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友達になってくれる?

背中をつたう汗、隠せない動揺。そう、寮はみんな等しく相部屋なのである。ただし、あまりに身分差があると片方が委縮するので、ある程度調整はする。今学年、公爵家の男女1人ずつなのだ。ワンランク下の侯爵家の中で、私はシャルル殿下の婚約者だからと選ばれたのだろう。

「あの子、普段はもっと内弁慶で、あんな失礼なことを言うようなタイプじゃないのだけれど……側妃様が甘やかし過ぎたのね。又従姉妹として代わりに謝るわ。ごめんなさい。」と焦って何にも答えられない私に、ルシア様が言った。

「いえ、私も大人げがなさ過ぎましたわ……お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。」となけなしの猫を被って私は答えた。だってそうするしかないじゃない。

「せっかくですから、一緒にお部屋に行きましょう!」とぱやぱやとした笑顔で彼女。


オコトワリスルリユウガミツカリマセン。


寮へ移動しつつ、とびきり委縮しながら聞くところによると、ルシア様のおばあ様が前々国王の妹君だったとのこと。血が近すぎるのでなければ、彼女がシャルル殿下の婚約者になっていたのかもしれない。

しかもよくよく聞くと、この方は攻略対象である騎士団長の息子ハーモン公爵家スタンの婚約者らしい。全ルート悪役令嬢がディアナってスチルもストーリーも手抜きじゃない?なんて言われていたけど、こんなおっとりとした少女に悪役令嬢は無理だよねと妙に納得してしまった。

「ドゼッティ様はフルートがお得意なのですね。とっても素敵ですわ。」

「ふふふ、ルシアとお呼びくださいな。これから3年間同室ですもの。お友達になっていただきたいわ。」

「そんなもったいないお言葉です……私のこともどうぞディアナと。これから(たぶん2年間だけだけど)よろしくお願いいたします。」ご令嬢らしく、きゃっきゃうふふ言いながら連れ立っている間にも、「天使と悪魔……」「月の女神と野獣……」などざわめく声が聞こえた。これ、気にしたら負けだな。

「ディアナ様は読書とお散歩が趣味なのですね?」

「ええ。早朝に散歩に出ることもあるので、ご迷惑でしたら控えますわ。」読書は本当は代筆だし、散歩はトレーニングだけどまあ、ものは言いようよね。

「私、一回寝ると中々起きませんのよ。朝も半分くらいは寝たままメイドたちに準備してもらっているんですの。」うふふと可愛らしく白状するルシア様。さっと吹いた風で、ゆるくウェーブのかかった透き通るような髪が揺れて、本当に女神か妖精みたいだ。


歩いているうちに「蒼月棟」と言われる女子寮の1つに着いた。ここがこれから私が(おそらく)2年お世話になる建物。

身分の差はないので、他の部屋と間取りや家具は変わりないけど、警備の面から私たちの部屋は最上階になっている。4階だ。1階は寮の食堂と談話室に、寮監室。2階より上が私たち生徒の部屋だ。ちなみにその昔、伯爵家のご令息をめぐって侯爵家のご令嬢同士が寮内で決闘(タイマン)したことがあったため、強力な結界魔法を張って寮では魔法が使えないようになっている。魔道具は使えるんだけどね。


部屋に入ると、カインとケイト、そしてルシア様のメイド2人が待ち構えていた。優しそうな隣国出身っぽいお姉さんと、ちゃきちゃきしたかんじの年配の女性だ。ちなみに彼らは使用人棟に個室があり、原則夜間の立ち入りは禁止。今日はもう外出する予定もないので、ちいさめの支度室にそれぞれに入って、制服から楽なワンピースに着替えた。

部屋は相部屋と言っても、居室と寝室が分かれていて、居室部分にはお風呂とトイレ、そしてミニキッチンまでついている。侯爵家ほど豪華ではないけれど、ブルーをベースとしたインテリアで、落ち着く感じ。私はわりと好きだ。


そのまま居室部分のテーブルで、ミニお茶会。可愛らしい色とりどりのマカロンとアッサムのミルクティーを出してくれた。

「それで、シャルルったら、勉強したくなくて家庭教師を巻いたつもりが、急に目の前に彼女が現われたからびっくりして噴水に落ちてしまったのですよ……。」

とルシア様はシャルル殿下の恥ずかしい話をにこやかにポロポロ話してくれる。今の国王陛下には兄弟がなく、シャルル殿下たちの一番近い血筋の子供がルシア様たちになるので、幼馴染として育ったらしい。覚えておくと、何かに役に立つかしら?

「私は殿下とお会いするのは、もっぱら王宮でのお茶会ですの。ルシア様は婚約者のハーモン家のご令息とはどのようにお過ごしなのですか?」

「うちも似たようなものですわ。でもごくたまにですけど、城下にお忍びででかけたりもします。ふふっあの方ったら、未だにエスコートしていただく時、真っ赤になられるのですよ。一生懸命デートコースを考えて、夜寝られずに目の下に濃いクマを作ってらっしゃったこともあります。」私の好きなものを盛り込んでいたら、1週間の旅行スケジュールになってしまい、削るのに苦労されたらしいですわと、ルシア様が穏やかに微笑まれながら言う。

「まあ、そんな一面もおありなのですね。よほどルシア様を愛していらっしゃるのでしょう。」ゲームでは硬派で女性慣れしていない設定だったけど、ゾッコンだな騎士団長の息子。ルシア様は元々美少女なのもあるけれど、愛されているものの自信ってやつ?とにかく婚約者との関係が良好なのも、美の秘訣なのかもしれないわね。

「そうだといいのだけれど……ふふふ、学園で会う回数も増えますし、もっと絆を深めていけたらと思いますわ。」彼、手紙が苦手みたいでそういう交流が控えめでしたからとちょっぴり寂しそうにルシア様。


男性って、ラブレター苦手な人が多いのよね。代筆屋の仕事でも結構受けることが多いけど、男性の場合「こういったことを伝えたい」という粗々の仕様書からこちらで文章を考えて、それをご自身で書くっていうパターンも多かったりするのだ。特に若い男性はそういったところから風流な言い回しや書き方を学び、自分だけでも書けるようになるケースも往々にしてある。


女子2人集まると、やっぱりおしゃべりって止まらないよね。3、4時間話していたようで、日も落ちてきていた。

「私、今日は疲れたのでもう休みますわ。あらためて、よろしくお願いいたしますわね。」と言うルシア様と握手して、今日はお開き。私も疲れたし、夕食はとばして夜の訓練はランニングだけにしておこうっと。


カイン達は使用人棟に帰したので、一人でもう一度支度室に入って、トレーニング用のズボンとシャツに着替えると(この世界女子のパンツルックは一般的でないので、男子用だ。)、すでにルシア様は寝息をたてていた。


高貴な方にはやっぱり気を遣う、一応私も侯爵家の娘とはいえ。大丈夫だと思うけど、もしいびきかいちゃって迷惑をかけるようなら、ケイトが出る直前に荷物に加えていた寝袋を敷いて寝ようと、心に誓った私なのであった。

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