触媒
「カリスさんたち大丈夫ですか?」
村に入った瞬間体中に鳥肌が立った。
体が重い。吐き気と頭痛が強くなる。
ただの思い込みだろうか?
「ああ。大丈夫です。」
「敬語でなくて構いませんよ?私は口癖みたいなものなので。」
キノシタと言う勇者はそう言って歩いていく。
村の中は特に何もなかった。
「あの死んでいた?と言う村人は?」
「ほとんどは先行した勇者が討伐しました。」
「討伐です。倒すと粒子になって消えたという報告があります。」
「魔物だったってことですか?」
「さあ?それはわかりません。」
勇者たちはなぜ馬車を置いてきたのか?
と思ったがダンジョンが村の中、正確には依り代の傍にあるそうだ。
依り代は村に隣接する森を抜けた先にある。
ダンジョンは依り代のすぐそばだそうだ。
村人が魔物化したことも大きく関係しているのだろう。
勇者たちはあくまで丁寧だ。
もしを考慮して安全にダンジョンを鎮圧しようとしているのだろう。
「依り代を先に見に行かれますか?」
「先に、とは?」
「一日ここで休憩しそのあとダンジョンに進むよていなのです。」
「なるほど。」
レイもアンも少し顔が青い。
ダンジョンは勇者に任せていれば鎮圧してくれるだろう。
「お願いします。」
キノシタについていく。
空気がどんどん重くなる。
「レイ、アン、先にキャンプに戻っていないか?」
「ここまで来たんだから見るわよ。」
レイはそう言い、アンも意思は固そうだ。
森の中に作られた簡易的に舗装された道を抜けていく。
先に何人かの勇者が偵察のために来ていたようだ。
「やっほー、カリス君」
15段の階段ですれ違ったカナシロが声をかけてくる。
「どうも。」
依り代が目に入った瞬間体が震えた。
いや、大地が震えた。
奥歯がガチガチ音を立てる。
「なっ何?」
カナシロが声を上げるが声が出ない。
なんと表現するべきか、依り代の前には人を無理やり20人ほどくっつけたような奇妙な生物がいた。出現したのか?
形状は丸く、胴体に対して不釣り合いな小さい手と足、胴体には口があり、牙からよだれが垂れている。
人で言う顔のような部分はあるが穴が開いている。
目も鼻も口もない。だが確かに目が合っている。
奇怪で奇妙で恐ろしく、それでいて目が離せない。
「回避っ!」
キノシタがそう叫んだ瞬間には俺は宙にいた。
正確には木ノ下が俺を抱きかかえるように飛んでいた。
左にはカナシロにアンとレイが抱えられている。
俺たちがいた場所は焼け焦げており、登っていた石の階段に大きな切れ込みが走っている。
「照らせ!ライトニングシュート!」
キノシタは雷の魔法を上空に放つ。
ダンジョン付近で確認を行っていた勇者たちは体制を立て直し、化け物との戦闘を開始している。
「何よあれ!」
「わからないに決まってるじゃないですか!、三人は他の勇者のところまで撤退を。ここはしばらく我々で押さえます。」
「しかし、」
「ここに居られても邪魔です。」
キノシタはそうはっきり告げた。
「大丈夫でござるか!」
突風のようにアサヌマと呼ばれる勇者が駆けつけてきた。
あのライトニングシュートを見て駆け付けたのだろう。
「浅沼さん!あちらの状況は?」
「いつでも戦闘可能でござる。」
「わかりました。」
二人は顔を見合わせた後
「一気に行くでござるよ!」
「ええ。」
二人は突撃と同時に魔法を放つ。
無詠唱だった。
爆音とともに土煙が上がる。
俺はレイとアンに視線を送り撤退する。
「被弾したものはすぐに後退!」
キノシタがそう叫んだ。
ただ、得意な属性をぶつけただけかもしれないがすさまじい威力だ。
土煙をかき消すように
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
耳を裂くような大きな咆哮が地面を震わせる。
「村の人たちってあんなやばいやつと契約してたっていうの?」
青ざめた顔のレイは走りながら言う。
「知らないよ!」
アンも必死についてくる。
アンも特に足が遅いわけではない。
「三人とも無事か?」
「ええ。」
名前がわからない身長の高い勇者が優しく声をかけてくる。
「状況は?」
「依り代にモンスターが。キノシタさんたちが戦闘を。」
「そうか、木ノ下がいるのならだいじょ」
民家に何かが激しくぶつかり、俺は顔を咄嗟に手で覆う。
どうなっているんだ。
「全員戦闘用意!絶対に気を抜くな!」
民家から現れたのは血だらけのキノシタだった。
キノシタは大声で叫ぶ。
地鳴りのような音が鳴り響き、村の壁を壊し、咆哮し木をなぎ倒しながら化け物が現れた。
「下がって!」
名前のわからない勇者は手でジェスチャーしながら大剣を抜く。
「モンスター名!不明!レベルは62。」
別の勇者がそう叫ぶ。
「不明って名前か?」
「いや、文字化けしてるんだ!」
モジバケ?とは何だろうか?
レベル62、まごうことなき化け物だ。
勇者三人が化け物が出てきたところから飛び出し、魔法を放とうとする。
「死ねぇええええええええ」
化け物は勇者三人を見ることはしなかったが変わりに背中?側から大量の触手が飛び出した。
「ングッ」
「死ぬなよ、アイスアロー!」
そう叫んだ勇者の周囲に氷が出現した。100以上はあるであろう氷槍が大量に浮かび同時に魔物に向かって突撃する。
化け物の体に氷の槍は大量に刺さったが、どんどん再生しているように見える。
魔法がぶつかった瞬間に数人の勇者が捕まった勇者を救出する。
中にアサヌマもいた。
救出されたのを確認し他の勇者が魔法での総攻撃を開始する。
魔物に嵐のように魔法がぶつかり続ける。
これで死なないわけがないだろう。
時間にして約2メル(2分)だ。
土煙を勇者が風魔法で吹き飛ばす。
そこには化け物が立っていた。
ダメージを受けているようにも見えるが...。
化け物は胴体についている大きな口をバカにするように開けた。
次の瞬間には大量の触手がこちらに迫っていた。




