準備は大事。
「ただいま。」
静かにカギを開け、俺自身にしか聞こえない声で呟き、静かに外套をかける。
下にはたらいをおいてあるが、水で濡れてしまうのは少しだけ勘弁してほしい。
エレノアは規則正しい寝息を立てている。
俺はしばらく水がしたたり落ちるのを見ていた。
彼らが情報を欲するかはわからないが、栗原たちには情報を渡しておきたい。
カウンターのお姉さんからしたら、なんで銅級のお前が認知されていると思っているんだと思っただろうが...。
あれはミノタウロスではなくホブゴブリンだったのだろうか?
ホブゴブリンはゴブリンが少し進化したような魔物だ。
ゴブリンと一緒にいることが多く、ゴブリンより賢く強いそうだ。
どの程度かはわからないが、もしアレがホブゴブリンであったなら、レアなホブゴブリンに遭遇したのだろう。
ミノタウロスを見たことのあるらしい、栗原たちもミノタウロスだと言っていたところをみると、変異種なのだろう。
あんな変異種が存在するのなら今後はもっと慎重に動く必要があるだろう。
死んでしまっては元も子もないのだ。
気づけば寝ていたようで、エレノアが目の前の椅子にちょこんと座っている。
「お帰りなさい、それからおはようございます、コウタロウ様。」
「おはよう。」
外を見ればかなり暗くなっている。
夕食はまだとれるだろうか?
「ごはん食べに行こうか。」
「はい!」
今日の食事はニコのスープに焼き魚スクランブルエッグにパンだった。
「体調はもういいのか?」
「はい。今日は休ませていただき本当にありがとうございました。」
「全然問題ないよ。」
エレノアは寝るまでずっと笑顔だった。
次の日ダンジョンにもう一度行こうかとも思っていたのだが、あのダンジョンは廃棄されたらしい。
正確には栗原たちが攻略したのだが。
ギルドにいた人たちの話では、この村も人が少なくなるだろうということだった。
勿論周囲にダンジョンはあるが、中堅層の冒険者だけでは人数が集まらず、冒険者に向けたサービスでは立ち行かなくなる店も多くなるだろう。
そうなっていけば、もっと冒険者は寄り付かなくなる。
この村のすぐ近くには大きな森があり、冒険者が多く滞在しなくなると、この村そのものの防衛もしんどくなってくるのではないだろうか?
まあ、だからと言って俺が何かするわけではないのだが。
「今日は物資を買い込んで明日、予定を前倒しして別の村に移動する。エレノアは今日は休みで。」
「しかし昨日も何も...。」
「いいから、この村から離れるからやりたいことやってきなよ。」
大銀貨(10000エン)をなかば無理やり渡す。
必要なアイテムはリストアップしている。
が、持ち物が増えれば増えるほど、動きにくくなる上、所持金も少ない。
まあ、次の村にも初心者向けと言われるダンジョンがあるらしいからそこでレベルをあげつつ少しでも資金を増やしたい。
「あの...。」
「どうした?好きなことしてきていいぞ?」
「そう、ですか。」
どうしたのだろうか?
「ではご一緒させていただいてもいいでしょうか?」
「まあ、いいが、別に楽しくはないぞ?」
「いいえ、楽しいです。」
エレノアはお金を突き返してきた。
「そうか。」
もしかしたら俺は嫌われていないのではないだろうか?
だが、俺がエレノアの立場だったら試されていると思うのではないだろうか?
これ以上言葉を重ねてもエレノアを混乱させるだけだろう。
テントは先日確認したがおそらく問題はない。
次の村まで約9日。
9日でつけても二人で食料は36食分これを持っていくには荷車がいるだろう。
途中で獣を上手く狩れればいいが、まあ9日で餓死はないだろう。
水は俺が死ななければ無限にあるようなものだしな。
食料は6食分持っていく。
一食200エンだから1200エンだ。
それとロープにランタンなんかもあったほうがいいのだろうか?
そもそも前回の移動も何となく来ている。
実際に行ったことのない地域に行くのだから仕方ないが、何が起こるかわからない。
可能なら仲間が欲しいが、迷惑はかけたくない。
安全に野営をするならやはりそれなりには人数が必要だろう。
6人パーティーならかなり安全そうではあるが、6人パーティーならそれだけの利益をあげなければならない。
調理用のナイフと解体用のナイフを買い足しておく。
大銅貨1枚と銅貨5枚(1500エン)だから安いのだろうか?成人男性の一日の稼ぎのほとんどだが...。
元の世界が基準になっているため、いまだに金銭感覚がかみ合わない。
残りの所持金は281543エンだ。
なんだかんだやはり出費が増えている。
ある程度節約するべきだろう。
食料は6食分も買ってしまったのだが。
やはり出費が増えている。




