよって国史ってあのマックローン先生の授業じゃない。まあでも特別扱いされるわけにもいかないし、仕方がないか。



こうやって眠っていた時間を埋めるように、たくさん話を聞いていく。この素敵な花々はシャルル殿下が毎日侯爵家に贈ってくれたものなんだって。全てにカードが付いていて「早く目覚めることを願っている」「今日は学園祭だった。一緒に踊りたかったよ。」など殿下直筆のメッセージが書かれていた。

思えば前世の記憶を取り戻した時から、殿下との関係も割と変わったわよね。嫌々書いた走り書きから、わざわざ花のプレゼントと毎日のメッセージだもの。南の国の王女様の輿入れまで、このまま良い関係でいられたらなと思う。あとで心を込めて、お礼状を書かなきゃね。


ただ気になったのは、カインのこと。なんとなく彼の表情が硬いというか、そっけないというか……目覚めたときは本当に心配してくれてたみたいなんだけど、今は目も合わせずせっせと花の世話や身の回りの整理ばかりしている。話し方もなんだかぶっきらぼうだし……


あ!そりゃそうか。私があんなところに呼び出したから、彼は気絶した私の代わりに後処理をする羽目になってしまった。とても大変だったに違いない。それで怒ってるのかな。ちゃんと謝ろう。

「あのー……カイン、迷惑かけちゃってごめんね。」色々巻き込んで、危険な目に合わせて申し訳なかったと謝罪した。


そんな私の言葉にビクリと反応した彼だったけど、背を向けたまま「お嬢はいつもそうだ。」とだけ言い残して、さっさと部屋を出て行ってしまった。


どうしよう。私、カインに嫌われちゃったみたい。

(作者:カインの気持ちは次回!)

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