カリスの努力は無駄に
「お久しぶりです、金城さん。と言っても一か月ほどですが。」
聞き覚えがある声の主は木ノ下だった。
「ひっさしぶりだね。木ノ下君。それに、宮田君とえーと浅沼くんだよね?」
金城は木ノ下と仲がよさそうに談笑している。
浅沼は忘れられかけていたのか...。
「おっお久しぶりでござる。」
「ンッンゴ。」
宮田も息が詰まったような返答になっている。
「あいつも勇者なんだろ?俺たちは先に戻るか?」
そうカリスが俺だけに聞こえるように声をかけてきた。
もう、スリアの村は目の前なのだ。
「ああ。」
そう言った時ちょうど運悪く木ノ下の興味が俺たちに移った。
「あの方たちは?」
「木ノ下君たちは最近強い魔物が出てることは知ってる?」
「強い魔物?噂程度になら聞きましたが、王都にいた時は特には出会っていないかと。魔変鉱を落とすとかいうやつですか?」
「そうそう!最近各地で話が出てるけど、この辺にもでて、私はそれを倒しにいってたんだ。」
金城の答えじゃ全く返答になっていないのだが、大丈夫なのか?
木ノ下は少しした後、
「つまり、彼らは金城さんがそのモンスターを倒すために雇った冒険者ですか?」
まあ、そうなるよな。
あの説明では、俺も同じように思うだろうな。
「違う違う、彼らはそのモンスターを倒してくれたんだよ。」
「なるほど。皆さんありがとうございます。」
木ノ下はいつもあんな感じなんだな。
「いえ、私たちも金城さんに送っていただいて助かりました。」
木ノ下たちも運悪く俺たちを送っていってくれるそうだ。
「木ノ下君は何をしてたの?」
「つい先日この街についたんですけど、今、かなりの数の勇者が出ているみたいだったので、レベルとかを上げれたらと思って村から出ていたんですよ。」
「木ノ下君は真面目だね!」
「いえいえ、私なんて金城さんに比べれば。」
「え?私?そう言ってくれるのは嬉しいけど、私は真面目なんかじゃないよ。」
「金城さんが真面目なことはほどんの人は間違いなく知ってますよ。それに、元の世界では芦田さんと一緒に仕事をするくらい仕事ができたじゃないですか。」
仕事っていうのは生徒会とかの話だろうか?
聞けば聞くほど木ノ下がプレイボーイに聞こえる。
村まで20分もなかったのだが、木ノ下や金城がこちらに話を振ってくるたびにカリスたちが答えてくれて本当に申し訳ない。
いつもより時間が長く感じた。
木ノ下たちも疑問は持っただろうが、金城がこの人たちは大丈夫だと言ったのが大きかったのだろう。特に追及しては来なかった。
街の中に入るとパレードのようになっていた。
「ちょうど帰ってきたみたいだね。」
木ノ下が言った。
「あのダンジョンに行ったっていう勇者様たちですか?」
カリスが金城に聞くと
「うん!」
そう言って金城は飛び出していった。
残された木ノ下は、はぁとため息をついた後、
「皆さんは我々の拠点はわかりますか?」
「いや、性格にはわかりません」
「クエストから帰還中だったと聞きましたが、先にギルドに寄られますか?」
「え?」
「お送り致しますよ。」
まあこれで、抜けるタイミングは無くなったな。
「鎧の方にも少しお話を伺いたいですし。」
木ノ下は抜け目ない。
「ただでは嫌だというのなら金貨1枚でどうでしょうか?」
「話せることは俺たちは話したはずだ。」
カリスはどうしてこれだけ俺を庇ってくれるのだろうか?
カリスは力強く、明らかに敵意を孕んだ語調で木ノ下に言った。
まあ、腕はそうだが、これは場合によっては勇者に対立するような行為だ。
「金城も話を聞いたとおっしゃっていましたし、これはカリスさんたちの話を疑うような発言でした。もし不快に思われたのなら心から謝罪いたします。申し訳ありません。」
頭を下げようとした木ノ下をカリスは止め、
「勇者様に頭を下げてもらうような話ではないです。それと、冒険者が持っている情報は冒険者の生命線です。勇者様の中に嘘か本当かを見抜ける人間がいるという話をこちらが喧伝しても構いませんか?」
「それはどう言う意」
「そのままです。」
カリスは食い気味に答えた。
「勇者様は情報を多く冒険者に聞いていました。そこにいつも彼女がいたことは憶えています。確かに報酬を払いながら聞いていたのかもしれませんが、冒険者たちは、【嘘はバレないもの】としてついてます。その前提が覆るようなら、そもそも勇者と話をしてくれない人間も増えるでしょう。」
木ノ下ははっとした後すぐに平静を取り戻す。
「お金ですか?こんな言い方はアレですが、勇者を脅すなんて度胸がありますね。」
やはり木ノ下は交渉ごとにかなり強いのだろう。
冷静で慌てない。
相手に主導権を握られないように強くはっきりと喋っている。
カリスは気おされ気味だ。
「お金ではありません。勇者を敵に回してもいいことはありませんから。喧伝はしません。ただ、この方はその、」
カリスはそこまで言って言い淀んだ。
ただの仲間なら隠すような真似は必要ない。
隠さなければならないような人間なら、勇者を前に庇うのはあまりにも愚行だ。
俺はカリスの肩に手を置き、カリスの前に出て木ノ下の肩を掴み一気に引き寄せる。
木ノ下は全く対応できていなかった。
もし、反撃されたら場合によっては死んだかもしれないのだから、もっと丁寧にするべきだったと今は反省している。
「俺だ。」
そう小さく呟いた。
「え?あ、生きて、いえ。良かったです。」
木ノ下は柔らかく笑った。
俺は小さく頷く。
その発言を聞いて浅沼と宮田も声をあげそうになり、木ノ下が止めていた。
「良かったのか?」
カリスは聞いてくる。
これ以上カリスへ勇者から不信感を抱かせるわけにはいかなかった。
こいつら三人なら黙っていてくれるだろうしいいだろう。
「お話できますか?」
木ノ下にそう言われ、俺はカリスたちに手を上げ、何も言わずに木ノ下たちについて行った。
パーティーはカリスたちから見えなくなったころに離脱した。
三人の体力が見えないのは久しぶりで少し不思議な気分になる。
不思議というのは嘘ですこし寂しい。
俺と一緒では三人はこれからも不都合な点が出てくるだろう。
王族がもし俺の存在に気づき問題視すれば危険が及ぶのは目に見えているのだ。
カリスたちは送らないでいいのかとは思ったが、カリスたちにとって有益な情報があるかもしれないという話だったし勇者の拠点が見つからないこともないだろう。おそらくすぐに向かうだろう。




