二次災害
何とか砦まで撤退できた。
ここは町くらいの大きさがある砦だ。
ココが突破されればかなりオウリス王国は立て直しに時間がかかるだろう。
「カリト部隊所属、兵士クラ、報告です。」
門番が驚いた顔で砦の中に通してくれる。
兵舎の中に入り、報告を行った。
「カリト部隊は3番の防衛で間違いなかったよな?」
レグ・クレマ団長はそう聞いてきた。
「はい。」
「どうしたんだ?」
「騎士カリトが戦死、またカリトさんを含む騎士3人が死亡。兵士30人中23名も死に、駐屯地から撤退しました。」
「3番が落ちたのか?前にも駐屯地はあったはずだよな?4番だったか?」
「はい。前線がどうなっているかは確認できていません。」
「強力な魔物が現れたのか?」
「いえ、オークやホブゴブリンでしたが、数が多く、いきなり現れたため対応できず、戦線が崩壊しました。」
「いきなり現れた?そうか...。」
「ダンジョンが周囲にあると思われます。」
「7人の騎士たちは?」
「兵士に騎士マリミヤさんが逃げるように指示を出されたため、わかりません。物資も少ないため、
西の駐屯地、8番?に行った可能性も考えられますが...。」
「わかった。良く戻ってくれた。早急に3番8番に部隊を編成し送る。もし可能なら同行して欲しい。」
「私でよければ喜んで。」
「神は我らを。」
「神は我らを。」
同郷のアルは撤退中にゴブリンに殺された。
俺はどんな顔をして故郷に帰ればいいのだろうか?
しばらくして慌ただしく兵士や騎士が動き出した。
今回の部隊は本当に兵士や騎士の回収が目的だ。
そのため、不要な装備は携帯せず、荷車は基本死体の運搬のみに使われる。
全員で30人、そのうち10人が騎士だ。
少し騎士の割合が多い。
それもそのはずで、俺はカリト班に最近加入したが、それよりも前から凄まじい討伐数を出していた。
けが人や死者も少なく、最前線でもカリト班なら1班で大丈夫だと言われるほどの部隊だった。
若い騎士が中心だったこともあり、良く思っていない人間も多かったが、部隊内の関係は非常に良好で、女性の騎士や兵士もいたが、性的な問題も起きていなかった。
「クラ、先導を。これより、カリト班の救出を行う。異常な量の魔物の発生が確認されているため、総員気を抜くなよ!」
レグ団長が叫ぶと部隊員が雄叫びをあげる。
門が開き30の兵士が馬に乗り走り出す。
陣形は走りながら簡易的に展開されており、魔物を10体以上倒している。
レグ・クレマ団長は指導者としても優れているのだが、有事には自ら最前線で戦うことができるほどの度量と力量を兼ね備えている。
それに、今回も救助に行くとすぐに兵士をまとめたのだ。
だからこそ兵士たちの結束力は強い。
休憩を1度挟んだ後、駐屯地に到着した。
カリト班の生きている騎士たちは一人もおらず、死体を回収し、すぐに西の駐屯地に兵を向けた。
西の駐屯地に騎士たちはいた。
エルトさんとマキラさん以外は生きていたが、ボロボロだった。
エルトさんはつい先ほど死んだようで、マリミヤさんは声を殺さず泣いていた。
泣いていたのはマリミヤさんだけではなく、他の騎士や兵士、勿論俺もだ。
話を聞いた限りでは、ワイトという魔法に特化したスケルトンの上位種に襲われエルトさんが動けなくなった。
大量のスケルトンに囲まれ、一度エルトさんを置いて撤退しようとしたが、マリミヤさんが戻ったため、他の騎士もエルトさんを守るために戦闘を開始。
結果としてマキラさんがスケルトンの凶刃で命を落とし、エルトさんは失血死、残りの騎士も死にかけたそうだ。
戻らなかったらマキラさんは死ななかったかもしれないが、捉えようによっては二人の犠牲でこの拠点を奪還したといえる。
それに、死ぬ可能性を考慮したうえで行動した人間に対してその場にいなかった人間が何を言えるのだろうか?
駐屯地で空いた穴を塞ぎ、騎士たちの治療を行う。
レグ団長は20名を率いて周辺の偵察に出た。
その後、エルトさんやマキラさんが命を賭して奪還した拠点を中心に、12日という速さで再度拠点の建設、防衛ラインの立て直しが行えた。
魔物はやはり脅威だが、今はカリト班を改め、マリミヤ班が驚くほど戦果を挙げ、森を開拓している。
私の配属もマリミヤ班だったがついていくのがやっとだ。
マリミヤさんは、エルトさんがつけていた真っ赤な魔石のペンダントを肌身離さず身に着けている。
マリミヤさんの笑顔をもうずいぶん見ていない。
マリミヤさんの顔に常に浮かんでいるのは疲れと憎悪だけだ。




