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彼女はどうするつもりなんだ(sideシャルル王太子)

この間の言葉が引っ掛かっていた。

「あのお嬢様……本当に殿下と結婚する気があるんすかね?」

ディアナの様子を撮影して来るように命じた”影”の男が、ある日言っていたことである。

「結婚したくないわけないだろう……?僕だってそれなりに見た目はいいはずだし、将来有望だし……だってそんな……僕と結婚すれば、この国の女性のトップになれるわけだから……。」なんでしどろもどろになっているんだ、僕。


今の彼女が、そんなもの求めていないのは、うすうすは気づいている。


どんどん気落ちしていく僕の様子に「いや、そんな自信無くさないで下さいよ!殿下はめちゃくちゃキラキラしたイケメンですよ!?あとこの国で一番将来明るいですよ?でもディアナ様、代筆屋も訓練も一生懸命やって、貴族(陰険グループ)を抜けようとしているようにしか見えないんだよなあ……。」とフォローしつつ、ぼりぼり頭を掻きながら影が言う。君の言う陰険グループのトップにいずれ立つのが僕だ、忘れるな。


それに、暗い材料ばかりではない。ディアナが王妃教育をきっちりと真面目に受けるようになった、と教育係から聞いているのだ。「やっとシャルル様のお妃になるという自覚を持たれたのでしょう。これまで多くの生徒を見てきましたが、トップクラスに優秀ですよ。」と古くから王宮で教えてきた彼女が太鼓判を押すくらいだ、僕との将来を真剣に考えてくれているはず……はず。


だけど影の言葉がぐるぐる頭の中を巡って離れない。ディアナ、君は一体何を考えているんだ?


そんな僕の思いをよそに、王宮行事が重なって、ディアナはちっとも会いに来てくれなくなった。「お忙しいでしょうから……」なんて言って。彼女のためなら、3倍速で仕事するし、なんならちょっとくらい行事なんて抜けてもいい。それくらいで僕の評価や地位は揺るがないのに。だけど、ディアナは来ない。

夜、疲れてベッドに倒れこんだ時、思い出すのは彼女のことだ。今彼女はどうしているのだろう。本を読んでいるのかな?それとも、もう眠った?普段はしっかりとした令嬢だけれど、油断した君の寝顔はさぞかし、可愛いのだろうね。


僕の前で記録水晶に映っていたようには笑ってはくれない。僕に可愛いわがままを言ったり、あの黒髪の従者にするように、優しく触れたりなんてしてくれない。それでもディアナに会いたい。少しでもいい、僕を見て欲しい。


結局そんな自分の感情をこじらせて、また彼女を撮影してくるように命じてしまった。”影”は微妙な顔をしていたが、お前が変なことを言ったのも悪いぞ。


14になってからぐっと量が増えた公務をやりながら、今か今かと待ちかまえていたら、僕の期待に反して影は難しい顔をして戻ってきた。

「殿下、実は……」そこには、侯爵夫人がディアナの弟となった少年を虐待している画が記録されていた。王妃(はは)とそれなりに親しく、王宮にも出入りしている彼女のそのすさまじい形相は、しばらく僕も悪夢で見たほどだ。

「これを他の誰かに見せたか?」

「…いいえ。」

「これは僕が預からせてもらう。ご苦労だったな。」

これを公開してしまえば、侯爵家の醜聞となる。あんな女の元で育った娘は王家にふさわしくないと貴族共が騒ぐに違いない。僕の気なんか知らないで。だから僕はすぐにバーンスタイン侯爵を内々に呼び出し、さっさと対処するように命令した。僕のディアナにも、危害が及ぶかもしれないから。


その後久々に来た彼女は、前よりも背が伸び、手足がすらっとして、より大人の女性に近づいていた。僕の前で今日もキレイな所作で紅茶を飲んでいる。あ、ジャムクッキーを食べて目をキラキラさせている。好きなんだな。今度のお茶会ではジャムクッキーのバリエーションを増やしてもらおう。


弟や代筆屋について聞いてみると、少し驚きながらも明るく話してくれた。「ウィル」というその弟は、子供返りしてしまったそうで、しじゅう抱っこをねだって大変だそうだ。「甘えん坊なところ以外は、とっても勉強熱心ですし、魔力も強くて将来有望なのですよ。」と愛情に満ちたまなざしで語る。あんな目にあった子供にそんな気持ちを抱くのは間違っているが、正直うらやましいし、替わって欲しい。



よかった、今日はいつもより長く彼女といられた。帰り際、彼女の髪に似合いそうなネイビーのベルベッドのリボンをプレゼントした。今まで、婚約者なのに満足にプレゼントなんて贈ってきていなかったからだ。中心には僕の瞳の色に似たアクアマリンをあしらっている。はにかみながら受け取ってくれた。髪飾りを贈るという意味を理解してくれているのかな?


誰にも言えないが、実はこれは特別製(・・・)だ。公務の間、そして寝る時間を削って、僕の持てる技術と魔力を注ぎ込んで作った。たぶん軍用にしたらみんな泣いて喜ぶだろうが、今のところその気はない。


他にも適齢期のご令嬢はたくさんいるし、王妃として好ましいと思う子だって何人かいる。南の国から王女との縁談を打診されてもいる。なのに、今、僕はなんで彼女がいなくなると考えるだけで、胸にぽっかりと穴が開いたようになるんだろう。僕はいずれこの国の王となる人間だ。ディアナは臣民。つまり僕のものだ。彼女が僕から離れていくなんて、絶対に許可できない。


彼女が僕から離れようとしたら、すぐにわかるように。そんなことをしたら、離宮に閉じ込めてしまうよ?



あぁ、僕はどうかしている。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつのまにこの王子、病んだのだろう・・・
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