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虚夢


俺は今どこにいるのかわからない。


見たことがない町に立っている。


いや本当はその場に立っていないのだろうか...。


一歩動くことも瞬きすることさえできない。


転がっている無数の死体。


町の真ん中には教会のようなものが見える。


教会では今も戦闘が行われているのだ。


その世界に音がなかった。


だが感覚的にわかる。


血の匂いが鼻にぶつかり、悲鳴と剣戟が脳にこびりつく。


体を動かそうとするが、やはり体が動かない。


そうしているうちに声が聞こえてきた。


「体が動いたらどうするんだよ?逃げるのか?助けに行くのか?」


聞きなれた声だが、だれの声なのかわからない。


「考えずに動こうとするなよ。後悔するぞ」


諦めたような声がそう言った。


上手く考えがまとまらない。


声はそれ以降聞こえなかった。悲鳴も。そして剣戟も。



夢か...。


目を開けると白い天井、横には浅沼がいた。


「目が覚めたようでござるな。」


浅沼が心配そうにおかっぱヘアの間から覗いてくる。


「ここは?」


そう聞きながら起き上がろうとすると、


「痛ってぇ」


体中に鋭い痛みが走る。


「まだあまり、動かないほうがいいでござるよ。話によればあのハウンド、幸多朗殿が倒したあのハウンドはハウンドの上位種だったそうでござる。」


そういえばハウンドを殺した。


あれは夢ではなかったらしい。


「上位種?ほかのと見た目はあまりかわらなかったぞ?」


「ですが、風魔法を使ったという報告が幸多朗殿の班の人からあったてござる。」


浅沼と話していると急に引き戸が開けられる。


「具合はどうだ幸多朗?」


そう翔が声をかけてきた。


浅沼が


「翔殿がヒールで幸多朗殿の傷をある程度癒してくれたんでござるよ。翔殿がいなかったら助かって


なかったかもしれないでござるよ。」


と耳打ちしてきた。


「翔、その...ありがとうな。」


「いや、かまわない。ただ、お前はなぜ一人で戦っていたんだ?騎士がついていただろう?」


「濃霧が出ていたのはお前も知ってるだろ?うちの班は思ったよりも孤立していて、ハウンド二匹から同時に奇襲を受けたんだ。」


「そうか」


「そういえばけが人の数は?」


そう聞くと浅沼が


「騎士と軽症者を合わせると41名でそのうち23名が生徒でござる。死者は今回はいなかったでござる。Sクラスの人たちがすぐにそれぞれの場所に救援に行ったのが大きかったでござるよ。」


と答えてくれた。


「そうか、ありがとう浅沼」


「気にするなでござる!」


Sクラスとは名前の通りで翔を筆頭にステータスやスキルが強いもの、高いものが所属しているクラ


スで上からS、A、B、C、D、E、Fだ。もちろん俺たちはFクラスと呼ばれている。


「そうか、改めてありがとうな。」


翔は何も言わずに驚いた顔でこちらを見た後、いやそうな顔をしながら部屋から出ていった。


「幸太朗殿...言いにくいのですが...」


浅沼の歯切れが悪い、何か問題があったのだろうか?


「どうしたんだ?」


「その23名のけが人のうち13人はFクラスだったでござる。」


「だから...?」


「アイーネ先生が全責任を負わされて、まるで魔女裁判でござる。」


そう言った浅沼の顔は暗かった。


「アイーネ先生はもともと貴族ではないという理由でほかの先生からの評判がよくないらしく、アイーネ先生をかばっている人がいないんでござるよ」


「そうか」


そういいつつ、ついつい立とうとする。


「まだ傷が治っていないえござる。」


「でも…それでも俺はいきたいんだ。」


「行ってどうするんでござるか?国でも敵にまわすでござるか?」


夢の中のあの声と重なる。


「とりあえずは、アイーネ先生のためにできることがないか探すために、処分が正しいか話を聞くために行くんだよ」


「青春でござるね」


「どこがだよ」


浅沼宛に言ったのか自分宛に言ったのかは、わからない。


だが、きっと自分宛なのだろう。


俺はそういうやつだから。




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