オウリス王国、下級騎士マリミヤ
私はオウリス王国の下級騎士、マリミヤという。
女性でもオウリス王国では騎士になりやすい。
理由は隣国のエンデが兵士、騎士をほとんど派遣していないからだ。
オウリス国は森に面している。
森に面しているだけなら、大きな問題はないのだが、ここでいう森とは国内の森とは意味合いが違う。
森はダンジョンを覆い隠すため、ダンジョンが大きくなりやすく、また、凶暴な魔物が現れやすくなる。
森はゆっくりとだが着実に大きくなっていく。
森の開拓には時間がかかり、時間がかかればかかるほど危険が増す。
エンデ国は確かに資金的な援助は行っているが、ただそれだけだ。
確かに中心に位置していることもあり、他国から攻められやすい地形のため、戦力を割きたくないという考えも十二分にわかる。
が、わかるのと実際に納得出来るかどうかは全く違う。
同時期に騎士になった者達の半数は魔物との戦闘で命を落とした。
エンデから送られている騎士も少数だがおり、それらはここ5年一人も死亡者を出していない。
だからこそ納得できない。
金銭的支援がなければもちろん戦い続けることはできないが、エンデの騎士を多く派遣してもらえれば、森の開拓は大きく躍進することは間違いない。
周辺国も同じような問題で困っているため、オウリスだけに支援しろと言っているわけではないのだが、最近も森の拡大で村を4つ手放した。
ここ1年で壊滅した村は6つだ。
森の進行速度、魔物の凶暴化率は、はっきり言って異常だ。
魔王が復活したという意見もよく聞くが、そうでなければ納得ができない。
オウリス王国は領土自体が大きく、そのせいで森の進行を阻めていないというのもある。
まあ、私はただの騎士だ。
そんな私が何か考えても一緒だろう。
兵士が扉を勢いよく開け、
「オーク4!」
そう言った。
どうやら休憩は終わりのようだ。
今の駐屯地は砦もなく、あるのは騎士や兵士が休憩するための仮設テントくらいだ。
兵士、これの大部分は村や町を失った人間が大部分を占めている。
魔物を倒そうとする意志は強いが、実際に武器の扱いに慣れている人間は少ない。
状況は悪かった。
オークは確かに4体いた。
だが、10体以上のゴブリンやホブゴブリンも3体は確認した。
戦闘はすでに始まっていた。
この駐屯地は最前線というわけではない、前線基地があったはずだ。
ということは前線の部隊は押しつぶされたのだろう。
40名の部隊だったが半数は壊滅している。
カリトという騎士がリーダーだったが、目を見開いて臓物をまき散らしていた。
まあ、そう言うことだ。
確か騎士は10人いたが、ほとんど階級は変わらない。
「火の槍よ、敵を穿て。【ファイアースピア】」
走りながら魔法を放つ。
簡素な魔法だが、ゴブリンの胸に風穴を開けた。
「マリミヤさんありがとうございます。」
泣きそうな顔でアルという農村出身の青年は立ち上がり礼を言ってくる。
「いえ、撤退を。」
「撤退ですか?」
「ええ。前線が潰されたことは間違いないでしょう。騎士以外の撤退支援を、オークは騎士で引き受
けます。」
「わかりました。」
「ある程度助けたら撤退を開始してください。絶対に誰かたどり着いてくださいね。」
「はい。マリミヤさんも、お気を付けて。」
オークは今残り4体だ。
問題は騎士がもう7人しかいないということだ。
「マリミヤ、お前はあいつらと退け!」
同期のエルトはキザだが、戦闘能力も、状況判断能力も私より長けている。
「私が女だからですか?火の槍よ、敵を穿て。【ファイアスピア】」
ファイアスピアを避けたオークにエルトは剣技を叩き込む。
「追撃!」
剣を左下に構え突進、剣を魔力に引っ張られる通りに動かす。
「言われなくても!」
私の剣はオークの膝の上を切断し、下がった首を切り払う。
「助かったよ、お嬢さん。」
エルトはいつも通り不敵に笑うが、脇腹は真っ赤に染まっている。
これでオークは3体、騎士は7人だ。
最終的にオークは騎士が7人生きている状態で倒せた。
兵士たちも撤退できたのならいいのだが。
ホブゴブリンやゴブリンは兵士たちを追いかけていったのだろうか?
それとも引き付けてくれたのだろうか?
エルトの応急処置をしていると、
「囲まれている。後ろもだ。」
騎士が顔を真っ青にしながらそう言った。
「後ろも?」
エルトだけが言葉を発したが、全員驚いていた。
ここは丘の下だ。
後ろに森はない。
回り込んだ?
そんな必要はない。
知能もないはずだ。
なら出現したのか?
ダンジョンが近くにあるのかもしれない。
「数は?」
「30以上。」
「この数でどうしろってんだよっ?」
エルトが珍しく声を荒らげる。
「西の駐屯地が近かったはずよね?」
「ああ、3オリ(3時間)ほどだ。だが西にもいる。西は砦があるからまだ落ちていないといいんだが。」
「行くしかないだろ?神は我等を見捨てない、だろ?」
エルトは立ち上がり、不敵に笑いながらそう言った。
後ろにも反応があるということは撤退した彼らは全滅したかもしれない。
いまさらそんなことを考えても同じだ。
だが、私が殺したのだ。




