緩やかに動き出す。
「シルヴァ、いる?」
今私は兵舎の前にいる。
「どうされました、国王様?」
「いや、魔王についての情報はあるかな?」
そう言いながら周囲に声が漏れないように妨害魔法をかけつつ歩き始める。
「全くと言っていいほどないですね。」
シルヴァは肩を竦める。
「勇者の召喚ができたんだから、魔王の復活は近いはずだよね?」
「そうだと思いますけど、文献自体も古いものですし、勇者召喚自体はいつでも行えるものだったのかもしれませんね。」
「確かにそう言う風にも考えられるね。」
「あの預言書が、その辺の預言者が書いたものだったとしたら、ですけどね。」
シルヴァは笑いながら言葉を続ける。
「勇者様が嘘を書いたなんて広まれば大事になりますね。」
「ああ。だが、この国を、世界を守った勇者が嘘を書くとは思えない。」
「同感ですね。」
「そう言えば、ほとんど、と言うのは?」
「どこかの誰かが魔変鉱を使って遊んでいるから、それに関する噂が結構出回ってますね。」
「誰だろうね?」
「さあ?」
「初級ダンジョンにミノタウロスが出現したそうですが?」
「怖いね。」
「本当ですね。」
シルヴァがため息を吐き話を変える。
「そう言えば、転移とやらはできるようになったんですか?」
「まだ咄嗟には出せないから練習が必要だね。」
「楽しそうでなによりです。まあ、気を付けてくださいね。今回も勇者に見つかりそうになったんでしょ?」
「見つかってはいないだろ?」
「はぁ。まあ、忠告はしましたよ?処理するこちらの身にもなって欲しいものですね。」
「ああ、気を付けるよ。」
シルヴァはまだこちらを見ている。
「どうしたんだ?」
「いや、仲のいい隣国とはどうなるんですか?」
「勿論最大限の援助はこれからもするよ?」
「だから問題になっているのだと思いますけど?」
「もうすぐ勇者たちも動き出すでしょ?」
「隣国の制圧にですか?」
「それはお隣の出方次第じゃないかな?」
「そんなんじゃいつか死にますよ?」
「私を守るために君がいるんだろ?」
「私一人では大局は何も変わりませんよ。オウリスが兵士を徴収していると聞きました。」
「迫ってくる森を開拓するんだろ?」
「なるほど、じゃあ、なぜエンデに近いほうに兵士が徐々に集まっているのだと思いますか?」
「うーん、まだ、練度が足りないから安全な地域で訓練しているのだろう。」
「おめでたいですね。」
「私の生誕日はもう少し先だぞ?まあ、ありがとう。」
「はぁ。」
「魔変鉱を使った魔物の生成はかなり上手くいっている。」
「その言葉がすべてだと思いますが?まさか市街地にも放つおつもりですか?」
「まるで、私が人族の敵と言わんばかりの言い方だな。我々の敵は、他の宗教でも、違う人種でもなく、魔王だろう?」
「そうですね。」
「わかった。何か異変があれば教えてくれ。」
「了解しました。」
「どうした?まだお小言か?」
「友として。最近大丈夫か?」
シルヴァは振り返らない。
「どうだろうね。」
「お前には向いていないよ。今からでも止められる。このままで、どんな問題がある?お前風に言うのなら、『神の意思』だろ?」
「確かに、今まさにこうなっているのだから、変える必要などないのかもしれない。だが、神が我々を真に見捨てたのならば、我々はとうの昔に滅んでいると思わないか?私には神の声は聞こえない。だからこそ、このままで、」
「何回も聞いたよ。狂信的、いや、まあ、何でもいいよ。俺はお前の為にいる。お前が何をしようが信じていようが大した違いはないさ。」
「ありがとう。」
「こちらこそ。」
シルヴァはそう言う儀式的な礼をした後、こちらに何かを投げて、兵舎の方に戻っていった。
シルヴァがこちらに渡してきたものは、真っ赤に毒々しく変色した魔変鉱だった。
見た目以外には違いはない。
実験中はこういった状態にはならなかった。
変質させた魔物が時間を経て体内の魔変鉱に影響を与えるのだろうか?
検証が必要だ。
失敗したミノタウロス、成功したというべきか?
消費魔力量は今までで一番多かったが、今までで一番の出来だった。
私には敵意を抱かないことは共通なのだが、魔力を多く籠めると知能が明らかに上昇し、こちらの指示に従うと同時に凶暴性も増した。
ミノタウロスは特に顕著で、指示も理解しているか怪しかった。
このスキルのレベルアップ方法がわからない以上、これ以上のものを作るなら、シルヴァに頼むほうがいいだろう。
あの性能でも十分だが。
作った魔物は何度か殺してみたが、経験値は私も獲得できたため、安全にレベルを上げることができるのは嬉しい。
経験値はどうやらこちらが込めた魔力量に依存しているようだった。
ある程度魔力を込めれば上位個体になり、SPも獲得が確認できたため、安全で楽になったのは間違いない。
オウリス王国と戦闘になるにしても、時間はまだある。
実用段階にするまでには十分な時間だろう。
懸念点をあげるとするなら、今の私と同じようなことをできる人間がいる可能性だ。
勇者たちの野営演習を襲ったハウンドたちは強く、中には魔物を行使するものもいた。
それに、他国でも魔変鉱をドロップする魔物が出たという話は聞いている。
作った魔物は交配して数を増やすのだろうか?
それとも、何らかの要因でこの地域にも自然に出現するようになったのだろうか?
考えなければいけないことは多い。
私は止まれない。
殺した人間たちの顔が、声が、脳裏にこびりついている。
平気でいられる人間がいるのだろうか?
だが、それでも進まなければならない。
私はシルヴァに、誓った。
神は私を許してくださるだろうか?
最近更新ができず、本当に申し訳ありません。




