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俺、辞表出そうかな(side※※※)

あ、ども。王家の”影”所属の※※※です。いや別に俺の名前が放送禁止用語とかじゃなくて、影に入った時点で、自分本来の名前は名乗れなくなるんすよ。え?ケイトさんは知ってるって?やだなあ、任務中だから偽名に決まってるじゃないっすか。


とまあ俺は影に入って3年目、業界的にはそろそろ中堅に入る年次です。うち、消耗率が激しいんで。そんな俺なのですが、今は王宮で殿下の警護に当たってます。なんでかっていうと、お恥ずかしながら潜んだり隠れたり嘘ついたりするのがド下手くそなんですよねー。基本殲滅作戦の切り込み隊長とか、相手の拠点ごと吹っ飛ばすとかそういう力技で貢献するタイプ。騙し騙されの現場にはあんまり向いてないから、その機動力をかわれて大事なオウジサマをお守りしているわけです。


このところそんなオウジサマの様子がおかしいなー、まあそろそろ思春期だもんなーと護衛の近衛騎士と飯のときに駄弁ってたら、何をとち狂ったのか婚約者のご令嬢を撮影してこい、なんて命令を受けたんですよ。

「最近あまり顔を見せないから、何を悪だくみしているのか把握しておく必要がある!」なんて言っちゃって。報告なら侯爵家に配置してる大先輩から聞いてるじゃないっすか?って俺が不思議に思って聞くと、「いや、もしかしたら嘘をついてるかもしれないし……ディアナが、普段つけている影に隠れて、裏で何かやってるかもしれないだろう……?」と殿下。あの人の目をあざむけるようなご令嬢なら、俺よりも”影”向いてると思いますよ、というのは無粋なのでやめた。

まあ、要するにあれですな。ちょっと気になるようになった女の子が、全然顔を見せてくれないから恋しくなってあれやこれや、なんだかんだ言い訳しつつ姿だけでも手元に置いておきたいと、そういうわけですね。甘酸っぱいなーこちとら国内で他国の諜報活動が活発化してて、もう三徹なのになー。

とも言えず、俺はバカ高い記録水晶を手にいそいそと侯爵家に向かった。


「なんだか見られている気がする……。」


問題なく侯爵家に侵入し、楽しくトランプをしているお嬢様を撮影する。これ壊したら俺、3年無給になるのか、とちょっと手を震わせながら。


悔しがるお嬢様をニコニコと見ている黒髪のイケメン従者と、無表情の大先輩。マジであの人メイドやってんだね、びっくりしちゃったわ。っていうかさっきからちらちら黒髪のイケメンくんがこっち見てる気がする。今なんか、ばっちり目が合った気がする。いや、いくら潜むのが苦手でも、俺、一応”影”だよ……?


トランプ大会を終えたようで、これからお嬢様は登校かな?準備をしだす。あ、先輩が手伝ってる。すげえな、あの人他国から、大陸を牛耳るマフィアのボスを護送する任務でマフィア側からも、後ろ暗いところのあるその国の王家からも狙われて、自分とそのボス以外、護衛9人全員死んだあの作戦を生き残った人だよ!?俺が入る前の話だけど、他にも色々な武勇伝やらなにやら別の先輩から聞かされた伝説級の諜報員よ?それがお嬢様の世話?


影の仕事ってなんなんだろう……と思わず遠い目をしていると、さっきのイケメンくんがテーブルの上を片づけ終わり、さっと立ち上がって真っすぐこちらめがけて歩いてきた。心なしか赤い瞳が光っている。え、嘘、やっぱりバレてる?


「行ってきます!」と準備し終わったお嬢様が元気に言って、部屋を飛び出していく。元気な可愛い子じゃないっすか殿下たぶんあの子後ろ暗いとこなんてないっすよさっきもトランプで負けてぷーっと膨れてましたもんと心の中で殿下に報告しても、もう遅い。脂汗が止まらない。


あ、お嬢様を見送った先輩がイケメンくんを止めてくれている!ん……「王家の影……あなたの同僚……定期査察で撮影……」先輩の唇を読んだところ、どうやら上手く誤魔化してくれているようだ!ありがとう!今までにないピンチを感じたよ、ご令嬢を撮影しに来ただけなのに!


