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友達になってくれる?(reprise)

着替える前にクリスタ先生が治してくれた部分以外の小傷や、口の端が切れている部分と、いつのまにやら出来た手のひらの傷に念入りにケイト特製の軟膏を塗りこむ(すごく痛いけど、跡を残したくないもの)。ちょっとかっこ悪いけど、絆創膏も貼らないとね。


制服に着替えた私は、寮の食堂でフルーツとスクランブルエッグを取った後(まだちょっとガッツリしたものを食べる気分じゃない)普通に教室に向かい、普通に授業を受けた。普通に遠巻きにジロジロ見られて普通にボッチ。全校集会で襲撃事件の説明はあったらしいけど、物見高いお年頃なんだから何か聞かれるかと思ってた。だけどそういうのもナシ。ただ、前とはなんだか視線の意味が違う気がする、勘違いかもしれないけど。


お昼ご飯は自分へのご褒美に、初めて食堂に行くことにした。今日はケイトが一緒だ。まだちょっと食欲はないけど、うーんとろとろオムライスとか、いっちゃう?

食器を乗せるトレーを両手に持って(貴族の子だと使用人にまかせる子も多いけど、ほら、私は平民になる予定だから)あれでもないこれでもないと迷っている私に、見知った顔が近づいてきた。あ、ルシア様の婚約者のハーモン様だ。

鍛えているせいか、制服の胸元や腕がちょっと窮屈そう。そんな彼が何故か緊張したような様子で、私に「今、少し良いかな。」と言って食堂の真ん中までエスコートする。まだお昼が決まってないんですが……。



戸惑う私にお構いなしで、彼は皆に聞こえるような大きな声を出す。

「食堂にお集まりの未来の紳士淑女の諸君!少し聞いてほしい!俺は思いを言葉にするのが苦手だが、ここであることを誓いたい。だからみんな証人になってくれ。」

そういった彼はその場で片膝をつく。手を胸にあててこう言った。

「俺の身も心もドゼッティ家のルシア嬢のものだ。君はそんな愛しい彼女を害悪から守ってくれた。だから君に俺は忠誠を捧げよう。ディアナ・バーンスタイン。君の窮地にスタン・ハーモンは盾となり、剣となることをここに誓う。」そして腰に帯剣していたのをスラリと抜くと束側から私にわたす。


な、何?


突然の騎士の誓いにビビる私。だってさっきまで昼ごはんのことしか頭になかったんだもの。だけど、傍らのケイトを見ると「(受けてください。)」と口をパクパクさせている。

だから、できるだけキリっとした顔をして剣を受け取り、彼の肩にあてて言った。

「ディアナ・バーンスタインは誓いを受け入れます。この国を守るために共に戦いましょう。」と答えた。私は王妃にはなれないけど、これまで過ごしてきたこの国が、穏やかであって欲しいと心から願っている。婚約破棄後どこに住むのか未定でも、それまでは自分のできることをやるつもりだ。ハーモン様は強いと聞いているから、今後混迷していくであろうこの国の役に立ってくれるはず。

そんな私たちの様子を見て、食堂の生徒たちから小さな拍手が贈られる。最初は囁き声のようなものが、さざ波のように食堂中に広がって、やがて爆発するような大きな音になった。ただ無我夢中で侵入者たちと戦った私だったけど、何だか報われた気持ちになった。心が暖かくなって顔がほころんでしまう。ありがとう、ハーモン様。



結局食堂でそのままお昼を食べる雰囲気にならなくなってしまったので、私は一旦寮の部屋に戻ることにした。確か、まだコンソメがあったから、スープパスタでも作ろうかな?具はハム?ベーコン?と冷蔵庫をごそごそとあさっていると、遠慮がちなノックが響いた。


扉を開けると、そこにはちょっと気まずそうな様子のルシア様がいらっしゃった。少し疲れた様子に見えるのは気のせいかな?とりあえず部屋に入ってもらった。

「ディアナ・バーンスタイン。あなたは公爵家の娘の命を救ってくださっただけでなく、その名誉と未来も守ってくださいました。ドゼッティ家を代表してお礼を申し上げます。」すると真面目な顔をしたルシア様がそう言い、今まで見たことの無いような美しいカーテシーをした。普段から気品のある方だけど、王家の血を引く高貴な方なんだなと実感する。

