圧迫面接?
「リンカ・ソウマ…。外傷なし…記憶なし?」
映画の一場面を見ているようだった。鼻に小さな眼鏡を載せた痩せ気味の男性が書類から顔を上げずに目線だけでこちらを伺ってくる。
「私が見た限りでは本当の事のようです。馬車での移動中も街の景色を食入るように眺めていましたし。少なくともこの街のことは何も知らないように見えました。」
チビ眼鏡の人がダニエルのボス、団長だそうだ。まずは上司に報告ということなのだろう。その向こうに座っているのが第一騎士団の団長と副団長、ダニエル以外の顔ぶれは40代後半といった所ではないかと凛花は見ていた。
「名前以外にもいくつか覚えていることがある様ですが…。」
自然に四人の視線がこちらに集まる。『 言ってみたまえ 』の無言の圧を感じる。
「何を言えば良いでしょうか…。年齢は17歳です。」
これにはダニエルも驚いた様な表情をしている。聞かれなかったから言わなかっただけだ。
「ソウマという家名は聞いたことがないが…。家名があるのだから貴族だろう?」
「しかし発見された時は奇妙な服を着ていたそうです、報告書に書いてあります。」
「他国から来たと言うのか?それにしては言葉が流暢じゃないか、不自然だ。」
──そうだね、そうなんだよ。私には何とも言えないわ。
ダニエルは何か考え込むような素振りを見せると少し離れた席まで行き、紙とペンを取り出した。おじ様三人は熱く議論を交わしているようなので凛花としては余計な口出しをするつもりは無い。仕方なくダニエルが何をするのか観察することにした。
ダニエルはためらうことなく滑らかにペンを滑らせると何かを書き記しその紙を手にして凛花の方に戻ってきた。
「これのどれかが読めるか?」
凛花の目の前に広げられた一枚の紙。そこには流れる様な字で何かが書かれている。もちろん漢字でも平仮名でもローマ字でもない。アラビア語とか系統的にはそんな感じなのかもしれない…。つまりは凛花にはさっぱりだ。
凛花の返事を待たずにダニエルはその表情を見ただけで紙を目の前から離すと他の三人に渡した。
「ごめんなさい…読めません。」
「であろうな。ダニエルからこんな事を言われて平気な顔で居られる娘などおらんだろう。」
「確かに…。」
おじ様方は紙を回し読みしながら鼻で笑っている。涼しい顔をして知らん振りをしているがこのイケメン騎士様は一体何を書いたのだろうか…。
「あの…そこには何と書いてあったのですか?」
教えてもらったところでそれで何かが変わるという訳でもないのだが一応参考までに聞いておく。イケメンは無表情でおじ様の手からその紙を奪い返した。
「貴方に教える必要は──」
「『 一目見た瞬間に恋に落ちた あなたの事が頭から離れない 愛している』と書いてあるのです、四カ国の言葉で。」
「……なるほど。」
──任務の為とは言え、いわゆる息をするように嘘をつけるタイプなのか、ダニエル…。残念だわ、ちょっといいと思ってたのに。
「なるほど?」
残念な者を見る目でダニエルを眺めていると、おじ様方の視線を集めていることに気が付いた。
「い、いえ。そんな事が書いてあったのかと……ただ単に驚いてしまっただけです。」
「驚いている様には見えんがな?」
チビ眼鏡のおじ様の鋭い指摘に背筋が思わず伸びてしまった凛花は、取り敢えず曖昧な笑みを浮かべるとなんとかその場をやり過ごそうとした。




