曇りのち雨
変な夢を見た。
夢の中ではSクラスの人やA、Bクラスの人が切り裂かれていたり、焼け焦げたり、原形をとどめていな
かったり様々な状態だった。
ただ、翔はそこにはいなかった。
夢は基本細かい部分はぼやけてしまうのだが、今日見た夢はひどく鮮明で、一度本当にみたことがあ
るかのようだった。
俺は翔と揉めていたため同じ学年の人から勿論嫌われていたが、基本的に避けられていた。
俺と関わったことがない、顔もまともに覚えていないような人の顔が鮮明だった。
中には知らない顔もいたが、朝食の時に見つけた。
これは記憶なのだろうか?
それとも、別のなにか、例えば神からの啓示なんかなのだろうか?
三人の死体もあった。
三人の顔をみたとき、吐きそうになった。
あそこはなんなのだろうか?
場所はよくわからないが、よく創作のなかにあるダンジョンの様だった。
それと、パズルのように地面がくっついているように感じた。
一見違和感はないのだが、明らかに別区画なのだ。
説明が難しいのだが、だまし絵の様だった。
昨日はSクラス以外は休みだった。
することがなかったため、俺たちは自主的にトレーニングをしていた。
道具の準備や、ダンジョンに行く班ごとに分かれてそのダンジョンの特性や作戦を立てているようだ
った。
もしかしたら今回何かあるのだろうか?
だが、俺のスキルに未来予知などは念のため確認したがない。
俺が言ったところで誰も信じはしないだろうが。
朝食後すぐに出立するようで、Sクラスは勿論、全員が浮足だっていた。
翔は周りより少し早く食事が終わっているようだった。
「幸太郎氏食べたりないンゴか?」
「いや、ちょっとな...。」
そういって席から立つとゆっくり俺は翔に近づいて行く。
ちょうど翔が立ち上がった。
ちょうどいい。
翔と目が合う。
首を振り、ついてくるようにジェスチャーをする。
視線が一気に集まり、さっきまであんなに賑やかだった広間が一気に静かになる。
見ると視線は逸らされるが、凄まじい注目度だ。
俺は人気者なのかもしれない。
あの三人はもともと俺とは嫌がらせを受けないために別々に食事をしていたが、最近は一緒に食べる
ようになった。
なんでも、ぼっちと食べる強くて優しい三人組としてこれからうっていくそうだ。
あの三人に迷惑が掛からなければなんでもいいのだが...。
部屋を出て、声が聞こえない位置まで行くと
「なに?」
不機嫌そうに翔は聞いてきた。
ただ、話はきちんと聞いてくれそうだ。
「その...。」
「だから何?」
「夢をみたんだ」
「は?夢?そんなこと言うために呼んだのかよ。俺は嫌いな人間に時間を割けるほど暇人じゃないん
だけど?」
そうは言いつつも翔はまだ聞いてくれるようで動かない。
「S、A、Bクラスの人間ほとんどが死んでいる夢を見た。」
「なんだ?お前は不安を煽りたいのか?それに今の状態でも王国軍といい勝負はできるくらいの戦闘
力はあるんだぞ?勿論実戦経験は少ない。だが、それでもほぼ全員が壊滅することはまずない。」
翔はそう言った後、
「あくまでお前が見た夢だろ?」
「だが...。」
そもそも確信がないのだ。
純粋に不安で見ただけなのかも知れない。
翔のパフォーマンスにも影響するかもしれないのだ。
「あぁ、わかったよ。お前がこんなくだらない嘘を俺に対してわざわざつくとは思えない。心には止
めて置くよ。」
「翔...。」
「で、死んでたやつらの外傷は?どんな状態だった?」
夢で見たままに翔に伝える。
「結構種類が多いんだな。まるで味方同士で戦ったみた...。その中に俺以外でいなかった奴は?」
「わからない。顔がないやつも何人かいたが、お前ではないと分かった。今日さっき確認したが、夢
の中で見ていないやつはいないような気がする。」
「そうか...。俺は聖炎という炎系の攻撃スキルがある。」
「いや、まだお前がやったというわけでは...。」
「そんなことわかっている。そういったことをするつもりもない。」
「所詮は夢の話だ。突然すまなかった。」
「俺も似たような夢を今日見たんだ。」
そう翔は重々しく切り出した。
「死んでいる奴らも状態もほぼ同じだった。ただ、中心にはお前が一人立っていた。」
「だが、俺はステータスも低いうえ、スキルだって弱い。お前を含めたSクラスの奴どころかBクラ
スの人間にも基本勝てない。ありえないだろ?」
「ああ、夢の中の話だしな。今は、だが。」
「本気でそう思っているのか?」
「ああ、お前にさっきの話をされるまでは夢のことなんて気にも留めていなかったよ。」
俺がそんなことをするのだろうか...?。
「何かあったら、俺たちがダンジョンから帰って来た時に報告してくれ。」
「ああ、ハウンドの時もそうだが、本当にありがとう。」
「いや...。ここに来るまで...その...。元の世界では本当に、すまn」
翔はゆっくり言葉を紡ぐ。
今更そんなことを言われても俺はどういう風に翔に接すればいいのだろうか...。
思うと同時に体が、口が動いた。
「もう結構いい時間だろ?気を付けていって来いよ。まあ、心配はいらないだろうがな。」
「ああ、幸多朗。お前よりは長生きするよ。」
そういって翔は向日葵のような、屈託のない笑顔を浮かべた。
その一瞬だけは、昔に戻れたような気がした。
きっともう俺たちが昔のような関係性になることはないだろう。
俺たちはかなり変わった。
人格も、今の境遇も。
だが、少しだけ戻れたらなんて思った。
戻ったところで何がどうなるのだろうか?
笑えるな。戻ったところで何も変わりはしないのに。
翔たちSクラスは決められたダンジョンに定刻通りに出立した。
何も起こらなければいいが...。
空は厚い雲が蔽っていて、見えなかった。
雨は今のところ降っていない。




