獣人は人間。でも奴隷。
「じゃ、今日はよろしくな。コウタ。」
そう言った彼の名前はクリステ、獣人ではなく人間だが、獣人と結婚しているそうだ。
「協力感謝します。」
「そんな堅い言葉はよしてくれ。もしかして、高貴なお方なんでございますか?まあ、俺たちみたいな野蛮な冒険者には、そういう言葉は伝わらないから。」
そう言って彼らは豪快に笑った。
彼等は全員40前後ほどの年齢らしい。
獣人3人はまだ20代、人間2人も30代ほどに見える。
「俺たちはパーティを組んでいる間はお互いに命を預け合うんだ。信頼してくれよな。」
「ああ。わかった。」
「それでいいんだよ。」
何がおかしいのか彼らは笑うと、最後に今回の段取り、作戦、報酬について確認を行った。
正直なところ、このダンジョンはどこに転移するかわからない都合上、魔物の目の前に転移させられることだってある。
「俺たちから入る。まあ、安心してついてきてくれよな。」
「クリステ、何度も繰り返してると逆に怪しいぞ。」
「そうだな。」
彼等は笑いあうと、クリステが転移を行う小さなドアのようなモノをくぐり、姿がかき消える。
「俺たちは言葉が不器用でな。怪しいと思うならついて来るなよ?」
そう言ってミスタは笑う。
彼は犬系の獣人のようだ。
「信頼してるよ。」
「人間にそう言って貰えて光栄だよ。俺らは獣人だからな。」
「それは信頼するかどうかには関係ないだろ?それにあんたも人間だ。」
「バカか。」
ぶっきらぼうにそう言うと転移門に入っていく。
「あいつめっちゃ喜んでたな。勿論俺もだぞ?よろしくな?」
マルデはそう言いながらガシガシと頭をなでてくる。
「ああ。よろしく。」
彼等5人は全員が転移門に入っていった。
「クリステさんと、クーパーさん、ミスタさんマルデさん、それからルークさんですよね?」
「すごいなエレノア。」
「ありがとうございます!」
「エレノアは信用できると思うか?」
「あの五名をですか?」
「ああ。」
「どうでしょう...。わかりません。ですが、コウタロウ様が信用できるのなら間違いないと思います。」
エレノアは真っすぐな瞳でこちらを見る。
「ありがとう。もし何かあったらすぐに逃げてくれ。」
「それは私の台詞のはずです。」
「そんなことないさ。じゃあ、行こうか。」
転移門に触れる。
身体が触れた手の先から徐々に溶けていくような奇妙な感覚に包まれる。
俺は昨日、あらかじめこの門を5人と見に来ている。
きっとそれが原因なのだろうが、今朝、変な夢を見た。
現実かと思うほどに鮮明な夢だった。
俺は、エレノア、そして何人かと一緒にここで転移を行い、転移した瞬間斬られた。
まるで、本当に斬られたかのような痛みで目が覚めた。
俺は叫んでしまったらしく、エレノアは飛び起きていた。
本当に申し訳なかった。
俺は当然だが、この門に触れたことはない。
だが、夢でも同じようにして門をくぐった。
指先から溶けてなくなってしまうような感覚。
目を開けると、5人は警戒しながら現在地について話し合っていた。
「来たんだな。ようこそ。そして、改めて、よろしくな。」
「ああ。こちらこそ。」
エレノアはすぐに俺がいた位置に現れた。
転移してきた場所にそのまま立っていると、次に転移した人間とぶつかってしまうそうだ。
想像通りというか、エレノアはその場に突然現れた。
夢は所詮夢だ。
大して気にする必要もないだろう。
いや、気にしておくべきだろうか?
まあ、今気にしたところで、正直何にもなりはしないのだが。
「そういや、エレノアちゃんって奴隷なんだな。」
人間のクーパーがそう言った。
「どうして気づいたんだ?」
俺はエレノアが奴隷だなんて言ってないし、エレノアも同様に明かしてはいない。
獣人三人の目つきが変わる。
「鑑定したから?」
特に隠すことなくクーパーはそう言った。
鑑定は個人のステータスを覗くことができるのか?
ここで焦るのは違う。
「俺の情報まで覗いたのか?高くつくぞ?」
そう言って軽くおどけてみる。
この5人の戦闘力は知らないが、戦闘が本業の5人があいてなら、俺はまず負ける。
「もし見られたとしたらお前のレベルの低さを呪うんだな。」
そう言ってクーパーは笑う。
表情はにこやかで、怒っているようには見えない。
「あと、覗いていない、いや、覗けなかったよ。ご主人様の許可がいるってよ。それと、コウタ、お前年齢の割には結構レベルが高いんだな。」
「クーパーお前が覗けなかったのか...。あと、揉める原因になるからやめろとあれほど...。」
「いや、普通、気になるだろ?」
クーパーがクリステを説得するようにそういうが、
「はぁ、普通は覗かないんだよ。」
クリステは頭を抱えている。
「この馬鹿が悪かった。こいつは頭が悪いんだよ。」
「そ、れ、よ、り、も、」
マルテにいきなりヘッドロックされる。
一瞬体が強張ったが、力が弱い。
マルテは俺を脇に抱えて引っ張っていき、小声で
「エッチなことはしたのか?」
マルテはご機嫌そうにニヤニヤしていた。
「聞こえてます!!コウタ様はそんな方じゃありません!!!」
エレノアがすぐに大声をあげていた。
振り返ると残りの4人も苦笑している。
マルテは心外だとばかりに両手を上げ肩を竦め、
「ヘタレなんだな。」
小馬鹿にするように満面の笑みで言い放ち、とことこ戻っていく。
マルテは酒でも入っているんだろうか?
「コウタ様はヘタレじゃありません!」
「はいはい、エレノアのお嬢ちゃん。」
エレノアはマルテに強い視線を向け、マルテは自分の手でエレノアの視線を遮っている。
俺は獣人を奴隷にしているが、獣人の彼らは怒っていないようにも見える。
気にしすぎたか?
確かに、人間の奴隷を見ても、少々思うところもあるが、わざわざ正義感を振りかざしたりはしない。
それは、この世界では当たり前だからだ。
この国での獣人差別はもはや当たり前で、自分や獣人全体への侮辱は別だろうが、特に気にするようなことでもないのだろうか?
当然、丁寧に接するが。




