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エレノア4 


リラという女性がやっている、服屋さんに来た。


どうやらコウタロウ様はリラさんと面識があるようだった。


リラさんが何かのお礼を言うとコウタロウ様はヘルムを外し、困ったような笑顔で答える。


またヘルムを被る。


なぜいつも完全武装しているのでしょうか?


コウタロウ様は私のためにしっかりとした外套をつくってくださるようだった。



採寸の時に話したが、リラさんは奴隷という制度が嫌なのだそうだ。


私の手の甲の奴隷印を見て表情が曇り、悲しそうな顔をした。


「いやなことされてない?」


「いえ、食事もいいものをもらっています。」


「そう。何かあったらここに来ていいからね。」


優しく手を掴んでくれる。


「ありがとうございます。」




リラさんの店を出た後冒険者ギルドに行った。


戦闘自体にあまり自身はないが、私はそのために買われたはずだ。


クエストを受けに行くのだろう。


奴隷になる前はゴブリン1体程度なら問題なく戦えた。


コウタロウ様に捨てられてしまえば、私に行くところはないだろう。


価値を証明しなければならない。



初めて冒険者ギルドと呼ばれるところに入った。


様々な匂いが入り混じっている。


体が大きく筋肉質な人が多く、武器を装備しているため正直怖い。


コウタロウ様は特に気にせず、受付に一直線に進んでいく。


「奴隷の冒険者登録は可能ですか?」


コウタロウ様は受付でそう言った。


私の冒険者登録は何のためにするのだろうか?


奴隷は主人の所有物になるため、高難易度の依頼をこなす際に主人のランクさえあれば問題がないはずだ。


冒険者登録をしても奴隷のみでは依頼を受けることができないそうだ。


「最近奴隷の冒険者ランクを上げ再度売るといった行為が多々報告されています。私たちが注意できる立場かと言われれば違うのですが、そう言ったことはしないでくださいね?」


つまり私はまた売られるのだろうか?


そんなことを考えても私はどうすることもできない。


私は所詮奴隷だ。


でも、売られないように祈るくらいは許されるだろうか?



登録はスムーズに進んだ。


「よろしかったのでしょうか?」


「何が?」


コウタロウ様は小首を傾げている。


「いえ、何でもありません。」


主人の行動に意見するのは明らかに奴隷の行動ではない。


きっとこのままではコウタロウ様に捨てられるのも時間の問題だ。



「売らないよ。」


コウタロウ様は、はっきりとそうおっしゃった。


それだけ言うと掲示板の方に向かって行かれた。


私もあわてて後をついていく。


心が温かくなる。


顔が緩んで泣きそうになってしまう。


外套があって良かった。


きっと今の顔は人に見せられるものではない。




コウタロウ様はしばらく掲示板を眺めると、ハウンドとゴブリンそれぞれの依頼を受けた。


私も手とランクタグを依頼書に見よう見まねでくっつける。


依頼書が光り魔力が体から少し抜けていく。


コウタロウ様が話している話を聞く限りでは強いモンスターが確認されているそうだ。




雑貨屋に行き、宿屋に戻った。


「雑貨屋に寄ってもいいか?」


ランクタグを見ながら歩いていたため反応が遅れてしまった。


急いで頷く。


上手い言い訳が思いつかない。


雑貨屋には見たことのないものがたくさん置いてある。


きょろきょろしていると


「欲しいものがあるか?」


と聞かれた。


何か言えば買ってくださるのだろうか?


コウタロウ様はハサミを買われ、宿屋に戻った。


食事を今回も私も一人分渡される。


部屋に戻ると椅子と机が置いてあった。


コウタロウ様は鎧を脱ぎ椅子に座る。


「とりあえず食べようか?」


これを本当に食べていいのか不安になる。


「本当に食べていいんですよね?」


「ああ。それはエレノアの分だろ?それと座って食べてね?」


コウタロウ様はおかしそうに笑う。


夕食は魚と野菜とスープ、それに夕食とパンだった。


奴隷が主人と一緒に同じ席に座り同じものを食べる。


考えれば考えれないほどわからない。


どうしてこんなに待遇を良くしてくれるのだろうか?



食事をしていると


「エレノア、手は付けてないから俺の分も食べてくれないか?」


コウタロウ様がそう言われた。


「そんなわけには...。」


「あまり、食欲がなくて。エレノアが食べないなら捨てることになるけど...?」


体調が悪いのだろうか?


「え、あぁ...。その、それならいただきます。ありがとうございます。」


コウタロウ様がたらいをもって部屋から出て行かれた。


戻ってきたコウタロウ様はお金や道具の整理をされている。


いつもされていることなのだろう。


食べ終わると髪を梳いてそれから切ってもらった。


コウタロウ様の髪の扱いは優しく丁寧だ。


昨日と同じようにお湯を入れたたらいを渡され、


「終わったら教えてね。」


そう言って廊下にコウタロウ様は出られた。



コウタロウ様はきっと私をモノとしてではなく人として扱ってくれようとしているのではないのだろうか?


だからと言ってなれなれしくしていいというわけでは決してないが、奴隷にとって、いや奴隷でなくともとてもいい環境であることは間違いない。


この生活はコウタロウ様には利点がないはずなのだ。


けれど、この生活がずっと続くことを願わないことは私にはできない。


こんな日々がずっと続けばどれだけ幸せだろうか。




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