そしてあれが今回フリーで雇った男の子か。いや俺より全然年下のはずだけど、めっちゃ迫力ありましたよ。やっぱ強い人が連れてくる人は強いんだなー。


そんなこんなで、従者君のするどい視線を感じながら、俺はある程度お嬢様の日常を撮影し終えて帰還した。記録水晶を殿下に献上すると、報告そこそこに速攻でお部屋にこもられたのにはびっくりしたが、まあほら、思春期だから。




だけど2回目はやりすぎだと思います、殿下。3ヶ月もしないうちに俺はまた侯爵家に向かっていった。ここ最近王宮での行事や儀式が多く、それを口実にお茶会を断られまくっていた殿下が、またご令嬢の姿をご所望になったのだ。


いやだなあ……と思いつつ俺はもはや勝手知ったるになってしまった侯爵家に入った。おや?今日はお庭にいっぱいテーブルや椅子を並べてオープンカフェごっこですか?イケメンくんが給仕に扮してコーヒーをサーブしている。いいなー、イケメンって何やってもかっこいいよね。

ごっこ遊びはちょっと幼い気もするけど、可愛らしいなあと思って見ていたら、土魔法での砲撃が始まった。お嬢様がテーブルを蹴り上げて強化魔法をかけ、(バリケード)にしている。あ、これ近接戦闘訓練だね。俺も昔やった。3か月前は体力トレーニングメインだったけど、そこまで進んだんだすごいねー。


もしかすると先輩は、このご令嬢を影にスカウトする気なのかもしれない。もともと政略的な意味合いが強い婚約だし、なんなら今、他国のお姫様との縁談も持ち上がってるんだよね、うちの殿下。それで別の高位貴族に嫁ぐよりかは”影”にってことかな……。じゃあ、あの可愛い子がうちに入るまで、俺も長生きしないとなーと思っていたら砲撃音の中にかすかにガチャンという音と子供の泣き声が聞こえた。


確か最近この家、魔力の強い子を引き取ったって言ってたな。なんか落としたかで泣いてるのかなー?なんて興味本位でそっちの部屋の方を見に行ったら。


「ひっでえーな、あれ。」

小さなやせっぽちの男の子が、鬼のような形相をした女に鞭うたれていた。あれ侯爵夫人じゃね?王妃様のお茶会で見たときは聖母のように優し気な雰囲気だったのに、ヤバい顔つきで鞭をふるってる。女ってこえええええ。


ビビりすぎたのか、手が当たってうっかり録画モードになってしまい、侯爵夫人とよくわかんないババアが子供を虐待する画を撮ってしまった。


今日はもう帰ろう。俺は恋焦がれる殿下のために、可愛いご令嬢の姿を撮影しに来たんだ。決して鬼ババアの饗宴を記録しにきたわけじゃない。データの消し方がわかんない俺は、帰って説明書を読もうそうしようと思った。



ここは3階の外。窓を離れ、壁伝いに移動する。すると、下から爆発的に魔力が膨らむのを感じた。


ぎぎぎと音がしそうなほどゆっくりとぎこちなく振り向くと、あのイケメンくんがいた。

ゆらゆらと黒い炎が彼の背景で揺れているような幻覚が見える。手には、真っ黒な魔力の塊が大剣のように伸びている。そんな魔法ってあり?こん棒みたいに振り回すタイプはみたことあるけど、あれほど鋭いものは見たことがない。多分あれで切られたら胴体と首がキレイにサヨウナラするんじゃないかな?


「定期査察にかこつけて、お嬢の風呂をのぞこうとしたな……?」


あ、勘違いです。と言いたくても威圧されて声が出ない。中堅諜報員としてそれなりに修羅場をくぐったはずだけど、俺、今一番命の危険を感じている。


なるほどお嬢様は砲撃からの、複数の敵の接近を、椅子やら机やらキックやらパンチやらで戦い抜く訓練を終えられ、汗を流しに向かわれたようだ。なんか昔の”影”の任務資料とかで見たことのある老骨さんたちが訓練に参加していたような気もするけど、きっと気のせい。


思わず、窓から風呂の外で待機している先輩に視線を送り「タスケテ」と口をパクパクさせる。うなずく先輩。良かった、やっぱり頼れるものはつよつよな先輩だよねと思ったのに。



大先輩は屋敷の建物全体に防音魔法と防御魔法をかけた、俺をのぞいて。



「誤解です!!!!!」と叫びながら逃げる俺に、「今のぞいたな!!!目を潰してやる!!!」と息巻く彼。ぶおんと空を切る剣をなんとか避けつつ、「子供の風呂になんか興味ないっすよ!」と俺が言い訳すると、「お前……お嬢の風呂をのぞいておきながら貶すとはなんだ!お嬢は子供だろうが妙齢だろうが年寄りになろうが美しいんだよ!」とイケメンくんが叫ぶ。うわあこの子とっても強くて、とっても面倒。


逃げ回る俺に、殺そうと迫る彼。誤解から始まった追っかけっこは、先輩の「そこまで!」という鋭い声が響くまで続いた。


不埒な画が無いかの確認のため、一旦記録水晶は侯爵家預かりとなった。


俺もう、影やめようかな。


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