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これがざまあってやつ?(※※※)

いやーまた奇遇だねえ、※※※です。え、もうお前の名前なんてどうでもいいって?そういわれると言いたくなっちゃうなあ。


なんていうのは冗談として、俺は今王立学園に潜入しています。何でも珍しい癒しの魔法が使える少女が国内で見つかって、まあまあ紆余曲折があって王立学園に転校してきたんだって。ただその女の子がやたら殿下とその側近達の事情に詳しくて(殿下いわく、的外れなことも多いらしい)一気に要注意人物に昇格。官憲の諜報部門がより詳しい身元調査を、”影”は彼女の監視兼護衛をということで上層部同士で話がついたらしい。

傷も病気も治せる珍しい魔法ではあるけど魔力はそう強くないから、俺ならいざという時に抑え込めるからってこの役に任命されたってわけよ。殿下の護衛とスパイ狩りとでもう35日連勤している。この任務が終わったら、暑い南の国の離れ小島でモヒート片手に浜辺でゆっくりするんだ……。



にしても、日に日にしょぼくれていくんだもの、殿下が。件のご令嬢はショーン殿下と同じクラスらしいから彼に任せたらどうか聞いたら「いや……ショーンは体調がすぐれなくて登校が不定期なんだ。それにヒンデンベルク嬢と初日から大揉めしたから無理だ。」だって。



ある日疲れ切った様子の殿下が、俺に珍しく愚痴を言ったんだ。確か、あの子が転入して1週間たったころかな?「ヒンデンベルク嬢は、最低限のマナーもできないから、『こうしたほうがいいよ。』『それはやめたほうがいいよ。』と注意しても『学生なんだからそんな堅苦しいのは必要ないですよぉ。』『それよりも、私みんなで街にお出かけしたいですぅ。』なんて言って、まったく人の話を聞かないんだ。」


「彼女はいじめられたと騒いでいるが、上級生が注意するのもわかるんだよ……異性に対して距離が近すぎる。多少見目のいい異性に対して限定なんだが……平民でも、普通は恋人でもない異性に不用意に触ったり抱きついたりしないものだ。あれじゃまるで、閨教育で習ったような娼婦じゃないか……」


「しかもディアナが彼女に嫌味を言っている、暴力を振るったなんて嘘をつくんだ!僕はディアナの入学祝いに追跡魔法付きの腕時計を贈って見守っていたから、ディアナが彼女に近づいたことがないのは確実なのに。」


「確かに学園内ではみな平等と言ったが、それは傍若無人に振舞っていいというわけじゃないんだよ……マナーはありつつ、普段交流することの無かった学生同士が仲良くなる場だと言いたかったんだ。」


「なんというか、ヒンデンベルク嬢と一緒にいると自分がモノになったような気分になる。他のご令嬢に対するキツイ態度とは違って、彼女は僕やゲイルとかにはとても好意的に接してくるんだよ。だけど、彼女の思い通りに僕らが動かないとわかると物凄いかんしゃくを起こす。彼女にとっては僕らも含めて、周りの人間みんなに意志なんてないみたいに振舞うんだ。彼女は僕らの考えの及ばない、神話上の生き物かなにかだろうか……?」


とまあ出るわ出るわ。終いにはディアナ嬢の事以外はいつも冷静な殿下が、神殿のじいさんたちみたいなことを言い出した。だから直後に監視の依頼が来ても断らずに、とりあえず俺は受けることにしたんだよね。実際にその不気味少女(仮称)を見て、何か殿下と対策をたてられればと思ってさ。



まあ覚悟していたけど、スゴイね、彼女。



娼婦のような……の部分は納得した。確かにああいうタイプの女の子はいるし結構人気だったりする。とまあそれはそれとして、何より、同性への態度がヤバすぎる。

殿下はキツイ態度なんて言ってたが、たぶんそれでも猫を被ってる方だ。同じクラスの真面目なご令嬢から授業のノートを巻き上げたり、日直を気の弱そうなご令嬢に押し付けて手柄だけ自分のものにしたりとやりたい放題。魔法のコントロールが下手くそなクセに、まっとうな注意をしてきた年上のご令嬢が背を向けた途端、火魔法で丸焦げにしようとしたんだよ!?俺がギリギリのところで解除したから良かったものの、もうちょっとで国内貴族が分断されるような事態になるところだった。


