エレノア 3
「ベッド、ありがとうございます。起きるのが遅くなり申し訳ありません。」
起きた時にコウタロウ様が居なくてかなり焦った。
コウタロウ様は床で寝られたうえ、何もされなかった。
私を女性として見ていないのだろうか?
「おはよう。いや大丈夫だよ。」
コウタロウ様は笑顔だったが、隈が顔にこびりついている。
「おはようございます。すみません...。」
謝る私を見て苦笑しながらたらいを渡してくれる。
私が顔を洗い拭いてそのまま外套を着ようとすると、髪が気になった。
今まで気にしたことさえなかったのに面白い話だ。
指を髪に入れ降ろすと今までとはくらべものにならないほどするりと通る。
少々引っかかりはするがそれでも信じられない。
これが私の髪なのでだろうか?
コウタロウ様が紐を指さし髪を後ろで束ねるようにジェスチャーをされた。
後ろで束ねて外套を着る。
コウタロウ様は外套の中で髪が蒸れたことに気が付いて買ってくださったのだろうか?
なのに私はどれだけ失礼なのでしょう?
宿屋の主人とコウタロウ様が話しているのですが、宿屋の主人の言葉は聞いたことがない表現が多かった。
お二人?知らん?上手く言葉が繋がらない。
あの奴隷商の言葉も聞きやすかったのですが、ご主人様の言葉を聞き取れなかったことはまだありません。
私のためにわかりやすい言葉で喋ってくれているのでしょうか?
だが聞いたことがない言語にも聞こえるのです。
こちらを一瞥し宿屋を出て行く。
全身の鎧は重くないのだろうか?
この店はミリという店のようだ。
アジギで書いてある。
入ると獣人は数名働いている。
お客さんも獣人ばかりだ。
席に着くとコウタロウ様は私に好きなものを頼むようにと言ってくださった。
奴隷が本当に食事を選んでいいのだろうか?
ハウグは奴隷になる前によく食べていた。
値段が一番低いものが120高いものが940。
どのくらいの値段がこういう時はいいのだろうか?
まさか、食事を1日2食いただけるのでしょうか?
「この、ハウグ定食がいいです。」
私の言葉はまだ、うまくないはずだが、コウタロウ様は正確に聞き取っているように感じる。
定員をコウタロウ様が呼び
「ハウグ定食とニコのスープを」
とおっしゃった。
まさか、コウタロウ様がニコのスープなのだろうか
私もニコのスープに変えてくださいという前にコウタロウ様が質問してきた。
「今日エレノアの武器なんかを買いに行こうと思っているんだが、どんな武器が使いたいか考えておいてくれ。」
「はい。その、私は戦闘中に何をすればいいのでしょうか?」
「あー。」
話を逸らそうとしているのだろうか?
「俺が前に行くからとりあえず安全第一に遊撃...?みたいな。」
「わかりました。」
了承するとコウタロウ様は頷いた。
その後も話しかけようとするたびに、質問をされた。
そうこうしているうちに料理は来てしまう。
私が外套を脱ぐと獣人の店員が驚いた顔で私の下?
いや、腕を見ている。
おそらく奴隷印だろう。
コウタロウ様は全く気にした様子も見せず、
「ハウグってなに肉なんだ?」
なんて聞いてくる。
「確か、ハウンドだったと思います。」
コウタロウ様がヘルムを脱ぐと獣人たちの視線が明らかな敵意に変わった。
コウタロウ様は周囲を見渡すと笑顔を作る。
どうして私なんかに優しくしてくださるのだろうか?
コウタロウ様は一切不快感をにじませずにおいしそうにニコのスープを食べる。
食事の仕方は貴族を思わせるように丁寧で音が立たない。
私の食べ方や握り方とは大違いで顔から火が噴出しそうだった。
コウタロウ様に聞いたら教えてくださるだろうか?
