遅いよ
ミレイはかなり大きな建物だ。
3階建てだろうか?
この世界にはあまり大きな建造物は存在しない。
150坪くらいだろうか?かなり大きな施設だと近くに来れば思う。
何も考えずにアイーネ先生を助けると言って出てきたが、何も考えていなかった。
あまりに無計画すぎる。
アイーネ先生を助けたところでどうなるのだろうか?
アイーネ先生は走って逃げきることができるだろうか?
ここは中級貴族街。
エンデという国で考えれば中心地点だ。
武器は兵士のものを奪って渡せばいいだろうが、お金がない。
だが、ここで助けれなければそもそもアイーネ先生は殺されてしまうのだ。
建物内で唯一侵入できそうなところは、三階の小窓からだろうか?
他は空いている場所が見つからない。
翔ならあそこまで飛べただろうか?
見ているとなんだか二階の窓までなら届きそうな感じがする。
そんな不思議な自身の確信にも近いような感覚に従い飛んでみる。
二階の小窓のヘリまであと少しだった。
俺が勿論一番驚いたさ。
大体だが俺は2メートルほど飛んだ。
これがステータス上昇による恩恵だろうか?
レベルが上がったらもっと超人的な運動が行えるようになるのだろうか?
そんなことを考えつつ、少し距離を取り走って跳躍いったん一回の壁をけり再度飛距離を伸ばし何とか二階のヘリをつかむ。
ここからなら落ちてもケガする要素がなさそうだ。
ステータスがいくら低くともあくまで勇者ということだろうか?
同じ要領で三階まで到達する。
この世界の人間を逮捕するとき勇者のような超人的な肉体を持つ人間をどうやって捕えておくのだろうか?
魔力やステータスを抑える典型的なマジックアイテムがあるのだろうか?
「ーーー」
なんて言っているか聞き取れないが複数人の声が聞こえる。
ここから入るのは止めた方がいいだろうか?
ばれないように祈りつつ、こっそり頭を覗かせる。
廊下にこの窓はついているようで人影は見えない。
まだうなり声のようなものが聞こえるが、とりあえず入るしかないだろう。
何とか体が入った。
そのままなめくじのように体を通し、ドンという小さな音を立てしりもちをつき着地する。
「はぁ、ダサい。」
三階を少し物色したが機材等しかないようだ。
まあ、拷問用に見えたが。
二階に降りることにする。
重たい金属製のドアを開け会談を降り...
「ハハハハハッ、泣けよなぁ」
今度ははっきりと男の恫喝するような声が聞こえた。
アイーネ先生でなかったらいいが...。
できるだけ素早く音をたてないように階段を降り、音のしたドアの前まで進む。
息を潜めドアの上側についているガラス張りの窓から覗こうとした時だった。
「おい、誰だオメェ?」
真後ろから声がした。
「ミクリデ様はお楽しみ中だ、話があるなら俺が聞こう。」
「ああ、じゃあ伝えておいてく...」
なけなしの勇気をもって喋ったのに俺の声は震えていた。
その瞬間悪寒がして何とか前に転がり相手の方を見る。
そこには斧を持った、2mはあるであろう巨漢の男が立っていた。筋肉質で見るからに強そうだ。
「ちょっと待てよ、俺はミクリデ様に今すぐに伝えろと仰せつかってここまで来たんだ」
必死にそれっぽい言い訳を探す。
「そんな話は聞いていないが?」
「誰にも伝えるなと仰せつかっている。だからお前が知らなかったんだ。」
「そうか。」
そういいつつ大斧をすさまじい勢いでこちらに振り下ろしてくる。
当たったらひとたまりもないだろう。
「ミクリデは俺だ。中でお楽しみ中なのはここミレイを取り仕切っている貴族のアルマス・ウェイド様だ。」
カマかけられたのか...。
「あんた筋肉だけかと思ったら、頭もいいんだな。」
「そりゃどうも」
ミクリデは凄まじい速度で俺の懐まで入り左下から右上に斧を切り上げる。
ガキンッ
俺は何とか剣を抜きミクリデの斧の軌道をずらし距離をとる。
激しい音を立て儀礼用の剣が軋む。
王城から拝借しておいて本当に良かった。
王城にあるだけあって一級品のようだ。
「良い剣持ってんじゃねぇか、高く売れそうだ。」
きっとレベルが上がっていなかったらミクリデの攻撃は見えなかっただろう。
本当にステータスという概念は大きい。
「何があった?」
出てきたのはアルマス・ウェイドだろうか?
少し痩せた血色の悪い20代前後の男がドアを開けた。
その後ろにはアイーネ先生だろう。
鞭で打たれたのだろうか?
服は破れ体は血だらけになっている。
「なぁーによそ見してぇんだぁ?」
目の前でミクリデは斧を高らかに掲げ、振り下ろしてきた。
「心配しないでくださいよアルマス様。もう終わりますんで。」
「そうか」
そういいアルマス・ウェイドはまたドアの中に入っていく。
ついアルマスを見ながら剣で受け止め...?あまりにも衝撃が軽い。
ミクリデを見ると悪鬼のごとく二ヤついていた。
次の瞬間右の腹に強い衝撃。
目の前が一瞬真っ白になって体が宙に浮いた。
色が戻った時目の前にあったのはミクリデの足だった。
斧は囮か。
蹴り飛ばされた。
まるで後ろ向きのジェットコースターに乗っているようだった。
慣性に乗り体が宙を走る。
壁に当たり止まるかと思ったら、壁を突き破り、また体を浮遊感が襲った。
俺はこのまま死ぬのか?
その瞬間落下速度が異様に遅くなり、次の瞬間に俺は受け止められていた。
「かっこいいですね、勇者様」
ニヒルに笑い嫌味を吐く木ノ下と、決めポーズをしているバカ二人。
「来るのがおせぇよ。」
泣きそうだ。いや、もう泣いているかもしれない。
「呼ばれていないでござる。」
「まあ、じゃあ、反撃開始ンゴね」
斧を持ったミクリデが降りてくる。
「ああ、第二ラウンドだ。」




