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迷い


アイーネ先生とは一緒にいた時間は短い。


俺たちは勇者の中では落ちこぼれの部類だ。


ひしひしと差別は広がっている。


俺たちは生きている。


何かを判別するためには差別し区別することは必要だろう。


差別を肯定するわけではなく事実として俺だって差別している。


アイーネ先生ではなく、別の人ならこう思わなかったかもしれない。


これは区別なのだろうか?


なんでもいい、そんなことは今は関係ない話だ。


大切なのは「優しい先生が責められているのは納得できない」ということだけだ。




アイーネ先生はもともと農村の出身で魔物や害獣被害が多く、小さいころから戦っており、冒険者業を14歳ごろから行い、村にお金を送っていたらしい。


このことからわかる通り、アイーネ先生が生まれた地域はかなり貧しいところだったそうだ。


講師だけでなく、官職を担っているもの、騎士内である程度の地位にあるものはほとんどが貴族出身のため疎まれやすい。


貴族だって食べ物がなければ生きていられないだろうに...。


食料がなくなれば、貴族主導で食べ物を用意するだろうが、それは...まあ、別の話だ。


少し話が逸れた。


今は浅沼、合流した木ノ下、宮田と一緒に裁判が行われている場所に向かっている。


裁判が行われている場所は中流貴族が多く住んでいる場所らしく、この世界の中流貴族は貴族意識が高いそうだ。


わざとこの地域で裁判を行っているのだろう。


俺が寝ていたところは診療所のようなところで、いったん城門近くの診療所で最低限の治療を受けた後移動させられたそうだ。


10分も歩かないうちに裁判が行われている場所についた。


3人は俺に声をかけようとして黙り込むみたいな挙動不審な行為を繰り返していた。


「ひどいな...」


それ以外に感想が出てこなかった。


3人は静かに頷いた。


簡単に組み上げられたであろう裁判所を囲うようにゆうに数百人が集まり、ほとんどの人間が


「勇者様を危険に晒した女を殺せ」


と叫んでいた。


そしてなぜか、Fクラスの人間まで「死刑にしろ」と狂ったように叫んでいた。


きっと周囲の雰囲気に流されたのだろう。


裁判官や検事、弁護士のような役職の人たちだろうか?


そう言った人の声は叫び声に阻害されることなく聞こえてくる。これも魔法の一種なのだろうか?


「アイーネ・ツヴィア、貴女は勇者様を不必要に危険に晒し、勇者ひいてはエンデ国を危険に晒しました。」


アイーネ先生は何も言わない。ただ悔しそうに、悲しそうに顔をゆがませただけだった。


「それでは判決を言い渡します。」


そう裁判官が告げた。


場が静寂に包まれる。


「アイーネ・ツヴィア、これを死罪」


そう言った瞬間場が沸いた。


狂ってる。




もちろんだが、裁判で結果が出たからと言ってすぐに死刑が実行されるわけではない。


実際に裁判で判決が出た後に証拠が見つかって判決が変わったこともあるらしい。


アイーネ先生は連れていかれた。


「あの先生って、さっきの話が本当なら人殺しなんだよね。なら死刑で当然だよねぇ。」


「ほんとほんと、あんな先生から教えられてたら私たちまでおかしくなっちゃうよ。」


「犯罪者が先生だったとかないわー。」


「だから魔法?とかもうまくつかえなかったんじゃない?授業とかまぢいみわかんなかったし。」


そうすれ違いざまに言っていたのは伊藤たち女子6名だった。


何がだからなのか...。


魔法が使えないのは、Fクラスになるくらいスキルやステータスがまだ低いからだろ?


俺が怒っていいことではないことはわかっている。


だが、


「そうじゃないだろ...」


そう小さく呟いてしまった。


「なんだって?はっきり言わないと聞こえないんだけどぉ?」


伊藤は強く敵意むき出しの語調で詰め寄ってくる。


「魔法が使えないのは、ステータスやスキルが他のクラスの奴らと比べて低いからだろ?」


「あんな犯罪者の言うこと真に受けてんの?私は勇者なんですけど?」


俺がこいつに何かしただろうか?


「まあ、ハウンドなんかに殺されかけるような一般人にはわからないか。」


安い挑発だ。


「幸多朗殿、いくでござるよ」


浅沼がそう言ってくる。


「は?あんたじゃなくて境本にいってんだけど?」


「もしあなたが勇者なら、この場で誰かを貶めるような発言は慎むべきでは?」


木ノ下は伊藤にそう言い俺を少々強引に引っ張っていく。




「大丈夫だったンゴか?」


宮田が優しく聞いてくる。


「ああ、三人ともありがとう。」


「私も、あの先生でなければという発言には思うところがありましたから、大丈夫ですよ。」


「あの伊藤?っていう方はハウンドを一体も倒していないでござるよ。なぜそれで、実際に命のやり取りをした幸多朗殿をバカにするのか理解できないでござる。」


「アイーネ先生が人を殺したっていうのは?」


「言い回しが抽象的で具体的にはわかりませんしたが、、アリズレの武器を持っていない兵士を殺したそうです。」


「そうなのか。経緯とかは?」


「経緯は全くわかりませんでした。なにかしらあるとは思いますが、結果として武器を持たない兵士複数人を殺したのは確実だったみたいです。」


「そうか、ありがとう。」


今回の件できっと伊藤にとって三人は嫌いな人間になってしまっただろう。


伊藤が三人より強くなることは今のところ考えられないが、それでも。


部屋に戻ったがいつもよりは俺たちのテンションは低かった。


情報の交換だけはしっかり行ったが。


聞いたところによるとハウンドは残りの野営練習地にも現れたそうだ。


ハウンドの群れとしては規模が大きく、統率が取れすぎていたというのが王国の騎士団の見解だったらしい。


俺たちはトレーニングをして、いつも通りに床に就いた。





アイーネ先生の悔しそうな顔が頭から離れない。


ここでアイーネ先生を助けようものなら俺は犯罪者だ。


だがここで動かなければ一生俺はこのことを後悔するだろう。


後悔するという点ではきっと動いてもするだろうが。


思考がぐるぐる回る。


今日はどうにも眠れそうにない。






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