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世界は私のためにある(sideマリーローズ)

「ヒンデンベルク嬢、もっと滑らかに歌えませんか?音は合っていても、あちこちに飛んでしまっていてはとても美しいメロディとは言えませんよ。」とピアノを弾く手を止めて、偉そうな教師が言う。


こんなアホみたいに音が動く歌を歌えるわけないじゃん!作ったやつが頭おかしいんじゃない?


やってられないので、私は手に持っていた楽譜を教師に投げつけ、さっさと音楽室を出る。「ヒンデンベルク嬢!」と悲鳴のように叫ぶ声が聞こえたけど知らない。たかが音楽教師、しかも子爵家の出でしょ?伯爵家の令嬢の私にぐちゃぐちゃ言うんじゃないわよ。


とにかく寮の部屋に戻って、お茶とお取り寄せさせた隣国の高級なスイーツでも食べよう。ちょっとは気が晴れるかも。


本当、入学してからイライラすることばかり。ゲーム通りのイケメン達に囲まれる気分は悪くないけど、貴族のあーだこーだはウザいし、大好きなカイン様には全然会えないし最悪。


私が前世の記憶を取り戻したのは12歳の頃。近所のガリ勉女をからかっていたら、そいついきなり突き飛ばしやがったのよ!?陰キャの思わぬ反撃に驚いて、尻もちを着いたときに思い浮かんだのが「また?」って言葉。そこからぶわーっと前世の17年間分の記憶が蘇ったってわけ。

前世の私は、学年でもトップクラスに可愛い女の子だった。SNSでは結構人気のインフルエンサーで、男の子はちょーっと優しくすれば何でも私の言うことを聞いてくれるし、お小遣いをくれるパパもたくさんいて、まあ他の子たちとはレベルが違うっていうか正直人生楽勝モードってやつ?校内に彼女のいる男の子に気のあるかんじでイチャイチャしてみたら、どれだけ長く付き合ってようが、あっという間に女を捨てて「付き合おう」って言ってくるんだもん。捨てられた女の顔を見るのが面白くて、一時期ハマってたなあ。


めぼしいイケメンとは遊んだし、次の暇つぶしはどうしようっかな、上京しないと良い遊び場がないもんな、と思ってた時に出会ったのが『君恋』。あんまり興味なかったけど、「実はゲーム好き♡」とか言うとネット受けが良くなるから、流行っている乙女ゲームをやってみようと思って手を出したんだよね。だけど音ゲー部分が難しいから、めんどくさくなってアカウントをクラスの地味女に借りパクしたら(私に話しかけられただけでも光栄に思ってよね)ストーリーとボイスにハマったの。


最初に好きになったのはスタン。現実じゃイケメンなんてみんな遊んでるもんだけど、不器用で強くてヒロインに一途でいいなあって。もちろん他のキャラも良い声だし、ウィルは可愛いしで楽しんでたけど、一番好きなのは攻略対象じゃなかったカイン様。セクシーな感じのイケメンだけど、悪役令嬢(ディアナ)に酷い目にあわされながらも離れられず、尽くして尽くして最後に死ぬの。攻略キャラじゃなくて残念だった。


ゲームで遊びつつ、適当な男の子達やファンにチヤホヤされて、しかもモテなさそうな男の担任に媚びたら都内の有名女子大に推薦も決まって、さあこれからって時に死んじゃったのよ。


最後に覚えているのは、私を突き飛ばしてニヤリと笑う、名前も覚えてない私に彼氏を奪われたブス女と、迫ってくる電車の光と耳障りな警笛。


そこまで思い出して、この世界が『君恋』って気付いた瞬間ガッツポーズしたよね。だって私がヒロインなんだもの。前世の私も可愛かったけど、ヒロインの顔は別格。間違いなくこの世界で一番可愛いのは私。しかも小柄だけど胸は大きいし頑張らなくてもウエストはくびれてるし最高!たぶん隠しキャラはカイン様だし、ストーリーの選択はわかっているから彼と恋愛できる!

そうでなくても ヒロイン(わたし)が望んでいるんだから、そこはゲームの強制力が働くでしょ。それにステータスのあるお金持ちのイケメンたちにチヤホヤされるのも悪くない。だからそれからは14歳まで大人しく生活して、ゲーム通りに癒しの力を発現させた(馬車に轢かれた幼馴染を歌って治すってやつ)。なのに最強の治癒魔法を持つ私にこの世界での両親は「何があるかわからないから、行き先が決まるまでパン屋を手伝いなさい」なんて言うのよ?信じられる?


ヒロインの私が、何が悲しくて朝早くから小麦まみれになって働かなくちゃならないのよ。だからよく来る王宮の人や神殿?のおじさんにおねだりして、伯爵家の養女にしてもらった。マナーがどうとかうるさかったけど、逃げ回ってスルーした。私がこの世界を決定する存在なんだからそんなのいらないよね。それに男の心のつかみかたくらいわかってるから、貴族なんて余裕でしょ。


そこまではよかったのに。ウィルとは会えないし、全然ゲーム通りにいかないんだもん。マジでムカつく。


しかも音ゲー部分は歌のレッスンに変わってるし。上手く歌えないと、癒しの力をコントロールできないとかヤバくない!?思ったほど私の魔力も大したことないし、萎えるわー。


っていうか、確か音ゲーにはお助けキャラの神獣がいたはず。チュートリアル部分で入学初日、木に登って下りられなくなった白い子猫を助けるくだりがあったから、めちゃくちゃ雨が降る中頑張って探したのにいないのよ!?その子猫がヒロインの魔力で成長して、難しい部分の難易度を下げてくれる神獣になる予定だったのに。バグとか許せないしやめてほしい。


まあ、取り巻きの男の子たちも出来たし、これからゲームの強制力も働くだろうから大丈夫だろうけど。それに私にはあの方(・・・)もついてるし、大きい顔できるのも今のうちだけだからね、悪役令嬢。


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