居残り
Sクラスの奴らが出発してから、Aクラスが出発するまでは一週間。
これはダンジョンの距離とダンジョンのモンスターの出現速度の兼ね合いだという話だ。
ほとんどの班が移動2日、ダンジョンの探索3日、帰還で2日だ。
もう予定では、ほとんどの班がダンジョンに到着しているだろう。
今日は快晴で外で実践的な戦闘訓練を行っている。
勿論剣は練習用の模擬剣で防具もつけている。
「はあっ!!」
野外演習の時から何となく微妙な感じの佐竹が一気に踏み込み切りつけてくる。
佐竹のスキルは純粋な筋力上昇系のスキルで魔力を足に込め動きだし、今は手に込めているのだろ
う。
俺は動きながらそういった自然な魔力の扱いはできない。
ただ、やはりレベル上昇の恩恵だろう。
剣の軌道が目視できるのだ。
剣を横に振り上段で一瞬受け止め、佐竹の右側から体に沿って俺自身の体を滑り込ませ、木剣を佐竹
の防具のないひかがみに剣を当て、そのまま佐竹から距離をとる。
シルヴァ先生は
「止め!!」
と言い、その時点で中止させる。
するとなぜか非難轟々だった。
まあ、いつも通りか。
「今、境本君は佐竹君から距離を取っただけじゃないんですか?」
バカにしたように伊藤は俺を見て、シルヴァ先生に進言する。
はぁ、と小さくため息をつき、
「すまない、佐竹、境本、続けてくれ。」
少し前にもこういったことがあり、シルヴァ先生が俺が優勢だったなどといった時に、全員のやる気
が目に見えて、下がり、講習自体が破綻しそうになった。
その時にシルヴァ先生に揉めない方向で行きたいと進言した。
シルヴァ先生は苦虫を嚙み潰したような顔で、こちらを見た。
最初は睨まれたのかと思った。
「お前はそれでいいのか?このクラスの中ではスキルなし、いや、スキルを使うなっつっても
使うバカもいるが、一対一ではまず負けないだろう。」
一拍おいた後に
「戦闘能力や個人の技量がが正当に評価されないってことだぞ?お前の尊厳もそうだが、班の生死に
直結する。」
「正当な評価ならされていますよ?シルヴァ先生?」
「先生はやめろ、むず痒い。どういうことだ?あいつらはお前がこの集団の中で一番に弱いと思って
いるんだぞ?」
「先生が今認めてくださいましたよ?」
「はぁ。わかった。お前はそれでいいんだな?」
先生と重ねて言われたせいでいつも厳しい顔がより厳しくなる。
「ええ、私のせいで講習自体の質が下がり、結果命を落としてしまう人が出るほうがよっぽど胸糞悪
いので。」
「つまり、お前は俺の講習中手を抜くということであっているか?」
「は?」
驚きすぎてつい敬語が崩れる。もともと敬語は崩れているが。
この世界では王様や貴族様以外には、相手が年上でも基本敬語は使わないそうだ。
シルヴァ先生は敬語もめちゃくちゃ嫌がっていた。
「そ、そういうことになりますね...。へへ。」
急いで戻ろうとすると大きな手で肩をつかまれる。
「いい度胸だなぁ?なぁ、コウタロウ。」
なぜかその日からだいたい一時間だけ、残るように言われた。
まあ、何故かではないが。
「コウタロウはこの中で一番弱いため、講習終了後残るように。」
とシルヴァ先生は全員の前で言い放った。
めちゃくちゃ笑われた。
また追加で
「興味がある人は参加して構わない。」
とシルヴァ先生は言ったが、
「この世界で居残りとかウケる」
「境本と一緒に居残りとか絶対嫌なんですけどぉ」
「境本と一緒に居残りする奴なんていないよなぁ?」
といって鼻で笑われた。
本当にだれも居残りはせず、俺だけがマンツーマンで指導を受けることができた。
シルヴァ先生は本当に誰も来ずに驚いていた。
おかげでかなり武器の扱いや、体術も上手くなった。
さっきの佐竹との戦いであの動きができたのもそのおかげだ。
体もあざだらけになったが、シルヴァ先生はそもそも王様のお付きの兵士だ。
俺がこの世界にただ生まれて王国兵になれたとしても、シルヴァ・ローレンスという騎士に直々に指
導を受けることはできなかっただろう。
このチャンスを見逃すわけにはいけない。
「だから、そこで腰を引くなよ、コウタロウ」
腰を引いたせいで俺の姿勢が崩れ、シルヴァ先生に掌底を当てられ吹き飛ばされる。
俺の姿勢が崩れてるかどうか関係なくね?
剣を振るとわかるがシルヴァ先生の太刀筋とは大きく違う。
何が原因なのかまだ、わからないが単純な筋力のみではないだろう。
俺のステータスでも勇者として戦えるのだろうか?
日が進むたびに言いようのない不安に襲われる。
俺は体術も剣の才能もないようだ。
あるとしたらなんだろうか?




