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さっさと行きなさい(sideカイン/ケイト)

「彼は正規の任務のために帰ると言っているのです。」いつもの背中に怒気をはらませ、上司が言う。

「それが敵前逃亡だって言ってんだよ。」

「彼がここにいるのはあくまで親切心。逆に今帰らないと正規の任務を放棄したも同然になります。」

邪魔をするというのなら、私を倒してからにしてください。と彼女は静かに双剣を構えた。男たちがいきり立つ。


「何をぼーっとしているのです。さっさと行きなさい。言ったでしょう?いつでも、お嬢様を優先なさいと。」と 上司(ケイト)が振り返る。俺はその言葉にうなずき、なおもわめくおっさんを無視して王立学園へと走り始めた。

振り返ると、彼女の後姿が小さく見える。誰よりも強くて、誰よりも大きい背中だ。くそっ、お嬢を救い出して、そしていつか必ず追いついて追い越してやるからな!


何があったのかわからねえが、とにかく俺が着くまで持ちこたえてくれ、お嬢。





「追え!絶対に逃がすな。生死は問わない。」と汚い唾を飛ばしながら、指揮官が叫ぶ。

命令を受けてカインに突進していく4人の男達が、見えない壁にぶつかって尻もちをつく。私お得意の結界魔法。ケリがつくまで、私とアイツらを外界から隔絶する檻だ。


慌てて体勢を立て直し、こちらに向かってきたのは中年の2人。彼らよりかなり若いもう2人は私が相手ということで、心が折れたのか立ち上がらない。独り歩きしている過去の噂でも聞いているのだろう。


同時に向かってくる男たちを軽くいなし、まずは1人の後ろに回り込んで、剣の柄で殴りつける。もう1人はもっと手練れで、中々背後を取れない。火魔法を打ってきたかと思えばそれは陽動。左側につけられ、顔に一発もらう。私は彼のその腕を掴んでそのまま背負い投げ、地面に思い切りその背中を叩きつけ、腹を踏みつけた。戦闘不能にするために。


「まだやりますか?」

汚れた頬を拭いながら、私はたずねた。答えず、後ずさりする男たち。


カインは追えない距離まで行った。こいつらには戦う意思はもうない。結界魔法を解除しても大丈夫だろう。


「国内での、スリーパー狩りを囮なしで指揮できないほどあなたは無能なのですか?」と私は冷ややかに聞いた。先ほどの作戦計画の説明でも一部不満が出ていたように、囮を使い捨てにするような作戦を騎士たちは好まない。そもそも自国での合同作戦なのだから、物量(にんずう)で押すのが正攻法だ。そのための訓練をみな受けてきている。


それに……向こうの悪感情で、育ててきた黒犬をつぶされるのに私は我慢ならなかった。


「う、うるさい!あのクソ坊主の免責外してさっさと牢屋にぶち込んでもいいんだぞ!?」

「それを決めるのも、そして私たちに命令できるのもあなたではありません。」そう言いながらクズ野郎に近寄る。先ほどの荒事の記憶も新しいせいか、ヤツが身をこわばらせたので、私は耳元でこう囁いた。

「メイソンヤード作戦でのことを、ここで蒸し返してもいいんですよ?」あそこにいるのはあの作戦で亡くなったフランクリン中尉の父親、第2騎士団副団長ですね。彼に真相を知られたら……あなたはどうなるでしょう?と言うと、わかりやすくヤツの勢いが削げた。

「人手を減らしたのは私ですから、作戦には私も参加しましょう。そろそろ開始予定時刻ですよ。」

「騎士団は正面から、官憲は2階から、”影”は裏の大窓から入れ!ガキが一人抜けたくらいで戦力に変わりはない!マニュアル通りにやるぞ!」と破れかぶれといった風に男が叫ぶ。



面倒は片付けて、早く帰ろう。ボロボロになって帰ってくるであろう2人を、出迎えなければならない。とびっきりのアールグレイに、お嬢様には色とりどりのジャムクッキー。あの黒犬には甘い甘いザッハトルテを。


「王宮騎士団だ!!」の叫び声と共に、騎士団は表から、私たち諜報関係は裏手の窓から侵入する。敵は13人。広い屋敷だ。天井も高く魔法が打ちやすい。混戦になると同士うちの可能性が高まって厄介だろう。

水魔法を打ってくるのを素早く解除し、そのまま接近戦闘に持ち込む。素手での殴り合いが今回の場には最適だ。私は容赦なく、敵意とそして恐怖にゆがむ 潜伏スパイ(スリーパー)のあごに掌底を叩きこむ。


今日は誰にとっても厄日なのだ。だからどうか、今日を乗り越えたら、明日からはこれまでと同じ日常が続きますように。


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