心労は、ゆっくり積み重なって
ホーンリザードのことを教えてくれたのは、私の中でぺちゃくちゃ喋っている、自称神様だ。
冗談めかして言っていたため、まあ違うとは思う。
悪魔だとも思いたくないため、その何かの言葉を信じて、自称神様だと思っている。
『私はちゃんと神様だよ?』
考え事中にはできれば喋らないで欲しい。
『でも、私のおかげで魔物に気づけたでしょ?ふふん!』
私では気づかなかったというのは事実だ。
『でしょー?』
索敵範囲がかなり上昇した。
何か、から力を借りるようになってから、索敵範囲が大幅に広がり、魔力の無駄も少なく、余裕もできた。
純粋な能力もそうだが、何かを考えるときに、私一人の視点だけではなくなったのもすごく大きい。
今回のホーンリザードも何かの力が無ければ、そもそも見えない角と尻尾に苦戦していたことは言うまでもない。
『そんなに褒めてくれなくてもいいのに。』
まあ、思考を何かに覗かれるようになってしまったのだが。
コウタロウ様は私とは違い何にも頼らずにホーンリザードをいなしていた。
だが私は、何かの力を借りなければそもそも戦えなかった。
コウタロウ様は人族のはずだ。
獣人よりは、身体能力や感知能力がひくいはずだ。
にもかかわらず、コウタロウ様は見えない相手を捉えていた。
あれは研鑽の成せる技なのだろう。
私がいたためにホーンリザードは私を狙ってしまい、コウタロウ様は魔法を使えていないように見えた。
今のままの私ではきっと足手まといなのだ。
今回も褒められた上、中級ポーションを使うように言われた。
ポーションを使わないでも問題ない程度だったにも関わらず、だ。
コウタロウ様を何とか説得し、下級ポーションを飲むことでなんとか落ち着いた。
そもそも下級ポーションも、奴隷には与えられない場合がほとんどだ。
私はコウタロウ様の役に立たなければならない。
『そんなに根を詰めていると、肝心な時に失敗しちゃうかもよ?』
それは、だからと言って手は抜けない。
『まあ、君がそれでいいのなら、頑張れとしか言えないね。』
何かは笑っていた。
しばらくコウタロウ様と談笑しながら進み、ある程度暗くなり始めたタイミングでテントを張る。
ベッドを奴隷に使わせる優しいコウタロウ様は当然のようにテントの中で寝ることを許してくれた。
時間が正確にはわからないのだが、おそらくだが、コウタロウ様の方が見張りをしている時間が長いのではないだろうか?
朝も、コウタロウ様は私を起こそうとはしない。
食事の準備もしてくれてコウタロウ様と同じだけ食べさせてくれる。
準備中も静かで、朝起きるとコウタロウ様がいなくなったのではないかと心配になる。
昨日のリザードマンとの戦闘でもコウタロウ様の足を引っ張り、ポーションを使った。
「おはよう、エレノア。眠れた?」
そんな使えない奴隷に対しての対応さえ優しい。
コウタロウ様の笑顔があまりにも眩しい。
「おはようございます。はい。ありがとうございます。」
「良かった。ご飯にしようか。」
『だってよ?よかったね。』
コウタロウ様が私を必要としてくれる限り、死ぬ気で戦う。コウタロウ様になら殺されても構わない。
そんなことを決める権利も奴隷の私にはもともとないのだが。
時々思うのだが、私が奴隷ではなく、普通の冒険者だった時、普通の女性だった時、いや、私は奴隷だ。
これ以上の待遇はない。
捨てられたくないなぁ。
寝るときに、一人の時に、コウタロウ様といるときだって私のこのわがままで、自分勝手な気持ちが頭の片隅でちらつく。
こんなことを考えていると知られれば嫌われるだろうか?いや、奴隷はそもそも道具だ。
こんな考えそのものが奴隷として間違っている。
『その考え方で彼は嫌がらないかな?』
何がだろうか?
『だって、ポーションをくれたり、ステータスを見るときにいちいち確認をとってきたり、人としての最低限の尊厳を守ってくれてるんでしょ?普通に考えたら、君に、人として生活して欲しいって思ってるんじゃないかな?でも、なら、奴隷って形じゃないかもしれないね。』
何かは、言いたいことだけ言って喋るのを止めた。
何かの言ったことは私にとってあまりにも都合が良すぎる。
私は奴隷なのだ。
コウタロウ様に優しくされて、勘違いしそうになる。
コウタロウ様は私という道具を大切に扱っているのであって、私個人を大切に扱っているという意識はないはずだ。
だからこそ私は、道具として、コウタロウ様の役にいち早く立つようになる必要がある。




