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ついに王立学園入学!

日本のソメイヨシノとは違うけれど、ピンク色の椿みたいな大ぶりの花々が咲き誇る今日この頃。私は無事王立学園に入学した。


出立の時はちょっとした騒ぎになったけど、お休みにはできるだけ屋敷に帰ると約束したら、ウィルも納得してくれた。出る前にケイトの指導の元、侯爵家の屋敷の敷地全体を結界魔法でおおった。大掛かりな魔法の勉強も兼ねているけれど、一番はウィルに悪意のある人間が入れないようにという措置だ。だから、彼の身の安全は心配していないし、もしかしたら、私が出ていくことで彼も甘えん坊さんを卒業できるかもしれないと密かに思っていたりする。


「お嬢様、忘れ物はございませんか?」と、ピンクの春風に乱れた私の髪の毛を直しながら、ケイトが言う。

「大丈夫よ!まあ何かあれば取りに帰れる距離ではあるしね。」

「おい、これ以上増えるんならあんたにも持ってもらうぞ!」と抱えた荷物で、もはや上半身から上が見えないカインが、ケイトに言う。王立学園には寮があり、王族で警備が大変などよっぽどの理由がない限り、みんな親元を離れてそこで暮らすことになっているのだ。大きな家具などはちゃんと備え付けのものがあるんだけど、ケイトが「細々としたものも必要になりますから。」とワンピースも化粧品も(あれも)下着もナイフも槍も(これも)と色々詰め込んで結構な荷物になった。

「私も持とうか?」と言ったけど、「入学初日にお嬢に恥をかかせるわけにはいかねえ。」と断られてしまった。


そんな3人で馬車に乗って、王都の端の方にある王立学園へと向かう。うちからは割と近くて、2時間くらいかなー。代筆ギルドから離れるのがちょっと残念ね。滞りなく馬車は進み、目的地に到着。前世日本なら校門の前で写真撮影となるんだろうけど、この世界ではそういった習慣はないので、特に行事感もなく私はカイン、ケイトと一緒に学園の敷地内に一歩踏み出した。


途端に在校生、新入生問わず令息令嬢から視線を浴びて、コソコソ噂される。「あれがシャルル様の今の(・・)婚約者……」「なるほど、キツそうなお方だな」「凡庸令嬢からゴリラ令嬢になったらしいぞ……!」「可哀そうな仮婚約者様ね」などさまざまなことを勝手に言っていた。ちなみに王立学園の生徒のうち、これまでの初等学校からは半分程度が進学し、もう半分に家庭学習をメインとしていた高位貴族たちが加わっている。


そんなひそひそ話を聞いて、私は内心ほくそ笑んだ。できるだけ、スムーズに婚約破棄をしてもらいバーンスタインの名前を傷つけないように、そして万が一のゲームの強制力に備えて、あのキーソニン侯爵令息ベルナールに頼んで、リリネシアの王女様とシャルル様の件を広めてもらったのだ。「今は交渉中という理由で発表できないが、王女様が輿入れされる予定」「国のため仮の婚約者であることを、バーンスタイン家のご令嬢は納得している」「ディアナ嬢はキツイ性格で、殿下ともあまり交流がない」などなど。しっかりと貴族の間では定説として広まったようだ。ただ、ゴリラって言ったやつの顔は覚えたかんな。


そのままカインには寮の部屋に荷物を持って行ってもらい、ケイトと共に入学式へ向かう。ちなみに学園での服装は財力や権力で差が出ないように男女ともに制服。女子は白いフリルのブラウスに濃紺のジャンパースカート、赤いリボン。男子は濃紺のブレザーにねずみ色のスラックスにブルー系の縞々ネクタイを身に着けている。もちろん、過度なアクセサリーは禁止だ。他の新入生たちは親御さんも参加されているけど、もちろん私の両親は来ない。というか今年入学だって知らないんじゃない?強がりでも何でもなく、私の入学式を祝ってくれる2人がいるから、まあ別にいいやってかんじなのよね。王立学園が、ちょうど使用人2人まで帯同OKで本当に良かった~。


開会の挨拶から、つらつらとお偉い人の祝辞が続き、そして「この学び舎で3年間、勉学にスポーツに励み、友と語らい………」とクラス分けテスト主席のご令嬢が新入生の誓いを宣言する。「今年新しく赴任されたのは3名です。国史担当のイアン・マックローン先生、水魔法Ⅱのミリア・スーソ先生……」と新任の先生の紹介があって、最後に我らが王子様……シャルル殿下の在校生代表挨拶。


「入学おめでとう!」と爽やかに挨拶する彼。「知っての通り、この学園内では生徒同士なら家格や家の権力は関係なく、みんな平等だ。身分の差なく、切磋琢磨しそして学園生活を楽しんでほしい。………」などなどキラキラしたオーラをまとって殿下が述べられている。みんなとおんなじ制服のはずなのに、一等上に見えるのはさすがの王家力(ブランド力)。本当、見た目だけは麗しいわよね。


