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金貨と銅貨と狼少女


バジは俺を地下に連れて行った。


拷問器具のようなものが周囲においてある。


血の匂いもするしここはそういうところなのだろう。


「お客様、椅子にでも座って少々お待ちください。」


5分ほどたっただろうか。


黒装束を着ている数人とバジが戻ってくる。


身構えるとすぐにバジは両手を挙げて


「これは私の奴隷です。」


と言った。


バレないようにやったつもりなのだが、経験が足りないのか?それともバジが異常に目ざといのか?


彼らは少女を引いて来た。


少女と言っても年齢は同じくらいなのだろうが。


身長は160cm?くらいだろうか?


大きな狼のような耳が見える。


黒子たちは椅子に少女を手早く縛ると退出した。


「ケガなどされても恨まないでくださいね。あと、シたら買い取ってもらいますよ?」


「ああ。」


そう言ってバジは金属の扉を閉めた。



話せるかとは言ったが、特にこれと言って話したいこともない。


その狼人も見て思ったのは狼の擬人化みたいだなどと意味不明なことを考えた。


と言っても、大きな耳と後ろにある大きな尻尾、肩口や腕、目の下から首筋にかけて生えている毛以外は構造は人間のそれだった。


毛は全体的に汚れているが色の感じがかなり似ている。


痩せこけ、髪の毛は長くぼさぼさで腰近くまで伸びている。


服はどの奴隷も着ていたがぼろ布のワンピースではあるものの、とても綺麗なものだった。


バジが変えさせたのだろうか?


俺が黙っていたため狼人の少女はこちらを不安げに覗いてくる。


「俺の言葉はわかるか?」


怯えるように少女は頷く。


バジが喋れないなどの情報を伝え漏らすようには思えない。


問題なく喋れるのだろう。


「率直に、俺の奴隷になってくれないか?」




俺はバカじゃないのか?


この世界では性奴隷などと言った区分はなく奴隷は奴隷で、人ではなくあくまでもモノとして扱うという話だった。


俺の道具になってこき使われてくれ?嫌に決まってる。


とりあえず自身の発言が痛すぎて彼女を見れない。


「どうっ、して、私ですか?」


か細い声が聞こえ、すぐに顔をあげる。


涙をためた彼女の顔がそこにはあった。


青い瞳が不安げに揺れる。


めちゃくちゃ可愛い。いや、いまは関係ない。


自身は奴隷と言う立場で、目の前の客が挙動不審な態度なのだ。


俺が同じ立場でもきっと不安を抱く。


「俺は、一人で冒険者をやっている。野営の際に一人だと安心して寝られない。が、人とはパーティーを組みたくないんだ。戦闘を君には強いるとは思うが...。」


そう言った後にすぐに自身の発言に嫌悪感を抱く。


『人とは』パーティーを組みたくはない。では貴方を人とは扱わないと言っているようなものだ。


「わかり...ました...。」


これは肯定だろうか。それとも諦めなのだろうか。


彼女は完全に俯いてしまった。


これのどこが無理やりではないのだろうか?。


一方的な契約だ。


そんなのわかっていたことだ。


だからこそ、『なってくれないか?』なんて聞くべきではなかったのだ。


まあ、言ってしまっては取り消せはしないから、もう後の祭りだが。


後悔ばかりだ。


「もし嫌になったら言ってくれ。」


「え?」


狼人は驚いた顔をしたがそのままバジを呼ぶ。


バジはすぐに入ってくる。


「どうなさいますか、お客様?」


「購入する。」


「ええ、わかりました。代金は金貨8枚です。先ほど聞かれなかったので最後に忠告ですが、その狼人はレベル10です。奴隷に知識を与えすぎず、感情移入しすぎないでくださいね。所詮は獣です。喉元噛み切られますよ?」


そう言いながらバジはペンとインクを奴隷に用意させる。


「ああ。」


「お手を。」


鎧を腕だけはずし、バジの前に差し出す。


バジが魔法陣を描き呪文を唱えると魔法陣が輝きだす。


「誓いなさい。」


バジは狼人に指示をだす。


「触ってもよろしいでしょうか?」


「ああ。」


狼人はおずおずと俺の手の魔法陣に手を重ねる。


毛の感覚がくすぐったい。


「私の命はあなたのために。あなたに全てをささげます。」


魔法陣はいままでで一番強い光を放ち、狼人は胸を押さえ苦しみだす。


「大丈夫ですよ。これは従属の儀なんて呼ばれるものです。」


バジは俺が聞く前に俺の問いに答える。


「そう言えば、奴隷に強制的に指示を聞かせられることはご存じですよね?なんでも死よりきついそうですよ?」


「いや知らなかった。ありがとう。」


そうバジに言いつつ金貨を10枚渡す。


「お客さん数えれないんですか?」


なぜこうもいちいち失礼なんだろうか?


「口止め料だ。」


「何のでしょう。鎧を着た名前も分からない御仁が来たことを黙っておけば良いのでしょうか?」


金貨を8枚とり、2枚をこちらに返しながら続ける。


「秘密はお守りします。お客さん。そのほうが得をしそうなので。」


お金をこちらに返すとにこりと笑った。


「お買い上げありがとうございます。またのご利用をお待ちしております。」


「考えておくよ。」


狼人は胸を押さえゆっくりと立ち上がった。


「大丈夫か?」


「え?あっはい。大丈夫です。」


彼女の額には大粒の汗が浮かんでいる。


契約にはどれほどの痛みが伴うのだろうか?




建物から出た。


ふと手の中を見ると金貨2枚ではなく銅貨2枚がそこにはいた。


バジはよく考えれば一言も返すとは言っていない。


言葉も出ない。



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