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命を背負って。


ミルハが真っ青な顔で私に近づいてきた。


「マリミヤさん、レグ・クレマ団長が戦死されたと...報告が...。」


何とか王都にたどり着いた私たちに知らされたのは最前線を維持してきた頼れるリーダーの死だった。


これまで多くの死地を乗り越えた、あの団長がそう簡単に死ぬとは思えない。


「...他に...報告は?」


「我々が戦闘を行った新種の魔物共が、突然砦内に我々が戦闘になった同日、ほぼ同時刻に出現したそうです。」


意味が分からない。


砦は多くの感知系のスキルを所持しているものが多く在中し、しかも戦闘力も前線を維持しているため、申し分ないはずだ。


明日、現王と謁見することになっている。


今回の首都への帰還は、休養のためでもあったのだが、レグ団長からの報告を現王に伝えるという目的もあった。


現王はレグ団長のことを非常に信頼していた。


私が前線に居れば、レグ団長を死なせることはなかったなどと思い上がっているわけではない。


私ではどうしようもなかった可能性もある。


それでも、体の震えが止まらない。


身体の中で、憎悪が煮えたぎる。


「あの、外套の男がやったのでしょうか?」


ミルハは綺麗な薄い青髪と華奢な体を小刻みに震わせ、青い瞳を潤ませている。


「男じゃなくて、魔物だったんでしょ?魔物を召喚する魔物なんて聞いたことないわ。」


「はい。確かに魔物でした。もし、魔物を召喚することが本当にできるなら、」


「そんなことを気にしたってしょうがないわ。それに、私がその外套の魔物で、人を殺すことが目的なら、王都に直接魔物を召喚するわ。」


「確かに...。」


「物騒ですね。」


長身に眼鏡をかけた、いかにも堅物そうな男が声をかけてきた。


たしか名前は...思い出せない。王の側近をしている男だ。


「実際物騒ですからね。」


「確かに、そうですね。」


男は悲しそうに笑うと、


「レグ団長が戦死されたことは?」


そう言ってきた。


私たちが疑われているのだろうか?


「今聞きました。」


「そうですか。単刀直入にお聞きします。」


男は一呼吸置くと、


「もし、その外套の魔物が首都で魔物を召喚したとき、どのくらいの被害が想定されますか?」


「どうでしょう。私たちはその魔物たちとの戦闘で兵士を3人失いました。勿論数で劣っていたということもありますが、私の班の人間は決して弱くない。今回はミルハのおかげで敵に気が付きました。そして外套の魔物自体も私一人では倒せないでしょう。」


「それは、どうしてですか?」


「なんと言いましょうか、私は外套の魔物に純粋な剣技だけで、剣を弾き飛ばされました。」


「剛剣で有名なあなたが?」


「ええ。お恥ずかしながら。」


「魔物とは思えないほどに卓越した剣技、人語を流暢に話すほどの知能。」


男は息を飲むと、眼鏡を触り、位置を直す


「あの、」


ミルハが続ける。


「外套の魔物は私たちに顔を見せました。」


「そうなのですか?」


男は間の抜けたような顔をしている。


ミルハは私と目が合ったが構わずに続ける。


「アルノヴァ・エンデ様のお顔に酷似していたように思います。」


「それはない。エンデ様は1週間ほど前から秘密裏にオウリス王国に来られ、現在国王と対談中だ。エンデ様には、オウリス王国の兵士もついている。」


「ですが、」


「ミルハ、やめなさい。」


「しかし、」


「最前線で起こった問題は、エンデ国に共有してはいないのですか?」


「今はまだ。」


「もし、情報共有を行う場合は、マリミヤ班に説明を行わせてください。」


「わかった。検討はしよう。」


「ありがとうございます。」


男はそのまま、他の班員に話を聞きに行った。



「クルタさんって優しいですよね。」


そう言えばあの男の名前はクルタだ。


「私は言うなって言ったはずだけど?」


「それは、はい。申し訳ありません。」


頭を下げているミルハの顔から雫がしたたり落ちる。


私も若いが、ミルハは16歳で班に所属して日が浅い、というか、兵士になって日が浅い。


高い戦闘力と索敵能力があったため最前線に送られてしまったが、能力があれば、人の死に対して鈍感になれるわけではない。


事実として、この前まで元気に話していた仲間が死んだのだ。


父のようにミルハのことを心配していたレグ団長も死んだ。


よく聞いたわけではないが、ミルハは孤児で、レグ団長と面識があったそうだ。



他人が何を言ったところで無駄だ。


ミルハをしばらく抱きしめていた。


考えたところで、何も戻りはしないのだ。


外套の魔物が召喚したであろう魔物達は、魔変鉱をドロップした。


見た目はほとんどの魔物が、見たことのある魔物の失敗作のような状態だった。



次の日、王に文書を渡し、エンデ王にも外套の魔物のことを説明した。


エンデ王を見た瞬間に抜剣したバカがいたが、エンデ王は気にしていないと流してくれ、話を聞いた後、「私が、君たちと同じ立場で、仲間を殺した人間の顔をした人間が目の前に居たら剣を抜く。」そういってくださった。


処罰はなく、兵の派遣、物資の派遣を検討してくださるとのことだった。


エンデ王が寛容でなければ十分に国際問題だ。


失礼を承知でエンデ王に模擬戦を提案すると、快諾していただけた。外套の魔物とは似ても似つかぬ構え、剣筋、重心の置き方で、おそらく本当に外套の魔物はエンデ王ではないのだろう。実力的には最前線でも十分に戦える実力だった。


意識的に変えた可能性も否定はできないが、前線を崩壊させる意味があるとも、夜間の内にマリミヤ班とレグ団長を襲い戻ってこれるとも思えない。転移のスキルでも所持していなければそんなことはできない。が、転移のスキルは、勇者のみに神から授けられるとも言われている。


魔王が復活したと言われる今、人間同士で削り合う必要もないだろう。





明日、死んだ三人を故郷にそれぞれ連れて行く。


彼等は、私の命令で死んだのだ。


私が殺してしまったのだ。


私は遺族に会ってどんな顔をするのだろうか?


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