あと、やたら独り言が多い。「ちゃんと選択肢通りにしたのに……」というものから、一応”影”で大陸中の言語はマスターした俺でもよくわかんない言葉でブツブツ言ってる。そこがまた怪しいんだよね。一回ディアナ嬢と彼女が無理やり2人きりになった時も興奮してその言語でしゃべってて、ディアナ嬢も困惑してたな。


そう、不気味少女のディアナ嬢への執着は異常だ。「ディアナ嬢に平民であったことを馬鹿にされた」「彼女に頬を叩かれた」などなど言いふらしては、ほとんどの生徒に呆れられている。ディアナ嬢の評判はあの襲撃事件から、うなぎのぼりらしいからね。「バーンスタイン嬢が本当に叩いたんなら、今頃あの子は立ってられないって。」という生徒もいてちょっと笑った。ディアナ嬢は色んな意味で一目置かれているみたいだね。俺はなんとなくうれしい。訓練頑張ってきてるの見てたし。



ただそんな妄言が目に余るなあと思っていたころ、殿下から不気味少女の持ち物に複合魔法をかけるように指示があった。ディアナ様と殿下の初めての共同作業(と殿下は言ってた。術の癖的に、あの先輩が一枚噛んでるのは確実だろう)の魔法陣を使って、俺は不気味少女の持ち物という持ち物に魔法をかける。いろいろな物質強化魔法や警告魔法が複雑に編まれているが、俺は魔力をこめるだけでいいから楽チンだ。これ護身用とかに流用できそうな気がするな……


そこからは相変わらずな日々が続く。俺も大分フラストレーションが溜まってきた。こんな監視対象に腹を立てたのって初めてかも。謎の言語の報告をしたから、官憲の調査が伸びて、まだこの任務終わらないんだよねー。



その日も強力な認識阻害魔法でバレないようヒンデンベルク嬢をつけていた。彼女がキョロキョロと周りを気にしている。いつもは殿下たちかボンクラそうな貴族令息達を侍らせているのに、今は珍しく1人になりたいらしい。移動教室で誰もいない教室に入っていく。思いっきり初級魔術演習の授業のサボりだ。貴重な魔法を鍛え、国に貢献すると誓ったからこの王立学園に通っているはずなんだよなー、この子そこんとこ理解しているのかねえ。


彼女は乱暴に自分の教科書やノートを机に並べると(高そうなアクセサリーはしまい込んでいる)、黒いインク壺の蓋を開けて、腕を振りかぶってそこにぶちまけた!


みんなも知っての通り、俺はもちろん指示通りにヒンデンベルク嬢の文房具類に教科書、机や椅子に至るまで何もかもに液体を弾き返す作用を含む魔法をかけたよ。そしてあの先輩が関わった魔法にエラーはないわけ。だからそんな勢いよくインクをかけたら、魔法が発動してその勢いのままインクが跳ね返って……ヒンデンベルク嬢は顔からお腹まで上半身全部に真っ黒いインクを引っ被ることになった。


「一体何なのよ!」

口の中までインクで汚しながら彼女が怒りに震えて叫ぶ。


そんなヒンデンベルク嬢の怒鳴り声を聞いて、授業を中断してEクラスの教師と生徒たちが恐る恐る見に来る。これじゃ1人でインクを被っている不審なご令嬢だ。彼女はイライラして机や椅子を蹴り飛ばし、どすどすと音を立て走り去っていく。寮の部屋に戻るのかな?俺も追いかけなきゃ。


「彼女の話が本当なら、これで守れるからね。」と殿下は言っていたが「いじめを自作自演する可能性がある」とも言っていた。だからやったことはそう驚かないよ。ただ、百歩譲って手や何かにインクをつけてちょっと汚すとかならこんなこと起きなかったのに。


あ、そういえばこの子とディアナ嬢、思い切りが良いという点では少し似てるかも。


それ以外は何もかも大違いだけどね。


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