嫌疑と剣技
俺たち四人はアイーネ先生を助けることに成功した。
そのことに浮かれていたためステータスについて気にしている人がいなかった。
次の日の朝になって浅沼が気付いたのだが、全員レベルは上がっていなかったが、SPが50ずつ増えていた。
三人はSPをあまり獲得していなかったため、一番多い木の下で70ポイントだったがすさまじく興奮していた。
俺を含め四人ともSPが増えていたので強い敵と戦う、もしくは強い敵にダメージを与えるのどちらかでSPが増えたのだろう。ダメージによる増加の方が四人の獲得量の違いに説明がつくため30分ほどだろうか?の話し合いの結果四人の中ではそうまとまった。
四人にはSPがハウンドとの戦闘も合わせて70ポイントしか溜まっていないということにした。
情報の共有はもちろん大事だろうが、今は先日のハウンド襲撃もあったため危険なことはそうそうないだろう。
今、嫉妬の原因になるようなものはわざわざ言い出す必要もないだろう。
強い人との戦闘か...。
もしかしたら練習でもSPが手に入るのだろうか?
だとしたらあのクラス分けに納得がいく。
もし敵意がなければ獲得できないとかの決まりがあったとしたら、考えたくはないがSPを目的とした殺人も十分にあり得るだろう。
「俺はシルヴァ。シルヴァ・ローレンスだ。前回の戦闘でけが人が出たそうだからみっちり指導を行っていく。優しくできる自信はないので、覚悟はしといてくれ。」
最初に見た時の印象はガサツそうで年齢もエンデ王くらいだったため、一線を退いて...みたいな人かと思っていたが、実習中にほかの王国兵に聞いたところ、王国兵の中でもトップクラスの実力を持ち、人望も厚いと聞き驚いた。
確かに実習中に手本として見せた型は武器も素手でもそうだが、洗練されておりクラス中の生徒が見入っていた。
「何見てるんだ?とりあえず体を動かせ」
はぁーという短いため息をつきながら彼は頭をポリポリ掻きながら言った。
表情にあまり生気はなく基本的には無表情だったため、照れて言ったのか、すぐに指示を聞かなかった俺たちに呆れて言ったのかはわからない。
大体1時間ほど指導、15分休憩を4セット行った。
だが正確な時計はまだないらしく、あくまでも体感であり、ハードだった。
剣の扱いについては流派がかなりあるらしく、まず王国兵に志願すると統一して指導されるエンデ流剣術、またシルヴァの我流の二つの体の動かし方を指導され、ほかの有名な剣術は説明なく、演武だけが行われた。きっと凄まじい研鑽を積んできたんだと思うが、シルヴァの我流は剣の柄を握るのではなく覆いかぶせるように持ちあくまでも手の延長として剣を扱っていたため他の剣術とは演武のスタイルが素人目にもわかるくらい違ったが、その癖が全く残っておらず披露される演武は芸術の様だった。
剣を上から左下に切り払い、そのままの形で剣を引き上げ、返しに、頭をてこの原理のように支点とし、もう一度左下に切り払う。
これは指示されたとおりに体を動かすが、シルヴァ先生の様には体重を移動させながら切ることができない。
体の使い方は、何度も剣を振ればシルヴァ先生の域まで洗練されるのだろうか?
体重と剣の軌道だけに気を配り何度も反復し繰り返す。
瞑想をしているようで、体の使い方だけ、剣の軌道だけに気を配ろうとすればするほど雑念が入ってくる。
四人でやっている筋トレに剣や体術もある程度言ったら追加してみたいなんて思いました。
そういえばだが、地属性の適正Ⅰ レベル2だがかなりの効果があったように感じた。
離れた場所に土を隆起させることもできた。
地属性の適正Ⅱの習得の仕方はわからないが例えば地属性の適正Ⅰがレベル10になったらとかだろうか?
ただ、経験値獲得量上昇やインパクト、薬草採取、調合技術なんかも気になるためまだSPは温存したほうがいいだろうか?
悩む。
「アイーネ・ツヴィアを知らないか?」
近づいてきたシルヴァ先生に突然小声で質問された。
SPのことで頭から抜け落ちていたがよくよく考えればまだ、処刑されるはずだった囚人が逃げたという話は聞いていない。
どういうつもりだろうか?
「アイーネ先生は捕まりました。」
「ああ、そうだな。」
その返しをするということは、つまり俺のことを疑っているのだろうか?
体が強張る。
何かしゃべらなければ...。
「それは、私がケガしたからアイーネ先生は捕まったのだと非難しているのでしょうか?」
少し自嘲気味に俺はシルヴァ先生に質問する。
「いやいや、そうじゃない。そんなつもりはなかったんだ。許してくれ。確かに君から見れば君がケガをしたせいでアイーネは捕まったように強く感じるんだろうな。申し訳ない。」
シルヴァ先生は笑顔を作る。
先ほどまで無表情だったため余計に怖い。
「私もあの判決には少し思うところがあったんだ。立場上組織にはもち論従うがね。ただまだ言えないが、少し問題が起こったんだ。」
「問題?」
「ああ、問題だ。」
そういうとシルヴァ先生は肩をすくめた。
「まだ秘密にしておいてくれ。それと君の剣の型は綺麗だ。繰り返し振っていけばもっと綺麗に、そして君の強みになるだろう。」
「あっ...ありがとうございます。」
いきなりだったため少し噛んでしまう。
褒められることは誰だって嬉しいだろう。
褒めてくれた人に才能が有ったり、技術があればあるほど。
今俺は、かなり顔が緩んでいることだろう。




