逃走
出発時に配られたバックパックには、携帯用の食料が5日分やナイフやロープやテント関係、携行用のランタン、水筒など
の必需品が入っていた。俺に渡されたものだけ金貨が20枚入れてあった。
やはりそういうことだろう。
これからここにいる70人近い勇者が死ぬのだ。
俺はどうするべきなのだろうか...?
うちの班の奴らは移動中も揉めていた。
移動は騎士なども含め100名ほどだ。
だが一人も冒険者はいなかった。
もしかしたら清田の班も冒険者がいなかったのだろうか?
馬車は荷物も含め10台、馬で移動している騎士もいるが馬車内はそこそこきつい。
魔物からの襲撃自体は5回程あったが騎士がすぐに倒しており勇者の出番などなかった。
運がいいのか悪いのかうちの班はパーティーを組んでいなかったためどこで離脱したのかはわからな
いだろう。
ただ、経験値が原因で揉めたりしないのだろうか?
関係ない話ではあるのだが...。
わかっていて死地に行くのを止めないのは思うところがある。
ダンジョンに着き準備を行う。
シルヴァ先生の裁量で俺たちの班がダンジョンに最後に入る。
といっても俺は先頭だ。
そういえば、どうやって抜け出せばいいんだ?
近辺にはそこそこ大きな村がある。
場所はわかるが抜け出し方がわからない。
「境本、早くいけよ。」
本当に嫌になる。
10メートルほど進むと大きな広場に出た。直径20メートル程だろうか?
そのフロアには四つの大きな扉があり、3つはもう開いている。
残り一つの扉に入ればいいのだろう。
扉に触れると音もなく開く。
すげぇ。ゲームじゃん。
それよりも問題は後ろにいる人間だ。
魔物との戦闘になれば抜け出せるだろうが、いつ勇者への攻撃を始めるのだろうか?
おそらくだが出入口は1つだ。そこでかち合えば間違いなく俺が殺されるだろう。
ダンジョン内で終わるまで身をひそめるべきだろうか?
いや、勇者が一人でも生き残れば問題があるだろうからくまなく探すだろう。
シルヴァ先生が殺すのなら、もしかしたら見逃してもらえるかもしれない。
夜に動くべきか...?
「グギャ?」
「グギャッ?」
ゴブリンの声が聞こえる。
手で制すが
「いっくぜぇ!!」
は?
振り向いた瞬間には飛び出していた。
ロングソードを横から振りかぶる。
剣がゴブリンの腹に突き立てられ血が噴き出る。
がゴブリンがうまく逸らして直撃を免れたため殺しきれていなかった。
ゴブリンが棍棒をめちゃくちゃにに振り返すが、ステータスによって防ぐ。
それにつられて他の奴らも動き出す。
ひとことで表すと酷い。
「レベルが上がったぜ!!」
そりゃそうだ。
パーティーで経験値を分割しているわけではないからそりゃ上がるだろう。
「おい!俺が殺そうとしてたんだぞ?」
「は?盗られるほうが悪いでしょ?」
「は?」
もう殺し合いが起きそうだ。
その後も同じようなことが繰り返された。
雑な攻撃。
経験値の取り合い。
本当に嫌になる。
もう何回戦闘が起こったかわからないが、ある程度消耗したため
ダンジョン内でキャンプを行うことになった。
キャンプ中も仲の悪さは健在だ。
もうたち位置を気にしている人はおらず、我先に魔物に襲い掛かっていた。
もうどっちが魔物かわからない。
だけど、おかげでバレずに抜け出せそうだ。
いまはじゃんけんの結果、Eクラスの二人が見張りをしている。
カップルみたいな話だった。
抜けるのは非常に簡単だった。
イチャイチャしている二人の後ろを静かに通って抜けた。
来た道を通り、ダンジョンの出口に向かう。
ゴブリン2体とは戦ったが基本的には危なげなく倒すことができた。
油断は危険だがこの程度の魔物なら今の俺なら何とかなるだろう。
ダンジョンの出口付近にはシルヴァ先生が一人で立っていた。
こちらを一瞬見たが、すぐ視線をそらした。
「感謝します。」
そう言うと、
「これは前にも言ったがアイーネ・ツヴィアの分だ。それ以上でも以下でもない。」
それ以上はシルヴァ先生は何も言わなかった。
俺はダンジョンから抜け出した。