私が食べ終わるとコウタロウ様は立ち上がり、お金を支払う。
「この辺で獣人の装備をつくってくれる鍛冶屋を知らないか?」
店員が
「いるわ。教えるからあなたはもう二度と来ないで」
そう言いお金を叩きつけるように渡したためお金が散乱する。
「ここから出て右に行って大通りを右に。路地の入口に看板が出てる」
「そうか。すまなかった。料理、本当に美味しかった。ありがとう。」
悲しそうに告げるとお金を拾って出て行く。
すぐに追いかけ渡しが拾った分を渡す。
「ごめんな。」
コウタロウ様はなぜか謝っていた。
武器屋までは通ったことがなかった道でいろいろな匂いが入り混じっていた。
路地に入り進むと鍛冶屋の入り口が現れる。
鍛冶師のおじさんは怖かった。
「あんたか?嬢ちゃんか?」
「私です。」
「奴隷か...。いい趣味をしているな。」
そう言った。
鍛冶師は品定めするようにこちらを見た後、裏に戻った。
私という奴隷がいるためにコウタロウ様が悪く言われてしまう。
だがコウタロウ様に謝るのは違う。
私はコウタロウ様の意思で買われているのだ。
だが、こんなに良くしてくれるコウタロウ様を悪く言われるのも納得がいかない。
私はまた、何もできなかった。
「この武器はもともと片手で扱えるように作るものをより軽くしたものだ。わかりにくいか?通常より分量を減らし作ったものだ。だから軽い変わりに壊れやすく威力も低い。値段は安めだが材料費を考えれば高い、そんなとこだ。予算は?」
「できれば100000エン」
100000?そんな大きなお金を私の装備の費用に充ててくれるなんてどういう感覚なのだろうか?
「それのどれかと皮の鎧なら70000で言っておくがこれ以上は下げない。それぞれ個別に売るならその剣が40000皮の鎧一式が40000だ。」
持ってきた3つの武器を指しながらぶっきらぼうに言った。
「エレノアどれがいい?持ってもいいのか?」
「ああ。抜いて振ってみると言い。店のモノを壊せば買い取ってもらうがね。」
「ああ。ありがとう。」
武器が運ばれてきた。
コウタロウ様が頷かれたため武器を持ち上げる。
私は筋力がかなり低下しているはずだが片手で持ち上げられるほど軽い。
斧は少し重いが。
それから少し振ってみるが、武器の良し悪しは私にはわからない。
「あの、最初に持つならどれですか?」
と聞くと、
「そうだな。ある程度安全だから槍だろう。うちの槍は少し短いが斬撃もできる。槍なら木製でよければ値段を変えずに盾も渡そう。あとは無難に剣だろう。斧はない。」
一拍置くと
「獣人は足も速く力も強いものが多いから斧を使うものも多いが、それは あくまでも人間の総数と比較したときの話だ。敵と密接状態になるというデメリットを背負っても威力を求めるなら使うといい。」
と付け加えた。
槍なら盾ももらえるのか。
剣はコウタロウ様が持っているから武器の種類を変えておいたほうが戦闘に幅もでるだろう。
そう思い槍にすることにした。
「70000エンだ。鎧は明日までには用意する。」
7?やはりかなりの値段だ。
「耳と尻尾はどうする?狼人のこれは見ただけでわかるが...?」
「隠せるのか?」
「ああ。まあ。」
「嬢ちゃんはどっちで音を聞いているんだ?」
「上です。」
人間の耳で聞くものも多いが、私は上の耳で聞いている。
「そうか...」
「嬢ちゃんの耳を隠せば音が聞こえにくくなる。戦場で音が聞こえないというのは危険だと思わないか?あとは尻尾だな。人の感覚じゃ尻尾がないからわからないが、バランスが崩れる。慣れるまで時間はかかると思うぞ。」
鍛冶師はやはり、私たちの体のことをある程度しっかり把握しているようだ。
「出す?方向で。」
「あいよ。槍はそのまま持っていきな。」
鍛冶師は急いだ様子で裏に戻った。
「コウタロウ様ありがとうございます。」
感謝を伝えると
「大丈夫だ。」
その言葉だけが返ってくる。
本当に良かったのでしょうか?
「耳がわからないように型を入れた外套を作ってる服飾屋が商業区のはずれにいる。確か名前はリラだったはずだ。まあ、考えてみると言い。」
鍛冶師がひょっこりと顔を出しそんなことを言った。
「ありがとう。行ってみる。」
リラさんの店に行く最中にコウタロウ様から質問をされた。
「エレノアは文字の読み書きができないんじゃなかったのか?」
「はい。話せはしますがこの国の文字は書けません。コウタロウ様はアジギを読めるんですよね?」
「アジギ?」
「はい、獣人の国でよく使われる言葉はこの国ではアジギと言うんでしたよね?」
「エレノアはこの国の言葉を使っているんだよな?」
「ええ。ただ、ミリの食堂でこの国の言葉で書いてあるメニューではなくアジギで書いてあるメニューを見られていましたよね?」
「え、ああ。練習中なんだ。」
コウタロウ様は一瞬言いよどんでからそう言われた。
何かあるのだろうか?
だが奴隷が知る必要もないことだろう。
と言うか奴隷は主人の秘密を多く知るべきではないだろう。
そう思い、質問はしなかった。
買っていただいた槍をしっかりと握る。
だが、いつか...。
私を信頼して話してくださったりするだろうか?




