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どうしてこうなった

突然だが私は朝が苦手だ。とろとろとしたまどろみが気持ちよくて、しばらく楽しんでいたいタイプだし、あっという間に二度寝するタイプでもある。


ちゅんちゅんと鳥の鳴く声をBGMに、起きるか起きないかのギリギリラインをさまよっていると、誰かがシャーっと部屋のカーテンを開けた。侯爵家のカーテンなだけあって、遮光性ばっちりのそれに遮られていた朝日が差し込む。まぶしい。


「お嬢、起きてください。朝ですよ。」と優しいテノールの声が私に呼びかける。うっすらと目を開けた先には、黒い従者服をすっきりと着こなした赤い瞳の青年の姿があった。


どうしてこうなっちゃったのかな……?

現実(顔のいい従者)を見たくないといわんばかりに、私はふんわりとした羽毛布団にさらに深くもぐった。




ちょっとばかり時を巻き戻そう。


彼を連れて帰った日、お屋敷の正面から、先ほどのKOMEDAWARAスタイルで彼を運び込もうとしたら、ケイトに止められてしまったので、しぶしぶ彼を彼女に預けて私だけ屋敷に入った。(ケイトは彼をお姫様抱っこして裏口から入ったらしい。力持ちだなあ。)日頃の筋トレの成果を試すチャンスだったのに。


ちょっぴり不貞腐れながら湯浴みをして、着替えていたらそれなりに時間がたってしまった。ケイトに案内されるがまま、使っていない客室に入ると、手当をされ拭き清められた彼がベッドで静かに眠っていた。


「お医者様に見ていただいたところ、出血はしていましたが内臓は無事なので命に別状はないとのことです。また、後ろからこん棒か何かで殴られたようで大きなこぶが頭にあったようで……」とケイトが指し示した通り、頭にも包帯が巻かれていた。


麻酔が効いているようで、彼の細いけれどしっかりと鍛えられた胸が上下している。とりあえず助かって良かった!


「とりあえず、傷がふさがるまでは安静ね。あなたもメイドの仕事があるだろうから、やり方さえ教えてくれたら、後はできるだけ私が世話をするわ。」

「わざわざお嬢様がお世話をなさるのですか?口の堅いものを短期で雇おうと思っていたのですが。」

「まあこれも家を出た後に役立つかもしれないし、下手に人を雇い入れてお父様にバレると面倒だからね。」彼が元気になるまでの間だけだし。この傷が治ったら、彼の運命にとって一番危険なのは私だ。代筆屋で一生懸命稼いでお金をわたしたら、申し訳ないけれど、できるだけ遠くに行ってもらおうっと。


そんなこんなで、彼の傷がふさがるまで私が看病することにした。


毎朝、ガーゼや包帯をかえ、身体を綺麗にする。最初はおっかなびっくり替えていた点滴も、ちょっとすると慣れてきた。

何日かたって、その日も私は張り切って客室に向かった。私とケイトしか持っていないカギを開け、こっそりと中に入ると、彼は今日も眠っていた。お医者様の話だと、そろそろ目が覚めても良い頃らしいけど、頭のダメージが心配だ。


そんなことを思いながら、包帯を替えるために私が手を伸ばすと、途端に手首をグッとつかまれた。驚いて彼の顔を見ると、あの赤い瞳とばっちり目があう。お、おはよう、お寝坊さん!

「とりあえず、放してもらえる?清潔にしておかないといけないってお医者さんからの指示だから。」私がそう言うと、彼は警戒した顔のままではあったけれど、一応手を放してくれた。


「包帯を替えた後、蒸したタオルで身体を拭き清めるわ。」そう伝えて私はもくもくと作業を始める。縫合されているとはいえ、まだ少し血がにじんでいる傷口は痛そうだ。サッとガーゼを取り替え、包帯を巻く。


見かけた時はボロボロだったけど、清潔にされた彼は、黒いサラサラの髪にスッと通った鼻筋、ちょっぴり薄めの唇でとっても整った顔立ちをしている。攻略対象じゃないサブキャラだったけど、メインキャラを差しおいて、人気ランキングに入るくらいだったもんね。


そんな彼の顔を見ていたら、不可抗力とは言え、私がこの人に無理やりキスしちゃったことを思い出した。顔に熱がこもって赤くなっているのがわかる。

「あ、あのキスは申し訳ないと思うけど、その…人工呼吸みたいなもんで、命を救うための行為だったから……。でも勝手なことをしてごめんなさい。」と私は謝った。

弾かれたように私の顔を見る彼。朦朧とした中でも覚えていたのか、私に負けないくらい顔が真っ赤になっている。

「まあ俺はいいけどよ…なんで助けた?貴族のお嬢様らしくノブレスオブリージュってやつか?」

「別に、目の前で死なれたくなかっただけ。あと……その瞳がルビーみたいでキレイだなって。」と私は素直に口にした。私にとって彼はこの世界の、そして悪役令嬢としての私自身の被害者だと思っている。でも私のせいで、あなたが死ぬのを阻止したいなんてことは絶対に言えない。それに彼の瞳が美しいと感じたのは本音だしね。

「酔狂なご令嬢だな。あんなとこで転がってたんだ。お察しの通り俺は身ぎれいな人間じゃない。動けるようになったら、お前ら全員皆殺しにして、金目のものを持って逃亡するかもしれないぞ。」と脅すように言う彼。でもまだ顔が赤い。

「その時はその時よ。まあ、殺すなら一思いにやって欲しいけどね。」

そんな会話をしているうちに身体も拭き終わり、点滴も替えたら、朝のお世話は終わり。一仕事終えたように、ふーっと息を吐く。


「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったわ。」部屋から出ようとした私は振り返って彼に尋ねた。知ってないと今後不便だしね。

「俺は…カインだ。苗字はない。」と彼はそっぽを向きながら言った。まだちょっと耳が赤い。

「カインね。改めまして私はディアナ・バーンスタイン。ただの気まぐれであなたを侯爵家で面倒見ることにしたご令嬢よ。」とカーテシーをした。


今だけ……そう今だけ、私の元でゆっくりと休んでね。


(作者:明日はあの人とあの人サイドのお話です。どうしてこうなったかわかります。)

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