ダンジョン
「翔!!こんな時間にどこに行くんだよ!!」
「清田たちが危ないかもしれないんだ。」
「清田が?」
「あいつはテレポートがあるだろ?ステータスも純粋な戦闘力も高いあいつに限ってそれはなくない
か?」
「俺もそうだとは思うが...。頼む。」
「お前がそう思うなら協力はするぜ。」
「俺もだ!!」
「二人ともありがとう。」
俺たちの足なら15分もあればつくだろう。
最短ルートを進むため森の中を突き抜ける。
二人は西尾と有田。
西尾は身長183の大柄で筋肉質だが、童顔で人懐っこい笑顔を浮かべる。
有田は俺より小さく身長は教えてくれないが、体の使い方がうまく二人ともイケメンだと思う。
西尾はスキルが【鉄壁】有田は【ハイド】だ。
鉄壁は受けるダメージを抑える。
有田のハイドは教師陣でもどこにいるかわからなくなるほど効果が高く、模擬戦を行った時には透明
になったかの様だった。
魔物が全くいない。
夜間に活動する魔物も多いと聞くがどうなっているのだろうか?
ダンジョンに到着した。
俺たちは武器を抜き西尾を先頭に進んでいく。
勢いで出発したため、ランタンを忘れたため、魔法で灯りを作っている。
戦闘中にもうまく保てるかが不安だ。
このダンジョン内にも魔物の数が少なかった。
勿論中級のダンジョンだ。
朝や昼に冒険者が入った可能性は十分に考えられる。
西尾はダンジョンへの演習で索敵系のスキルを多く習得した。
西尾が言うにはこのダンジョンには人の気配はなく、ダンジョンの奥に魔物が密集しているらし
い。
モンスターハウスだろうか?
魔物の密集地近くに行くと、血がいたるところについていた。
一気に魔物たちに近づき戦闘が始まる。
西尾はロングソードを有田は短剣を使い戦闘を行う。
ゴブリンやコボルトが大量に押し寄せてくる。
30匹以上いたのだろうか?
三人とも何とか無傷だった。
「翔!!こっちに!!」
有田が声を裏返らせながら俺を呼ぶ。
急いでいくと清田たちがいた。
死んだばかりだったのだろう。
ダンジョンは死体や落ちているアイテムを吸収する。
一時間ほどでその反応が起きるらしいが。
体もまだ、ほんのり暖かい。
「…ッ。」
「嘘...だろ?清田たちが死んだ...?」
「ヒール、ヒール、ヒール」
「翔、無駄だ。」
「ヒール...。ヒール。」
「翔!!現実を見ろよ!!」
カっとなり有田に掴みかかるが、西尾に止められる。
西尾も有田も泣いていた。
西尾は清田と幼馴染だったはずだ。
俺たちは異世界に来て始めて仲間を失った。
死なない保証なんてそもそもないのだ。
清田たちを担ぎ上げダンジョンから出る。
清田たちは中身がないかのように軽かった。
しばらく歩くと突然有田が
「こいつらをやっぱりダンジョンに置いて行かないか?」
「本気で言ってるのか?」
西尾は目つきがぎらついている。
「ああ、もしSクラスの人間が死んだということが分かれば、ほかのクラスの奴らがどうなるかはわ
かるだろ?」
「それは...。でも...。翔はまさか置いていこうなんて言わないよな?」
西尾は縋るような目つきでこちらを見てくる。
「少し待ってくれないか?」
二人には境本が言っていたことは伝えていない。
もしこの件にエンデ王やシルヴァ先生が本当に関係しているなら、この死体を持って帰ることで目を
付けられかねない。
場合によっては俺たち三人も殺されるだろう。
知らない方がいいのではないだろうか?
「…いて、いこう。」
自身でも驚くほど声が震えていた。
「本気で言ってるのか?確かに指揮は下がるかも知れないが、勇者をも殺せる何かがあるかもしれな
いんだぞ!!」
「まあ、勇者の守備力を突破し、なおかつ鋭利な刃物で切り裂かれていた。コボルトやゴブリンは武
器の質が悪い。それに魔物に囲まれて殺されたみたいな感じではなかったもんな。」
確かにそうだ。
もし、何者かに勇者が襲われ殺されたのだとしたら、エンデ王やほかの勇者などに早急に伝えて警戒
するべきだろう。
だが、王族が仕向けたとしたらその限りではないだろう。
そんな形で勇者が勇者を殺害されたことに気付いたということだ。
しかも誰にも伝えずダンジョンに向かっている。
死体だけでも十分王にとっては不利益な情報のはずだ。
これを持って帰るわけにはいかない。
「騎士や冒険者がいたはずだよな!?死体もなかったし、もしかしてあいつらが清田たちを殺したん
じゃ?」
「確かに...。もしそうならこれ以上被害が出る前につたえるべきだろ!!なあ、翔!!」
「だめだ、俺たちはレベルが上がればそいつらでも殺せなくなる。ほかの奴等が死ぬことを恐れてレ
ベルを上げれなかったらそれこそ危険だ。一定まで全員のレベル、ステータスが上がるまでは、この
情報は流さないべきだ。」
「そうかもしれないけど、こんな意味不明なところで無理やり戦わされて死んで、埋葬もされないと
かあんまりだろっ?」
「なら裏切り者たちが俺たちが情報を持ち帰ったことで自らを省みず勇者を襲ったら?清田だって殺
されたんだ。」
「それは...。」
「俺も翔に賛成だ。ただ、ここで弔っていこう。」
有田は小さい声でそう言った。
「お前ら...人の心がないっ..うぅ...。」
「わかった...。」
魔力を土に流し5メートルほどの穴を作り、死体を燃やして土で埋め、大きな石を上に置いた。
まだ、エンデ王やシルヴァ先生が関与したかはわからない。
勇者が減ればエンデ王は困るんじゃないだろうか?
わからない。
ただ、警戒するに越したことはないだろう。




