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私の夏休み1

PCに猫が乗っていて更新が遅れました。

申し訳ありません。

チリリリリと鳴く虫の声。前世日本と違って、ここには灯りはなく真っ暗だ。ただ、この環境に慣れてきたせいか、夜目でもわりと周りは見える。まだ夏は半ばで夜風は生暖かく、茂みに潜む私の頬をなでる。ごきげんよう、現在夜の急襲訓練中のディアナよ。シーッ、静かに!ちょっとした物音が命取りだから。


ここはバーンスタイン領の山の中。この地方は自然環境が厳しく、あまり人が住んでないから今回の夏合宿の場に選んだの。もちろん部活や遊びじゃなくて、ケイトやカイン、そして久々に再会したおじいちゃんおばあちゃん達との合宿よ。大規模な直接戦闘訓練や、こういう夜の急襲あるいは籠城訓練など、普段学園ではできないような訓練をやってるの。


同じチームのおじいちゃん…もといテリーさんが自分は裏手側から回るとハンドサインをしている。私はうなずき、人差し指と中指を自分の目に向けた後、目的のテントをそのまま指さす。このまま近づきながら監視を続けるという意味だ。

今回の訓練は人質救出を目的としたもの。ただ、向こうのチームが全員テント内にいるとは考えにくい。もちろん、うちのチームだってそれを予想済みで人員を展開しているわよ。ただ事態は膠着中。だからついつい、この夏の思い出が頭をよぎっていくわ。


夏の初めにシャルル殿下が倒れちゃってね。まああれだけのハードワークだし、長期のお休みでマリーローズちゃんの心労から一旦解放されて、気が抜けちゃったみたい。


ちょうど定例のお茶会の日だったからお見舞いに行ったんだけど、ベッドですやすや眠っている姿に窓から陽の光が差していて、神々しい雰囲気。やっぱ顔がいいわね。起こすと悪いし、魔法でタオルを少しだけ凍らせてから交換して、今日は帰ろうかしらと思ったら、目覚めた殿下に私のスカートを引っ張られてしまった。


「……ディアナ、君なのかい?」目をこすりながら殿下が弱弱しく言う。

「ごきげんよう殿下。ディアナ・バーンスタインでございます。お体の具合がすぐれないとお伺いしておりますわ。今日はもう帰りますから。」

「帰るのかい?もう少し一緒にいてくれないか。あまり、弱った姿を使用人たちには見せたくなくてね。彼らを部屋に入れないようにしているんだ。だから食事の手伝いをしてくれるとうれしいんだが……」

「でしたら構いませんわ。すぐに準備してもらいますから。」と私。王太子たるもの自分の体調で、周囲の人間を不安にさせてはならないということかしら。子供のころからそうなら国王陛下や王妃様が直々に面倒は見られないだろうし、ちょっと同情しちゃうな。


運ばれてきたオートミール粥の乗ったワゴンを殿下の部屋の前で受け取って、カラカラとベッドサイドに運ぶ。毒見後でも冷めないように魔石のコンロの上に乗っていてホカホカだ。熱で手元のおぼつかない殿下にはちょっと危ないかも。

クッションで身体を起こした殿下が、ソワソワと髪を直している。ふふっそんなこと気にしなくても別にカッコいいのにね。

おかゆを小さなベッドテーブルに乗せ、私は「失礼いたします。」と言ってベッドに座った。スプーンでアツアツをすくってふーふー冷まし、殿下の口元に持っていき「はい、あーんしてください。」と言う。


あれ?殿下がフリーズしている。


「殿下?食べないと治るものも治りませんよ。」さ、あーんしてくださいと促すと、素直に殿下が口を開いたので、おかゆを食べさせる。よしよしいい子ね。

「……こんなことしてもらったことがないから、照れるな。」

「ふふふ。私もやってもらったことはないのですが、ウィルが体調を崩した時にはやってあげるんですよ。」

「君の弟は、君がいてくれて幸せだな。」

最初はおずおずだったけど、食べ進めると殿下はうれしそうに口を開けるようになった。しっかりとおかゆを完食し、私が淹れたお茶も飲んだ彼は、ちょっとだけ顔色が良くなった気がする。

とりとめもない話をして、そろそろおいとましようとしたら

「ディアナ……明日も来てくれるかい?」と殿下。熱っぽいからか目がウルウルしている。何だかウィルの姿と重なって、可愛くも見える……うーん……まあ看病してくれる人がいないと心細いだろうし、早く元気にはなって欲しいし……。

そこから2週間弱、私は毎日王宮に通って殿下を看病し続けた。

最後3日間はわりと元気そうに見えたけど、まあこういう機会だからゆっくり休みたかったのかな?

「殿下。治りが悪いのであればヒンデンベルク嬢を呼んで治癒魔法をかけてもらっては?」と冗談めかしく私が言うと、

「いや、彼女を呼ぶと余計に体調が悪くなる気がする……。」とげんなりとした顔で殿下。彼女、くしゃみしてるかしら?




そんなことを思い出していたら、目の前のテントから閃光が広がる。害はないただの光だ。たぶんただの目つぶし。こちらはただの陽動で、本丸はここを見渡せる少しいったところの崖付近だろう。うちのチームの本隊もそちらに向かっているわよ。


そうそうウィルのためのお茶会を開いたのも、こんな日差しの強い日だったわ。


ウィルは家庭学習でしょ?だからあの子の世界って基本的に侯爵家内だけで人間関係も狭いのよね。甘えんぼさんだしお姉ちゃんちょっと心配なわけ。なので学園入学前にお友達を作って欲しくて、うちでお茶会を開くことにしたの。同じ年齢のご令息やご令嬢をご招待したんだけど、内輪だからまー自由ったらなかった。

強い陽の光がさす暑い日だったから、カラフルなパラソルをいっぱいさして庭に並べてお茶会会場に。そんな中、男の子たちはうちのシェフが腕によりをかけた氷菓子に夢中。あと、 うちの子(ウィル)ってイケメンでしょ?しかもバーンスタインの次期当主というのはとっても魅力的な地位。だから女の子たちが群がっちゃって群がっちゃって。ぴゃーぴゃー逃げてるウィルも可愛い。ま、あれだけ顔がいいからこういうのにも慣れないとね。


とまあ、何回か愛々しいお茶会を繰り返しているうちに、ウィルはベルナールの弟とすっかり仲良くなったの。最近では魔法の家庭学習も一緒にやったりしてるのよ。ウィルとジェームズ(ベルナールの弟ね)と猫のブランシュで走り回って、木陰で白いもふもふのブランシュのお腹を枕にしてお昼寝してるのはとっても微笑ましいんだから。


ふふふ、お休みっていいわね。おっと、いけないいけない。訓練中なんだから集中しないと。


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[一言] 猫なら仕方がない
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