ゴブリンは目前。
村長が寝る場所を用意してくれるという話だったのだが、問題が解決できなかった時に申し訳が立たないとカリスが丁重に断り村の宿屋に泊った。
宿屋と言うか民泊と言うほうが近い表現になるだろうか?
この村は基本的には狩猟7農耕3の割合で行っているとおかみさんに聞いた。
剣や斧も散見され、あの斧が武器かどうかは何とも言えないのだが。
筋肉質な男性も多く、門番と同じような装備をしている警官のような役割の人もいるそうだ。
この宿屋はちょうど2部屋あり、男女で別れた。
食事はこの周辺で獲れた焼き魚と鹿肉のステーキ、スープ野草のサラダにパンだった。
ここの宿泊料は大銅貨4枚とスリア村の2倍だったが個人的には十分満足だ。
人の往来自体が少なければ、生活のために宿泊料が上がるのは当然のことだとは思う。
まあ、経営をやったことがあるわけではないから何とも言えないのだが。
ベッドもふかふかで全然埃っぽくなく部屋もきれいだった。
カリスとは筋トレをしながら少し話をした。
「カリス、この村結構戦える人間が多そうだっただろ?」
「ん?ああ、だな。」
「なんで村の人を使ってゴブリンを倒しに行かないんだ?」
おかみさんの話ではこの村の人間は80人くらいで戦える人間は25人ほどだと言っていた。
「それは冒険者じゃないからかな?俺たちがいた村も誰かが今さっき攫われたという状況じゃなければ冒険者に依頼していたよ。」
専門家じゃないからってことか。
「ゴブリンだって強くなる。最近聞いた話なんだが、銀2とかの一流の冒険者がゴブリンに1対1で負けたなんて話もあるくらいだからな。」
「それは噂か?」
「いや、本人が言ってたんだ。そいつは少し前までスリアにいたんだけどパーティー4人と何とか倒したらしいんだ。」
「上位種とか変種?」
「その可能性もなくはないらしいけど上位種の特徴である、大きな魔石やドロップアイテムがなくて通常のゴブリンのドロップアイテムしかなかったらしいんだ。」
「今回の依頼ではそういうやついないといいな。」
そう笑いかけるとカリスは
「止めてくれ」
と言い笑い返してきた。
カリスの体は、見ればとても綺麗な均等な筋肉のつき方をしていた。
俺は腹筋がずれてしまっている。
右と左で力の使い方が違うのだろうが、カリスは筋肉までイケメンなのか。
はぁ。
次の日朝食を摂り村長の家に向かう。
「どうぞこちらへ」
丁寧な対応で応接間に通された。
「依頼の件なんですが、ゴブリン10体と依頼書ではなっていましたが変更はありますか?」
「基本は変わりありません。村の者がゴブリンの巣を見つけました。巣の中で魔法を使うものがいたことも最近確認されました。10体討伐で報酬金は勿論お支払いします。もしよろしければ巣の中のゴブリンの掃討をお願いできないでしょうか?10体以上は追加でお支払いし、上位種も追加でお支払いします。」
「報告は小角で構いませんか?」
ゴブリンの魔法と言うのはどのくらいの威力なのだろうか。
「構いません。」
「村の娘のメリアというものがゴブリンに攫われています。遅いかもしれませんが、彼女は花のブローチを身に着けていました。」
連れ帰って欲しいということだろう。
「あくまでもできる範囲で行います。」
「よろしくお願いします。」
村長は、エイデは深々と頭を下げた。
カリスの対応は終始丁寧で冷静だった。
村のデニと言う30台くらいの男の人が案内してくれるそうだ。
道中でデニが
「あんたらこんなところまで来てくれて本当にありがとうな。できることなら俺たちで何とかしたかったんだが、恥ずかしい話だが、奴らの中に魔法使うやつがいて仲間が大けがしたんだ。」
と言った。
「どのくらいの魔法を使ったんですか?」
アンが聞くと
「ファイヤ―ボールだったとは思うんだが、普通のファイヤ―ボールの4倍くらいの大きさだったんだ。」
とデニは答えた。
「それはすごいですね。」
「あと剣が使える奴がいたんだ。」
「剣ですか?」
レイも会話に入ってくる。
「ああ、まるで人間みたいな使い方だったんだ。」
カリスだけに聞こえるように
「昨日の夜の話みたいだな。」
と言うと
「ああ」
小さい声で同意した。
それから少し歩いた。
周囲の魔物は村の人が定期的に討伐しているらしくこの辺りにはほとんどいないらしく、魔物とは遭遇しなかった。
「ここからまっすぐ進んだところにある洞窟の中だ。ダンジョン化はしていないが気をつけろよ。あんたらの無事を祈ってる。」
「デニさんも気を付けて。」
カリスは周囲を警戒しつつデニさんに言った。
少し進むと洞窟の入り口と1mほどの高さの柵付きの台に上っている弓を持ったゴブリンが3匹見えた。
三匹ともお互いの死角をなくすように警戒しているように見える。
「ゴブリンはああやって見張りをきちんと立てるのか?」
カリスは肩をすくめ、
「ここまでしっかりやっているの初めて見るな。」
と言った。




