しばしの休息。
コウタロウ様は寝ている。
ここは勿論ダンジョンの中なのだが、人間はずっと動き続けられるわけではない。
正確な時間はわからないため、少しずつ仮眠を取り合い、警戒をする。
こちらが眠っていてもダンジョン内の魔物は常に動いていると言われている。
戦闘が始まれば、戦闘の音で休んでいる人が起きてしまう。
獣人は人間より少しばかり夜に強い。
それに加えて、奴隷商で睡眠を長い間とらなくても活動できるように、短い睡眠時間を矯正されてきた。
コウタロウ様は私に長い睡眠時間をくださる。
二人でこのクルタまで来る数日間も、正確な時間はわからないが、基本的にはコウタロウ様の睡眠時間が短かったように感じる。
その結果、コウタロウ様は体調を崩されてしまったし、コウタロウ様はよく無理をされる。
クーパーさんに教えてもらったが、魔法やスキルを使って倒れるのは、自身のMPを超えて使った時らしく、その場合は体力が削れ、精神的にも大きく摩耗するそうだ。
私がもっと頑張らなければいけないのだ。
数刻もたたないうちにコウタロウ様は目を覚ましたため、クーパーさんは本当に驚いていた。
並の魔術師では、そもそも、そんなことを意識的には行えず、行ったとしても、1日前後眠ってしまうそうだ。
アジギがわかり、奴隷の私よりも世間知らずな一面があって、戦闘力が非常に高く、奴隷にも優しい、少しおかしなご主人様だ。
並の魔術師じゃないとクーパーさんに言われて、私のことでもないのに嬉しくなってしまう。
コウタロウ様はすごいのだ。
勿論この方たちもすごい。
瞬時の判断能力だけではなく、言葉を交わさずとも連携のとれた動き。
オーガを倒してから何度か戦闘になっているが、マルデさんを守るように、魔術師寄りのクーパーさんでさえ、前線で瞬時に剣を振る。
私が動くことが邪魔になっているとさえ思える。
「そう言えばエレノアの嬢ちゃん、コウタを背負って逃げ回ってた時はすげぇ感動したぜ。」
マルデさんが保存肉を渡しながら話しかけてくる。
「もらっていいんですか?」
「ああ勿論。俺たちは仲間だろ?」
「俺は仲間じゃないってか?肉は?」
ク―パーさんは不満気に声を上げる。
「嬢ちゃんにあげちまった。」
眩しいほどの笑顔でマルデさんは笑ったが、そもそもこの肉はこの方たちのもののはずだ。
「嬢ちゃん、早く食べちまいな。あと、クーパーが言ったのは冗談だから気にするな。」
「ああ。もし、本気だと思ったのならすまない。」
クーパーさんが優しく笑っている。
「もらってもいいんですか?」
「ああ。もちろん。」
少し柔らかい肉に噛みつく。
歯を伝って肉の味が伝わってくる。
「ご主人さまは冗談とかあんまり言わないのか?」
「冗談ですか?えーと、あんまりおっしゃられないかも知れません。」
「そうなのか。」
「そういうタイプには見えないけどなぁ...。」
ミスタさんが会話に混ざってくる。
「俺もそう思うな。まあ、マルデは聞かなくてもわかるな。」
「なぁ、コウタ、嬢ちゃんに気を使ってるんじゃないのか?」
少し考えた後にマルデさんがそう言った。
「確かに気を使ってると思います。」
「っていうか、奴隷でしょ?コウタって男好き?マルデ、良かったな。」
「止めろクーパー。俺には可愛い嫁さんがいるんだ。お前もだろ?」
「だからいねぇって言ってんだろ?どんだけそのいじりが好きなんだよ...。」
『確かにその可能性もあるね。』
声まで会話に入ってきて驚いた。
「確かに、それなら何もされてないのに説明が、」
「本当に何もされてねぇのか?か―っ。」
「止めろマルデ。下世話だぞ?」
「いや、だってよ、嬢ちゃん明らかにコウタのこと好きなんだろ?」
「お前は酒でも入ってんのか?」
「ほら、嬢ちゃん見てみろよ。」
三人の視線が集まる。
「なんにも変わってないですから!!こっち見ないでください!!」
「な?」
「まあ。」
「確かに。」
「ちょっと待ってください!!私は何も!」
『またまたー』
声が時々私の味方ではないのは何なのだろう。
「じゃあ、嬢ちゃんはご主人さまのこと好きじゃないの?」
「それは...その、ま、あ、す、好きですけど?」
「ほらー」
マルデさんを見ていると、弟の笑顔を思い出す。
まあ、マルデさんとは年齢が全然違うのだが。
「オーガからご主人さまを守り切ったのは、やっぱり、愛のなせるわざだよなぁ。」
マルデさんはこちらを見ながらしみじみと言ってくる。
「そのくらいにしといてやれよ。」
目をこすりながらクリステさんが簡易的なテントから出てくる。
「クリステ、ちょうどいいところに来たな。お楽しみはこれからだぜぇ!」
「早く寝ろ。誰かこいつに酒渡したのか?」
「シラフだよ。」
「ごめんな、ご主人様が大好きなエレノアさん。」
「き、聞いてたんですか?」
「まあ、楽しそうだったから、つい?コウタは寝てるよ。」
私がコウタロウ様を見たためかそう言ってくれた。
「奴隷が、その、こんなことを思うのは、おかしい...ので...。」
「おい、マルデ、コウタを起こしてこい。」
「クーパーさん!?」
クーパーさんはこちらではなくそっぽを向いて笑いをこらえている。
「ああ、任せろ!」
マルデさんはそう言ったものの動かない。
これがこの方たちの冗談なのだろう。
しばらく何も考えずにマルデさんを見ていると、マルデさんは少し首を傾げた後に、
「コウタを起こしてきたほうが良かったか?」
「そうじゃないです!!!」
マルデさんは大笑いした後、いつもよりも真剣な顔になり
「まあ、俺はもう奴隷じゃねぇからなんとも言えねぇんだけど、きっと、コウタになら、我儘言ってもいいと思うぜ。まあ、保証はねぇけどな。」
そう言って優しく笑った。
読んでいただき、ありがとうございます。
暫し、会話が続きます。
だれが喋っているのか、かなりわかりにくい文章になってしまっています。
大変申し訳ございません。
気になる点などがあれば、お気軽にコメント等お願いします。




