ばか、ぼけ。
あの鍛冶屋はエニというらしい。
少し発音がしずらいが、活舌の問題か?
エニに聞いた限りでは安すぎる宿屋は止めておけとのことだった。
まあ、どうなるかは簡単に想像がつくが、言われなければ安いところに泊ろうとしただろう。
来た宿屋はエニのおすすめで綺麗なところだった。
異世界だからと言って汚いという考え方は良くないのだろう。
間違いなく今の俺より清潔だ。
この宿屋は男性が運営しているらしく、なんと呼ぶべきだろうか?
旦那さん?社長さん?まあ、いいや。
ここは一泊大銅貨2枚と銅貨2枚(1200エン)だそうだ。
食事は追加で1食銅貨3枚(300エン)。
とりあえず一泊することにした。
たらいを借り、銅貨を渡して部屋で体を拭く。
湯舟がかなり恋しい。
家欲しいなぁ。
部屋の中は机もなくほんとにベッドしかなかった。
まあ、何かする予定があるわけでもない。
久々に鎧を脱いだ。
やはりボロボロだ。
今の所持金は948203エンだ。たぶん。
貨幣が多すぎて計算がしずらい。
鎧も乾いた布で申し訳程度に拭う。
鎧の買い替えは勿論なのだが...。重量軽減を諦めればそこそこ安くなるのだろうが...。
値段にビビッて鉄装備の普通の値段を聞くのも忘れたことに今気づいた。
その日は外套を着て食事をとった。
顔をすぐに隠せるようにだが、寒いわけでもないのに部屋から外套を着て出てきてそのまま部屋に帰る図はかなり滑稽だっただろう。少し恥ずかしい。
この規模の街なのだ。村だが。
勇者がダンジョンをと言う話もあった。
いつ鉢合わせてもおかしくないのだ。
警戒は余分にでもするべきだろう。
その日は久しぶりに筋トレをして再度体を拭いベッドに入った。
勿論荷物は抱きしめてたさ。
水を自分で出せるのはかなり便利と言うほかない。
いつもより楽に目が覚めた。
この生活を続ければ野営はできなくなるだろう。
鎧を身に着けバックパックを背負い宿屋を出た。
それから少しふらふらしていた。
鎧を購入する決心がつかなかったことと、今後の方針が決まっていないからだらだらしてしまった。
商業区と呼ばれるところに来た時リラさん?のことを思い出す。
剣を担いでいたのに忘れるとか頭おかしいのだろうか?
商業区の商人たちにリラさんについて聞くと何人か候補が上がったが、商業区のはずれ?で衣服を売っているリラさんだった。
手紙を見せるとすごい剣幕で
「彼はどこにいるんですか?と聞かれた。」
森の中で息絶えていたと素直に伝えるか、渡すように頼まれたと嘘をつくべきか迷ったが、森の中で死んでいたと告げた。
彼女はもうあきらめていたのだろう。
泣き崩れることもなく、
「そうですか」
そう蚊の鳴くような声で答えた。
そのあと無理に作った笑顔で何かを言おうとしたので先に
「これも」
そう言って剣とペンダントやランクタグなど、それから魔石とお金も渡した。
彼女が無理に作った笑顔を涙が壊す。
嗚咽をかみ殺している。
俺がここにいるのはあまりに邪魔だろう。
俺は無言で店を出た。
一人で森の中に言ったりしないだろうか?
まあ、慈善活動がしたいわけじゃなし、俺が指図できるようなことでもない。
営業中と書かれた木の板を裏返す。
この字は上手いのだろうか?
その後商店を見て回って少し食べ歩きをした。
食事の分を足して1日2000エン計算で今の所持金ならあと400日は暮らせる。
それを考えたら鎧と言うか鉄などが高価なものなのだろう。
鎧の元の世界の昔の価値も分からないから比べようがないのだが。
この物価なら鎧は最低限しか着ないという文化が広がってもおかしくはないだろう。
リラさんもそうだがやはりこの世界の人間はみんな綺麗だと思う。
俺もこんな風に顔が整っていたらなぁ。
整っていたところで今は顔は出せないのだが。
何も考えず歩いていたらかなり細い路地に入ろうとしていた。
悪い癖だ。
引き返そうとしたところで声をかけられる。
「お兄さん。よって行かれませんか?」
お兄さん?俺が来ている鎧は女性でも問題なく着れるように動作に問題が出ない程度に胸囲が大きめに作ってある。
声だって出していないのだ。
歩き方か?俺はガニ股じゃない。
仕草だろうか?ただ回れ右しただけだ。
ここは異世界だ。じゃあ鑑定だろうか?
殺すか?殺してどうなる。
俺の捜索は始まっているかもしれないのだ。
だが、鑑定を持っていて男性とわかるなら名前まで見えるのか?
「そんなに怖い顔をされないでください。」
もう何と言うか、考えることを諦めてしまった。
「顔は見えないだろ?」
そう返すと
「はて?」
壮年の男性は首を傾げた。
「珍しいお客さんですね。秘密はお守りしますよ。イイ子いっぱい入ってますから。」
イイ子?その、つまり、そういうところだろうか?
その...。
まあ、勇者ということもばれてるし?
まあ、ついて行ったよね。
路地に入り5分ほど歩いた。
一本道になっており、まるでこの道を作り、隠すために周囲の建物があるようだ。
どの建物もこの道に面した窓や入り口がない。
結果としては、思っていた施設ではなかった。
「最近入荷した奴隷がですね、お客さん?」
建物の中に広がっていたのは檻だった。
一瞬こういうプレイ専門なのかとも思ったが、恥ずかしさが心を支配する。
「え?ああ。いや、何でもない。」
壮年の男性は少し考えこんだ後、目を見開きハッとした後
「えー...。性奴隷にもできますよ?」
そうにこやかな笑顔で言ってきた。
こいつは心が読めるのだろうか?
読めるのなら配慮してほしいし、気づいても言うなバカ、ボケ。




