ピンチと奥の手
全員が起きたので、朝食を軽く取り、ダンジョン内のマッピングを再開した。
今朝の指導のおかげで、型のよくわかっていなかった部分がある程度ものになった。
剣の握り方や握る場所で大きく速度や威力が変わること自体は勿論わかっていたが、体の使い方でも自
身の動きには無駄が多いことが分かった。
わかるだけでも大きな進歩だと思う。
魔物との戦闘は昨日ほどは多くなく、ゴブリン3匹とコボルトが1匹だった。
これまでの計算が合っていればコボルトの経験値は24程だろう。
レベルは上がっていないが、ダンジョン最奥のボス部屋の前についた。
ここまでで目的は終了だ。
時間もまだあるため、6人で話し合った結果残りも探索、マッピングしていくことになった。
今まで作成してきたマップは大きな狂いもなく、よくできていると冒険者たちが言っていた。
全員が波に乗っている。少し危険な気もするが、可能な限り経験を積みたいというのもまぎれもない
本心だ。
それから魔物との戦闘がかなり少なくなった。
残りの5人は談笑を始めている。
自分もそうだがかなり気が緩んでいる。
できる限り警戒していく必要があるだろう。
しばらく行くと行き止まりで、宝箱があった。
「あれって、ダンジョンドロップじゃね?」
そういい5人は我先に向かっていく。
ドロップは鉄の剣だったようだ。
すると後ろから血相を変え冒険者や騎士の5人が走ってくる。
「トラップだ!!」
「トラップ?何もなかったみた...。」
後ろからはゴブリンやコボルトがあわせて20体入るだろうか?
「ゴブリンとか余裕でしょ」
「いくぜ、お前らっ!!」
「「おお!」」
「ええ!」
5人は入れ替わるように各々が戦闘を開始する。
勿論ステータスや技能ではゴブリンやコボルトを大きく上回っている。
が問題は数だ。
倒しても倒しても湧いてくる。
どうなっているのか?と冒険者たちに聞くと、
「視察ではこんなもトラップは存在しなかった。」
と叫んでいた。
今は非常事態のため全員が戦闘を行っている。
が全く敵の数が減らない。
それどころかどんどん増えていく。
頭の中に祝音が響くが気にしていられない。
「何とか倒しきるしかないンゴ」
詠唱中の西田さんに後ろから攻撃しようとしていたゴブリンののどをすれ違いざまに捌く。
鮮血が噴出し、粒子となって消える。
冒険者や騎士たちはまだ大丈夫だが、明らかにほかの5人が押され始めている。
と言っても、自分も動けるような状態ではない。
西田さんの近くにいた4匹のコボルトに囲まれている。
非常に連携が取れており、二匹以上で複数の方向から襲ってくる。
ゴブリンより力も強く非常に厄介だ。
西田さんの詠唱が終わったらしくスキル名を叫ぶ。
「焼き尽くせ!ヘルフレイム!!」
広範囲に火が広がり、多くのモンスターを焼き尽くす。
自分が戦っていたコボルトたちももれなく焼いてくれた。
「ありがとうンゴ」
「ええ、私ってば最強!!」
西田さんは自信に溢れており生き生きとしていた。
何匹か倒し損ねているようなのでそちらの追撃に向かう。
「えっ?」
そう西田さんの声が聞こえ振り返ると、コボルトにナイフを喉元に突き刺され出血していた。
「カ...ッハ。」
西田さんの息だけが漏れる。
追い打ちをかけるようにコボルトがナイフを引きぬいた。
血が滝のようにあふれ出していて、西田さんの体から力が抜けている。
全速力で向かいナイフを持っているコボルトの首に剣を突き立て、抵抗していたが、力で強引に頭と胴体を切り離す。
布を出血場所にあてるが、状況を理解したせいで錯乱しておりナイフを振り払いしがみついてくる。
「ぃやぁ...。...にたく...い」
「西田さんいいから止血するンゴ。じゃないと...!!」
「ぃや!いやぁぁぁ!!」
魔物たちは待ってくれない。
こちらに5体ほど近づいてくる。
「邪魔ンゴ...。」
布を西田さんに押し付け、襲い掛かってきたゴブリンを力任せに切り裂く。
コボルトの振った棍棒を素手で受け止め、右手に持っていた剣を逆手に持ち替え突き刺し、棍棒で頭
を殴り飛ばす。
何とか5体は捌いてしまったが西田さんの出血量は多い。
ポーション...。
「そうだ!!」
自分のバックパックからポーションを取り出し、西田さんの力の入っていない手を抑え、傷口に直接
かける。
勇者に持たせているものだ。
粗悪品ではないだろう。
早めに気づいていれば...。
騎士たちはまだと思ったがどうやら宝箱のあったところはカムフラージュされていただけで行き止ま
りではなかった。
そちらからもかなりの量が来ているようでこちらまで手が回らないようだ。
「クソがああああああああああああああああああ」
怒声が聞こえ振り返るとそこには佐伯がいた。
体が勝手に動く。
こういうときだけ頭はひどく冷静だ。
佐伯は体中に傷を負っており足に矢が刺さっていた。
このままだと全滅は免れないだろう。
「水よ私と一つに。ンゴ!」
体内の魔力を一気に消費し自身ごと液状化する。
自分を中心に水があふれ出し強い流れになる。
佐伯やほかの戦っている奴ら、西田や騎士、冒険者を攫い、魔物を押しのけ出口に向かって一気に抜
ける。
魔力を限界まで使ったからだろうか?視界が赤色に滲み体の節々が燃えるように痛い。
水の中にいるのに燃えるのは不思議ンゴねぇ...。
出口付近で自分を含め全員が地面に投げ出される。
「もう力が入らないンゴ...。」
全員突然水の中に閉じ込められ、高速で移動したのだから当然と言えば当然だが、自分以外は水を大
量に飲んでいた。
「ミヤタ、本当に助かった。ありがとう」
「いいえ、それより西田さんと佐伯君の治療ンゴ...。」
「ああ、三人は警戒を」
騎士は冒険者2人と騎士に指示を出し、佐伯の足から矢をぬきに、
僧侶がヒールを唱える。
西田さんは何とか持ち直したらしい。
自分はあの後一歩も動けず、というかそもそも起きることさえできず、キャンプ地まで運んでもらっ
た。
「ミヤタ本当にありがとう。あのままなら俺たちは死んでいただろうな。」
と言い、またあの冒険者は笑っている。
やはり頭がおかしいのだろう。
自分もおかしくなりそうンゴ。
あーあ液状化は自分の奥の手だったンゴにねぇ...。
でも実戦で試せたのは大きかった。
自分一人なら、もっと少ない魔力、早い速度で離脱、襲撃などの移動ができるだろう。
これを戦闘中にできたらかなりかっこいい気がするが、今のところはできる気はしない。
まあ、死ななかっただけ得ンゴ。
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