楽しい魔法のお勉強。
今日は異世界にきて始めてきちんとした魔法の基礎的な学習を行っている。
三人は少し前から受けていたからきっとクラスごとに進捗をあえてずらしていたのだろう。
魔法は体内の魔力と体外の魔力を使って行使するそうだ。
魔法の分類はスキルとは違うそうだ。
何が違うかといえば、スキルは体内の魔力のみを使用し行使する。
魔法は準魔法と魔法の二つに分かれる。
これはよくある詠唱の話だ。
最適化された魔法が魔法と呼ばれ、準魔法と比べ威力や消費魔力の面で魔法が準魔法を大きく上
回る。
ただ、魔法は無数に存在し、詠唱方法、魔法陣も複数存在する。
同じ魔法でも詠唱で大きく魔法の威力は変わる。
そのせいで本来の最適化された詠唱が確立された魔法が魔法というよりは、広く一般に普及した魔法
が魔法。詠唱が体系化されていないモノや、個人のオリジナルは準魔法と呼ばれるそうだ。
統一して魔法でもこの世界では問題はないそうだが。
ここも十分に混乱したのだが、【ファイヤーボール】と【ファイヤーショット】の違いの方が混乱し
た。
詠唱や魔法陣が複雑化しているため似て非なるものが多く存在するそうだ。
先生は実際に見せてくれたが、見た目はほぼ一緒だった。
違いはファイヤーボールの方が火球自体が大きく威力が高い。
逆にファイヤーショットは火球の速度が速く飛距離が長かった。
がほぼ誤差だろう。
魔法陣は一目見ただけでは憶えきれそうになかった。
ただ、あの程度の魔法を撃つために魔法陣を書くべきなのだろうか?
先生は無詠唱だった。
無詠唱は消費MPが正規の魔法の起動方法ではないため大きく威力が少しだけ落ちるそうだ。
教えてもらった詠唱は一つで『火よ』だけだった。
もう少し詠唱自体を長くして消費MPを抑える方法もあるそうだが、実践においてこれ以上の詠唱は
この魔法で行うべきではないというのが指導の手伝いをしていた騎士や先生の考えだった。
この威力では確かにその通りだろう。
自由練習の開始の合図とともに一斉に詠唱を口にする。
驚くことに全員が何かしらのアクションを起こすことに成功した。
魔力を込めすぎて手の上で破裂してしまうものや1メートル飛ばずに消える者もかった。
俺は何とか練習用の案山子まで飛ばせたが一瞬で火が霧散してしまう。
今の威力では目くらまし程度にしかならないだろう。
ゴウッという音が聞こえ命の危険を感じた俺は、すぐ左にいた奴を突き飛ばすと同時に横に飛ぶ。
俺の居た位置から直径70cmほどが燃えている。
土の上で火がまだ残っているのも不思議だが、そもそもなぜ俺の居た位置にファイヤーボールかショ
ットか知らないが魔法がとんでくるのだろうか?
飛んできた方向を見ると爆笑している伊藤がいた。バカなのだろうか?
「ごめんなさーい。誰もケガしてないですかぁ?」
といいつつ、俺が突き飛ばしたやつのところに行くと
「サイグレセンセー境本君が佐伯ちゃんを突き飛ばしました-」
「は?」
雰囲気が明らかに悪くなる。
そいつがそこにいたらそれなりにけがをしていたんじゃないだろうか?
確かに突き飛ばしはしたが...。
「ほら早く佐伯ちゃんに謝りなさいよ!」
「境本君流石にいきなり押すのはひどくない?」
佐伯とかいう女もなぜか俺のことを一緒になって攻めてくる。
もしかしてあの攻撃は俺にしか見えていないのだろうか?
それとも佐伯自身が撃ったファイヤーボールの威力が低かったことによる油断なのかはわからない。
ただ、ここで揉める意味もないだろう。
冷静さを欠いたらきっと状況は悪くなる。
「佐伯さん、いきなり突き飛ばして本当にすまなかった。」
どうせこいつらとはもうすぐおさらばだ。
「その、こっちもみてなかったってい」
「は?土下座しなさいよ。本当に悪いと思ってんならできるでしょ?」
伊藤が佐伯の言葉に割り込む。
これがカリスマ性だろうか、少しずつ土下座コールが大きくなっていく。
雰囲気にのまれてか本心かは知らないが、佐伯も手を叩いている。
俺はおとなしく膝をつき、
「本当に申し訳なかった。どうか許してください。」
といいつつ頭を地面につける。
伊藤はさっきより大きな声で笑い、歓声が起こった。
こいつらマジで狂ってるだろ。
そこにいる貴族上がりの先生様や騎士は何をしているのだろうか。
ドス黒い感情が少しだけ顔を出す。
アイーネ先生もこんな気持ちだったんだろうか?
二分もたたないうちに伊藤が
「いつまで座ってんのよ、邪魔なのわかんないの?」
と言い、
頭の左側で「ガンッ」という大きな音が響き俺の視界は暗転した。