滞りなく挨拶を終え、壇上を降りる殿下がにっこりと笑って、こっち付近を見て小さく手を振っている。そんな彼を見て「きゃーーーー。」とご令嬢たちが黄色い歓声を上げた。何か後ろに知り合いでもいるのかな、と振り返ったら、戸惑った様子の同級生たちと目が合った。怖かった?なんかごめんなさいね。

「(誰か殿下の知りあいでもいるのかしら?)」と傍らに控えているケイトにこっそり尋ねる。

「(恐らく、お嬢様に手を振られているのかと……)」とケイト。

仮婚約者でも婚約者というわけか。別にいいのに……と困惑しつつ、私もひきつった笑みを浮かべて手を振り返した。あ~ぁ、こういう目立ち方はしたくなかったな。


ちょっぴり憂鬱な気分になったが、つつがなく式が終わり、今日はこれで解散なので気を取り直す。オリエンテーションは明日からなのだ。


部屋に戻ったら、カインの淹れた美味しいお茶と持ってきたいちごのジャムクッキーをいただこうかしらねなんて考えていたら、「お前がディアナ・バーンスタインか。パッとしない、マヌケ面だな。」とどこかから私を罵る声が聞こえる。振り返ると、金髪碧眼の、かなりの美形だけどちょっぴりなよっちい男の子がいた。

いきなり私の名を呼び捨てにするということは、かなりの高位貴族のはず。頭の中の貴族ご子息録をパラパラとめくるが該当するものはない……ということは。

「ディアナ・バーンスタインはショーン殿下にご挨拶申し上げます。本日は王立学園ご入学誠におめでとうございます。同じ学び舎で過ごせることを大変光栄に思っておりますわ。」と最っ高のカーテシーと共に言ってやった。そうこのガキ…もとい少年はスペンサー王家の第二王子ショーン様である。身体が弱く、限られた側近や使用人しかその姿を知らない「幻の王子」。どうやら多少丈夫になって表に出られるようになったらしい。ちなみにゲームには未登場だ。私もこの世界に転生するまでその存在を知らなかったし。


「ほう、リリー仕込みの礼だけはなってるじゃないか。まあ、その程度の文きり型の挨拶しかできないようじゃ頭の方も愚鈍なのだろうな。兄上の婚約者など下りて、領地で下賤の民と畑でも耕したらどうだ?」と失礼ぶっこきやがる殿下。

私、あなたに何かしましたっけ!?て言いたいくらいの暴言。そうやって農業に励む民がいるからこそ、この国は成り立っていることをわかってないのか、それを当たり前と思っている傲慢な人間なのか。

「おほほほほ。確かに私、頭はあまりよくありませんの。将来困らないよう、学園で一生懸命、勉学に励みますわ。」というか彼自身は国王陛下と側妃様の息子なので、王妃様をリリーと呼び捨てるのはマズいんじゃなかろうか。それにこの学園には成績優秀で奨学生として通う平民の子や、平民富裕層の子もいる。この場での振る舞いといい、そっちこそオツムヤバいんじゃないの?


上から目線で馬鹿にする殿下にニコニコと対応する私と言う構図を遠巻きにみながら、その場に残っていた不幸な同級生たちがひそひそと囁きあう。

「あれが、ショーン殿下か。俺初めて見た。」「ディアナ嬢を越えた性悪…!」「それより彼女を抑えないと……」「俺嫌だよ。丸腰で野生の虎に向かっていくようなもんじゃないか。」誰が野生の虎だ。ゴリラって言ってたやつと一緒にお前も後で顔を貸せ。


「殿下におかれましては、久々のお出ましでお疲れでしょう。今日のところはお帰りになっては?(さっさとママの元に帰っておねんねしてな。)」

「指図される言われはないが、こんなところでお前といるだけで僕の品性まで下がりそうだから失礼する。」

踵を返して遠ざかっていく殿下(クソガキ)の背中に両手であっかんべーをかましてやった。やーいやーいお前の父ちゃん国王陛下ーー!!


殿下の歩いて行った方向にいたご令嬢が、そんな私の顔を見て思いっきり吹き出した。あらあらごめん遊ばせ。シャルル殿下よりもさらに透き通ったアイスブルーの髪のその少女は、見なかったフリなんてしてくれず、おずおずと近寄ってきてこう言った。


(わたくし)、今度あなたと同室になる、ドゼッティ公爵家が娘、ルシアですわ。ふふふ、よろしくお願いいたしますわね。」と見ているものをとろけさせるような笑顔で。


公爵家(王家のお身内)の方ですか―――――――!?


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