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雨のち晴れ。そして向日葵。


朝食はいつもより豪華だった。


今日村を出ると伝えていたからだろうか?


猪の肉をふんだんに使ったものだった。


臭みがあるかとも思ったがそんなことはなく、身がしっかりしていてすごくおいしかった。


この世界に来てから食事がずっと美味しい。


体をしっかり動かしているからなのか、魔力が関係あるのかはわからない。


木ノ下や宮田、浅沼はどうしているのだろうか?


三人にはシルヴァ先生たちが勇者を理由はわからないが殺していることをしっかりと伝えておくべきだった。


勇者が転移のペンダントで招集されるという説明も受けたが俺はペンダントを持っていない。


俺が生きていることはまずいからシルヴァ先生は離れるように言ったはずだ。


俺が生きるためにあの三人が必要不可欠かと聞かれればそれは不要だろう。


じゃあ、見捨てられるのか、無視できるのかと言われればきっとできない。


記憶を消すことができたらいろいろと楽なのになぁ。


消すことができても消そうとは思わないだろうが。


食事が終わり、荷物もまとめ終わった。


昨日、この村の武具屋にも行ってみたが、鉄自体がこの村では希少らしく、全体的に値段が高く、冒険者用と言うよりは狩猟用だった。





村長エイデの家に4人で報酬を受け取りに行った。


「此度は依頼を達成してくださり、本当にありがとうございました。村娘のメリアも無事に戻ってきましたし、何度感謝をしても足りません。少ないですが報酬をお受け取りください。」


エイデが出したのは金貨4枚(200000エン)だった。


「金貨を4枚も?」


レイが驚き声を上げる。


「依頼の報酬額と大きく離れています。内訳をお願いします。」


カリスも驚いていたが丁寧にそう言った。


「住民の救出に金貨1枚と大銀貨4枚(90000エン)、通常報酬に、通常種、上位種の追加討伐で金貨2枚(100000エン)。残りは諸経費で、金貨4枚になります。」


「剣が使えるゴブリンを逃がしたという報告はお聞きしましたよね?」


「はい、確かに。ですが付近にはいないことを確認までしていただきましたし、今後は今まで以上に村の防衛面を強化します。人語を話していたかもしれないという話もお聞きしましたが、もしゴブリン一匹に簡単に落とされてしまうような村ならそれまでなのです。どうぞこれはお持ちください。」


「本当にお受け取りしてよろしいんですね?」


「ええ。これは村全体からの感謝の証です。」


「わかりました。」


カリスが金貨を受け取る。


アンが


「どうしてメリアさんのことを村娘と言うんですか?」


とエイデに聞いた。


エイデは困ったような顔をして、


「誰かに聞いたんですか?おしゃべりさんには本当に困りものですね...。」


そう言って短く息を吐いた。


「私はメリアを助けに行こうとした村の者たちを引き留めました。最近は周辺の魔物も強くなってきています。一人のために複数を危険に晒すべきではないと思いとった行動で、私の考えはあなたたちから聞いた情報を改めてみてもその決断は正しいものであったと思っています。」


エイデの悲しそうに笑った目から一筋の涙がこぼれた。


「私は村人のためと言って、自身の娘を見殺しにしようとしたのです。。結果として奇跡的にあなたたちのおかげでメリアは助かりました。が、心身ともにメリアは傷を負いました。その時私は何もせず、安全なこの村の中でただ祈っていたのです。これは人として、親として到底許される行為ではないのです。私はあの決断をした時点であの子の親とは言えないでしょう。」


「でも、」


アンが何かを言おうとして言葉に詰まった時


「そんなこと言わないでよ!!」


振り返るとドア付近に立っているメリアが居た。


外に出ていて聞いていたのだろう。


泣きながら松葉杖をつき懸命にゆっくり歩いてくる。


俺たちの横を通り過ぎ、エイデの前に立ち


「私の親はあなたなんです!あなたが何をどうしたって、それは今後もずっと変わりません。」


震える声にも関わらず、力強くはっきりと言い切った。


「だが、私は、お前に...お前を...。」


何か言おうとしたエイデにメリアは何も言わず杖を離し倒れこむように抱きつく。


「お父さんがこっそり武器を準備していたことをデニから聞きました。お父さんは冒険者が来てくれなかったら、一人ででも私を助けに来るつもりだったんでしょ?剣なんて握ったこともないくせに。」


「そっ、それは...。」


動揺したエイデをメリアはより強く抱きしめた。


「もう親子じゃないなんて言わないで、ずっと私のカッコいいお父さんでいてよ。」


「ああ...。ありがとうメリア。」


エイデはもう何も言わなかった。






しばらくしてエイデは手で涙を拭い、メリアを抱き上げ椅子に座らせた。


「お見苦しいところをお見せしました。」


「いえ。」


答えたカリスの顔もぐちゃぐちゃだった。


俺たち三人もだが。


カリスと村長は最後に固く握手を交わした。


「また何かありましたら、この村を、住民たちををよろしくお願いします。」


「はい。」


「冒険者さんたち、本当にかっこよかったです。助けに来てくれてありがとうございました。」


泣きはらした顔のメリアが、向日葵のような笑顔で俺たちにそう言った。

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