宗教と体裁と
翔が変身というか覚醒というかしたあとに、貴族たちの翔への態度が変わった。
値踏みするような視線から、畏怖し、崇拝するような信仰に近いものを感じた。
「他にスキルは持っていますか?」
とアルノヴァ王が促す。
「スキル欄にはヒールの文字があるのですが、考えても呪文がわかりません」
「ヒール?…ふむ」
王様はそういうと少し考え込む
「呪文がわからない場合はまだ完全に習得できていない、例えば適性があるがLVが足りないなど
の理由が考えられるが…ヒールか。」
貴族たちが徐々に声を潜めて喋りだす。
それを遮るようにアルノヴァ王が、
「勇者翔よ。貴方は元の世界で聖教を信仰されていたと聞きましたが、お間違いないですか?」
と言い翔を見る。
きっと話を合わせてくれと言うことだろう。
「ええ、私はせいきょう?を信仰しています。」
アルノヴァ王が翔に優しい視線を投げ
「聖教の教えは正しかった!!翔様たちは魔を討ちこの世界に安定と幸福をもたらしてくれる!!」
確信に満ちた声でそう言った。
貴族の中には涙を流してさえいる者もいた。
聖教の中ではヒールは非常に大きな意味をもつのか?
パーティーは笑顔や希望に満ち、滞りなく行われた。
翔はすぐに元の格好に戻ったが髪の色は戻らなかった。
「境本氏!あんなやつにいじめられてたんですか?」
「いじめられてたって言うか嫌がらせだな、俺も悪かったし。今やられたらステータスの関係で殺されそうだけどな。」
「笑えないでござるよぉ」
「あの黒い煙は大丈夫ンゴか?禍禍しいものに見えたンゴ」
「「「「………」」」」
全員が押し黙ってしまう。
「そっそうだ!お互いの能力やステータスを大まかにでも開示しあいませんか?」
「名案ンゴ!」
ステータスやスキル、この世界のことについて話しているうちに夜は更けていった。
きっとこいつらも不安だったんだと思う。だから気丈に振る舞っていたんだろう。
もし俺がもっとこいつらを信用していたら。何を言ったってもう今さらなのだが。