「面をお上げください。もったいないお言葉です。私はたまたまその場にいて抵抗しただけですから。」普通に普段通りにいきましょうと私は慌てて言った。


「ディアナ様が敵に立ち向かってくださったからです……私のせいでごめんなさい。」私の言葉を受けてご令嬢モードをとくと、とシュンとした様子になる彼女。

「いいえ、ルシア様のせいではなく、頭のイカレた隣国の……もとい侵入者や彼の者たちを操っていたものが悪いのです。お気になさらずに!同室でしたもの、助け合うのは当然ですわ。」とできるだけ明るく私は言った。


立ち話もなんなので、とりあえずケイトのお茶と少しクッキーを出してもらい、そのままミニお茶会をすることに。

「先ほど、ハーモン様から騎士の誓いを捧げられましたの!」

「まあ、スタン様ったら本当にやったのね!びっくりしたでしょう?」

「ええ……でもとってもうれしかったですわ。さすがハーモン様は殿下の側近ですわね。」と私。

そう、先ほどの公開騎士の誓い。王宮で対応に追われ登校できていないシャルル殿下の意向を、側近であるハーモン様が汲んだものだろう。一昨日の襲撃の件をみんな不安に思い、学園内も暗いムードだった。敵を撃退した未来の王妃に忠誠を誓う騎士という、それを払拭するための一種のパフォーマンスなのだ。だけど、ハーモン様が本当に言いたかったのは……

「それに、ハーモン様のルシア様への愛情を感じました。身も心もルシアのもの……愛しい彼女……。とっても熱烈でしたもの。」夜、寝室に入れられるというのは、何もなかったとしてもご令嬢として外聞は良くない。公爵家同士の婚約とはいえ、ふさわしくないと横やりを入れられる可能性がある。それを防ぎたかったのだろう。愛する彼女と一緒になりたいのだ、彼は。

「まあ彼がそんなことを……後でどうだったか聞いてみますね。それと……これは私個人からのお礼です。スタン様のお嫁さんになる夢を守ってくれて、ありがとう。」と先ほどとはうって変わってちょっと泣きそうで、でも嬉しそうな顔でルシア様が言った。


本当に、アイツらの思い通りにさせなくて良かった!



「ところでね、ディアナ様。あなたもしかして無理をしていないかしら?」といたずらっ子のようにルシア様が言う。

「私は公爵家という環境で育ったので、元からこういった話し方振舞い方ですの……でもあなたは、本当はもっとざっくばらんな方なのでは?」と続ける。ず、図星です。

「あなたは私の命の恩人です。それにこの先親戚になるのですし、私の前ではもっと自然に過ごしてくださいな。」とルシア様がありがたい申し出をくださる。

短い時間しか一緒に過ごしていないけど、ルシア様はとても素敵で本当に良い方だ。でも、素のままってちょっと抵抗あるなあ。本当にご令嬢らしくないもんな私。

「ふふふ、難しいですか……では私も ご令嬢らしくない(・・・・・・・・)秘密をあなたに教えますわね。」これでおあいこですわ。スタン様も知らないのですよ、とルシア様が言ったのは。


「私…辛いものとしょっぱいものが大好きですの。特に唐辛子に目がなくて……実は甘いものはそれほど好きでもないのですよ。」と恥ずかしそうに彼女が言う。確かにこの国では女性はスイーツを好むものという風潮があるし、しょっぱいものは男性や冒険者が口にするものというイメージがある。辛いもの好きというのは完全にマニアックで、確かにご令嬢らしくない。何よりルシア様の妖精のようなご令嬢然とした雰囲気とはとってもアンマッチだ。意外過ぎる。


何でもドゼッティ家の領地のとある地域では、通常の唐辛子の100倍辛い唐辛子が特産らしい。護身用に使われるそれを、ルシア様は自家製でこっそりと調味料にしているのだと、真っ赤な液体の入った小瓶を見せてくれた。干し肉とちっちゃなタコの干物?(なんかホタルイカみたい)というのも一緒に取り出す。この人、成人したらかなりの飲んべえになるかも……。


「こんな私ですが、お友達になってくれますか……?」とちょっぴり不安そうなルシア様が手を差し出しながら言う。く、ここまで教えてくれて断るのは(おんな)がすたるわね。

「私でよければ喜んで!趣味は体を鍛えること、文房具やレターセット集め、普段はちょっとガサツです。よろしくお願いします。」と私は彼女の手を握ってシェイクしながら言う。


初めてお友達ができた!


「そうと決まったら、お近づきの印に私何か作りますわね!」とはりきってルシア様が作った激辛アラビアータを食べて(辛い以外はとっても本格的で美味しいパスタだった)私が午後の授業で使い物にならなくなるのは、また別の話。


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