生まれ変わっちゃった!
初投稿です。よろしくお願いいたします。
「今日の依頼は、片思いの商会のご子息にラブレターを出したい、男爵令嬢からっと……」とラブレターの原案を見ながら、私は確認する。依頼主のご令嬢はまだ14歳で、これが初恋だという。彼女が書いた手紙だって悪くないけど、単語の最後の部分がしっかりと止まっていないために、なんとなく乱雑に見えてしまっているようだ。ほんの少しでも告白の成功率をあげたいのだろう。私とはほんの2、3歳しか違わないけれど、なんだかとてもそれがいじらしくて可愛いなと思った。
魔道石のランタンの光を強くし、前世の癖で腕をまくり上げ、背筋を伸ばして深呼吸。はしたないけれど、ここでは誰も見ていないからいいんだ。ワインレッドのつややかな髪は今は邪魔になるからとシンプルにポニーテールにする。使って欲しい便箋の指定がなかったため、ラブレター用の在庫の中でも華美になりすぎない、爽やかなデイジーの便箋を選んだ。
落ち着いて。初めての恋を打ち明けるご令嬢の気持ちになって。
もう一回深呼吸した私は、ゆっくりと彼女のラブレター案通り、手紙を書き出した――――
私はディアナ・バーンスタイン。侯爵家の一人娘だ。8歳の誕生日、高熱を出した私は、前世の記憶を取り戻した。前世の私は30代のOLだった。日本という国の地方都市の中小企業で事務員として働き、毎日のルーティンを淡々とこなし、休日は家に引きこもって酒を飲む、そんな生活をしていた。ある日飛び出した子供をかばってトラックに轢かれるまでは。
目覚めた時には、そりゃもう驚いた。手足は小っちゃくなってるし、というかめっちゃ白いし、鏡見たらキツそうだけどすっごい美少女だし。呆然と鏡の前で顔をぺたぺた触っている私をメイドたちが恐る恐るといった感じで遠巻きに見ているのが、鏡越しに見えた。振り返って、にっこり笑ってみると、「ひいっ」と大変情けない声を出して彼女たちが平伏する。
「あの……熱のせいで汗をかいたみたいだから、お着換えが欲しいのだけれど……」お願いできるかしら?と呼びかけた。「かしこまりました!」とあわててメイドたちが着替えやら、お湯の入ったタライやらタオルやらを持ってきて世話をしてくれる。手つきは丁寧だが震えているのが気になった。
ははーん、これは例のヤツですな。
なんとか作業を終えると、また平伏してメイドたちが下がろうとするので、「これまであなたたちに辛くあたってしまって申し訳なかったわ……。この高熱は神様からの罰だと思うの。これからはなるべく穏やかに接するから、よろしくね。」と言葉をかけた。
あるものは滝のような涙を流し、またあるものは困惑の表情を浮かべながら、彼女たちは豪華なこの部屋を出ていった。やっぱりそうか。私は確信した。このセリフをいう日が来るとは思わなかった。
きっと一生に一度のことだから、思いっきり叫ばせてもらおう。
「悪役令嬢に生まれ変わっちゃった!」