授業の開始と自己嫌悪
朝食は昨日パーティーを行った場所でバイキングだった。
見たことがない食べ物が並びとてもおいしかった。
まあ、【カズレワの幼虫の蒸し焼き】っていう30cmくらいの幼虫を蒸し焼きにした料理は勘弁だが。
料理人は質の良いカズレワの幼虫を使ったと言っていたが高級なものだったのだろうか…。
きっとこういう食べ物にも慣れていかないといけないんだろうなぁ。
食後暫くして簡易的な授業の説明が行われた。
・モンスターについて
・魔法について
・武術について
・世界のことについて
の大まかに四つでそれぞれ講習と実技があるそうだ。
世界のことについての実技は主にサバイバル術の講習が行われるらしく、2ヶ月はこの四つを行う
そうだ。
七つの部屋が準備され、呼名されて振り分けられた。
木ノ下、宮田、浅沼は3クラス目に、俺は最後のクラスだったことからおそらくステータスの合計
値、又は、スキルの貴重度順だと思われる。ちなみに俺は最後の最後に呼ばれましたよ。
はぁ…。
先生が教室に入ってきた。赤と黒の混じったストレートの髪に鋭い視線と大きな胸。伸びた背筋と鋭い視線が相まってかなり怖い 。
開口一番言い放ったのは、
「あなたたちは一般人と同じか、少し強いくらいでしかありません」
だった。
あなたたち?やはりここにいる奴等は俺と同じくらいのステータス、スキルなのか?
でも俺は最後に呼ばれたしなぁ。
「ですがあなたたちは無限の可能性があります。三度目に召喚された勇者ミヤケ様は召喚時には貴方たちよりステータスが低かったにも関わらず、魔王を討ち倒しました」
「あの~、質問しても良いですか?」
そう間延びした声で聞いたのは伊藤絵莉という子だ。
前髪を斜めで切り揃えたショートボブで活発な子だったと思う。
翔のことが好きだったらしく、関係ないこいつも俺に嫌がらせをしてきていた。
翔と比べればまあ、許容できる範囲の嫌がらせだったが、顔が可愛いだけにそれなりに傷つきました。
「はい、構いませんよ?」
凛然とした態度で返事をする先生。
「私たちより低かったってどのくらい低かったんですか?」
「最初の総合値が75しか無かったと記録されています」
「75!?私だって85あるのに?」
「はい」
俺は伊藤より10以上ステータスが低いのか…
まあ、あの三人は俺の2倍以上あったし伊藤も低い方にはいるのかな?
「総合値85はだいたいこの世界の約LV15の大人くらいの数値です。」
「そのLV15っていうのは?」
「一流の冒険者と言われる人たちがLV40越えることが少ないです。普通の冒険者はLV25程で引退されるかたが多く、貴方のステータスは冒険者ではない一般男性とステータスが同等ということになりますね」
「85もあるってすごすぎじゃん!」
「絵莉マジぱないって!」
伊藤の周りの女子が騒ぎ始める。
伊藤は先生にも物怖じせず次第に空気が弛緩していく。
「はぁ…少し静かに」
凛然とした態度は消え失せ、諦めたように先生が騒いでいる女子たちを優しくたしなめ
「名乗るのが遅れました、アイーネ・ツヴィアです。これから2ヶ月という短い間ですが皆さんに出来る限りのことを教えたいと思っています。どうかこの世界をお救いください。」
先生の目には強い決意のようなものが宿っているように見えたが一瞬でそんな気配は霧散してしまう。
「さあ授業を始めますよ」
行われた授業はゴブリンについての説明だった。
彼らの体躯は小さい子供ほどしかなく、力も弱く頭も良くないが悪知恵が働くこと。
また簡単に頭数が増えることが強調された。
ゴブリンロードやメイジ、キングといった強力な個体もたびたび確認されているため、油断できな
いこと、夜目が聞くことなど…覚えることは様々だった。
他にもなにか言われた気がするが、だいたいこんなところだったと思う。
休憩の時に伊藤等が先生に話しかけており、先生は元々冒険者で後に王国兵になったそうだ。
授業中に時々だが視線が鋭く感じたのは気のせいだろうか。
授業が終わり、あの部屋に戻る。
三人は魔法の講義を受けていたらしくウッキウキだった。
小さな水玉や風を起こしたり、木ノ下にいたっては雷を腕に纏わせていた
「木ノ下殿!?なんですかそれ!?」
ござるをも忘れてただ驚く浅沼。
「おっと、俺に触れたら火傷しちまうぜ」
木ノ下もノリノリだった。
「お前らのクラスはもう全員こんなことができるのか?」
「いや、魔法を一番うまく扱えたのは木ノ下氏で、技巧もち以外は四苦八苦してたンゴねぇ」
「かくいう私も雷以外はまともにできませんでしたし、ですが、スキルがなくても魔法は使えるらしいという情報が手に入りました。」
と木ノ下が言った。
「お前らは技巧を持ってるからじゃないのか?」
「いいえ、うちの講師も境本氏と一緒で王国兵ではありましたが、パッシブスキルやスキルにはない2つの属性が使えるそうで、実際に見せてもらいました。」
「剣に炎と風の属性を纏わせた瞬間凄まじい勢いで炎が溢れだして凄かったンゴ!」
「スキルには無い…か」
「境本氏も地属性だけにとらわれる必要は無いと思うでござるよ」
俺が最低なのは、きっとこういうところなんだと思う。
「ああ、ありがとう」
三人には個性とステータスがあって俺には三人に比べたらなにもない。
酷く空虚で悲しかった。
そしてそういう風に思ってしまう自分のことが何よりも悲しかった。




